名探偵の秘密

凪野 晴

名探偵の秘密

 謎、秘密、隠し事、陰謀、それらを解き明かすのが探偵。闇に隠れ、陰に潜み、夜に沈むそれらを白日の元に連れ出すのが探偵だ。


 私、霧夜灯花きりやとうかはその探偵なのだ。

 より正確に言うと、「名探偵」だ。


 密室殺人の解決、アリバイ崩し、誘拐事件の解決、暗号解読、要人の警護や救出、爆弾解体、秘宝の奪還、テロ防止、非合法組織の解体など、あらゆることに実績を上げてきた。


 時に事件が起きる前に解決していることもある。


 もちろん、無くしものを探すことやペットの捜索、浮気調査なども得意だ。


 それでいて、自分でいうのもおかしいかもしれないが、美人でスタイルも良い。多少、武術を嗜みつつも、探偵と言えば博識なわけ。大学はサボり気味だったのに首席卒。二十代という若さもある。


 完璧に見られる私だか……苦手なのは料理。


 「殺人的な腕前だ」と言われる。


 それを口にした犯人が犯行を自白したほどだ。


 その時、同伴していた刑事さんに「殺人未遂だったかもしれません。もう一つ殺人事件が起きるところでした」と言われたのは、本当に納得いかない。



 それから、私には天運がある。どんなにピンチだろうと、不可能に思える完全犯罪が目の前に現れようと、解決してきた。



 うまくいかないのは、悲しいかな恋愛のみ。


 事件に首を突っ込んでくるジャーナリストのイケメン君と、いつもいい感じのところまではいくのだ。でも、進展しない。なぜだ!



 なお、私立探偵としては大成功したと思う。稼いだお金を元手にしっかり運用し、資産形成も順調だ。探偵業から足を洗いたいとも思っている。



 もう何度も悪事を暴き、悪人を捕まえてきた。ちょっと飽きてきている。でも、事件に遭遇する確率は、呆れるほど高い。


 あるベテラン警部には、「霧夜さんは死神かね」と言われたことがある。心外だ。


 事件が起きてから、殺人が起きてから、駆けつけることも多いのだ。死神は殺人犯だろう。私はやっていない。


 絶海の孤島や雪山の山荘という限定的な特殊条件下で、連続殺人に遭遇はしてきたけれど。まぁ、たまたま何回も。一般人よりはちょっと不運かなくらいに前向きに捉えている。


 そう言えば、旅行に行くと、なぜか泊まった先で事件が起こる。いつも即解決して、感謝され、宿泊代が免除される。


 その話を友人にすると羨ましがられるが、「じゃ、一緒に行く?」と聞くと全力で拒否される。ひどい話だ。



 ゆっくりと流れる月日の中で、私はたくさんの事件を解決してきた。私の住む大神町は異常なほど犯罪発生率が高く、同時に解決率も異常に高い。


 私がいるから。



 そろそろ賢明な読者の皆様は、お気づきだろう。


 そう。


 私は、とある一流ミステリー作家が生み出した名探偵・霧夜灯花きりやとうか


 シリーズが続く限り、どんな難事件だろうと解決し、若くてイケてる美女のまま、イケメンのジャーナリスト君とは縮まぬ恋路を行くのだ。


 料理が上手くなることは、もちろん絶望的だ。


 それが名探偵の秘密。


 内緒にしておいてね。

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