第5話

 「……ちゃん、サヨちゃん」


 聞き慣れた母の声で目覚めた少女は、住み慣れたボロアパートの寝室に敷かれた布団の中にいた。


「あれ……お狐さまは?」


 サヨが母に尋くと、


「ああ、怖い夢でも見ていたのね、可哀想に」

 と言って、サヨの髪を優しく撫でた。姿かたちはサヨの母と寸分違わないのだが、まるで別人のように優しかった。


 母の突然の変貌ぶりを見て、サヨは狐につままれたような気持ちになった。


「ねえ、わたし、ずっとここに寝ていたの?」


 確か、昨夜、サヨはアパートから逃げ出し、あてどもなく夜道を彷徨っていた筈だ。


「昨日の夜中、公園で倒れていたのよ。生きていてくれて本当に良かった。今まで、お母さん、サヨちゃんに酷いことたくさんしてごめんね。これからは、心を入れ替えてサヨちゃんのために生きるからね」


 母の目からぽろぽろと涙が零れた。


 母の看病のおかげですっかり元気になったサヨが登校すると、クラスの皆がサヨのところに集まって次々とあたたかい言葉を掛けてきた。その中には、サヨをいじめていた女子たちもいたが、リーダー格の女子の姿だけ見当たらなかったので、その理由を訊いてみると、事故に巻き込まれて死んだのだという。彼女の手下たちは、リーダー格の子に逆らったら自分がターゲットにされると思い仕方なく命令に従っていたのだと言い、サヨに泣いて謝った。


 あの日の夜の出来事は夢ではなかったのだとサヨは確信した。願いを叶えてくれた白いお狐さまに、サヨは心から感謝し、契約成立の証である「鍵」をお守り袋に入れて肌身離さず持ち歩いた。

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