宇宙人が落とした靴をめぐる話

ろくろわ

あっと流れる流れ星。落ちた先に靴が鳴る!

 今年は数十年ぶりに流星が見えると多くの人達が夜空を見上げていた。

 メアリーもその一人だった。父親のハンスは有名な宇宙学者だった事もあり、メアリーが星や宇宙の事を好きになるのにおかしな事はなかった。


「ほらメアリー、そろそろ時間だ。夜空を見てごらん」


 ハンスが指差す先には夜空に光の線を描く、沢山の流星が流れていた。


「わぁパパ!すごいすごい!ねぇ見てみて!あの流れ星は随分と光っているよ」


 今度はハンスがメアリーの指差す方をみた。そこには随分と大きな光を出しながら地表に向かって落ちてくる流れ星があった。


「メアリー!隠れろ!あれは隕石だ」


 赤く燃え上がる星はメアリー達の少し離れたところに落ちた。

 幸いな事に地表に落ちた割には被害が少なかった。ハンスはメアリーの手を繋ぐと、直ぐに車で隕石の落下地点へと向かった。宇宙学者のハンスにとって、またとないチャンスであった。

 だが事態はハンスの想像するよりも、ずっと複雑な問題があった。


 一つは飛来物が落ちた場所。そこは丁度隣国との国境の上であった。

 そしてもう一つ。これが一番の問題であった。宇宙から落ちてきた飛来物。それは明らかに『靴』だったのだ。

 サイズは二十センチ位だろうか。やや小さいサイズだが、それは間違いなく可愛らしい靴だった。ハンスが靴をじっくり見るために近づく事は隣国からの声によって制止された。


「お前達!そこで何をしているか!」

「いや、先の隕石を見ていたのだがどうやらだったらしい」

「何を言っているんだ。靴な訳が無いだろう!ってあぁ、靴だな」


 この後の事はハンスにも容易に想像が出来た。

 それは、隣国と靴の所有権をめぐる争いだ。先の戦いで武力による争いは無くなり、ディスカッションで争うことになったのが唯一の救いだ。

 果てしてこれは本当に靴なのか。そして誰の靴なのか。

 多くの目撃者が宇宙から燃えながら落ちてきたのを見ていた。にも関わらずその可愛らしいメタリックの靴には傷一つ無く、しっかりしている割に柔軟性にも富んでいる、まさにオーバーテクノロジーと呼ぶに相応しいものだった。また靴が落ちた頃より、落下付近で小型のUFOや宇宙人の姿も目撃されるようになった事から、あの靴は宇宙人が落とした靴と言うことになり、益々隣国との言い争いは激しさを増していた。


「見たまえ、この素材を!どんな金属が使われているかまるで分からん。自国で調査すべきだ」

「いやいや、この靴にはすごい価値がある!その価値が分かるのはうちの国だ」

「いやいや!」

「いやいや!!」


 話し合いは三日三晩続いたが、埒があかなかった。


 そんな争いを止めたのはメアリーだった。


「ねぇ皆。早く靴を返してあげようよ。靴の持ち主の小さい子が泣いちゃってるよ」


 ハンスはメアリーに訊ねた。


「なぁメアリー。どうして靴の持ち主が小さい子で泣いてると思ったんだ?」


 メアリーはキョトンとした顔で答えた。


「だって靴の後ろに名前とクラスが書いてあるでしょ?それに落としたものをずっと探しに親宇宙人が来ているんだったら、それはきっと大切なものなんでしょ?」


 メアリーのその言葉に人々はハッとした。

 そうだった。これは宇宙人が落とした靴だった。私達はその事を忘れ、未知なる素材の価値やその希少性にだけ囚われていた。でも落とし主はきっとずっと靴を探しているはず。

 確かに靴を良く見てみると靴の踵のところには、明らかに文明のレベルには合わない拙い記号が書いてあり、名前にもクラスにも見えるものであった。


 隣国と自国の偉い方達は話し合い、地球の方法で靴を返すことにした。



 翌日、プールや施設の忘れ物入れのように箱に入った靴が落下地点に置いてあった。

 空からゆっくり近づいてくるUFOから二人の大人と小さい子供の宇宙人が降りてきて、嬉しそうに靴を持ち上げ履くとカンカンと靴を鳴らした。

 そんな姿をメアリーもハンスも隣国の偉い方も自国の偉い方も皆、その靴の行方を見守っていた。


 宇宙人の落とした靴は、皆の心にカンカンと気持ちの良い音を届け素材以上の幸せを届けてくれたのだった。




 了

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