秘密ね。

銀色小鳩

秘密ね。

 百合小説なんかをネットに上げて、好きだった同性の話なんかを書いたりしていると、夫にはほとんど秘密にしているんだろう、と思われるかもしれない。

 敢えて言っていないことも、あることはあるけれど……。

 たぶん、周りが思う以上に、夫に話していると思う。


 例えば、私はこの前、高校の時に好きだった女の子を含めたグループで集まることを提案した。それが今週末にあるわけなんだけれど。


「そういえば、部活仲間で集まろうって誘った中に、高校の時好きだった子もいるけど。嫌だった?」

 などと、わざわざ言わんでもいいことを、夫に言ったりする。


「いいんじゃない? 俺が昔好きだった子がいる同窓会とか行ったらヤダ?」

 と、彼は返してくる。


 うーん。確かに、イヤっていうほどイヤではないな。

 信頼しているからというよりは、ソコには、なんていうか……色々話も聞いてるし、未来がなさそうだなっていう。


 だいぶ昔、元カノの家に連れていかれた事があったと思う。それも別にイヤではなかった。彼は付き合っていた彼女を親友に取られるという悲しい恋をしたわけだが、その親友夫婦に私を会わせたわけだ。

 これから恋が始まりそうだったら流石に嫌だが、そうでないなら夫が好きだった子に久々に会って、ああやっぱり好きだなぁと感じる、そのぐらいはまぁ、別に良い。

(男女で、一対一で、ホテルとか行かれたらさすがに嫌だよ)


 たぶん夫も、私が高校の時に好きだった子と会ったところで、なんにもならないことをわかっているので、止めないのだと思う(勘違いにせよ、なんかになりそうだと思ったときには相手が男か女かに関わらず、ちゃんと止めてくれているし……)。


 この流れで、

「どういうことしたら、浮気になる?」

 と聞いたところ、

「Xで、恋文を送ったら」

 という返事だった。


 なんでも、思ってるだけなら良いが、恋文を書くのはダメなんだそうだ。本人に届かなくても、呟くのもダメだそうな。


 ……?


 恋文? 恋文! コイブミ……!

 えらい古風な言い方だな、恋文って。


 一応私は、百合カフェに行くときなども「百合カフェに行く」と宣言して行っていて、LGBTQ系のボランティアやトーク会のようなものに行くときにも、夫に言うようにしている。


「俺の許可要らないでしょ? 行っておいでよ」

 と言ってくれるのだけど、そこは、黙って行かれたらイヤかな? という気がして、言う。変なのかもしれないけど。


 そんな私が、夫に言っていないことは……。


「好きな男性に対するときと、好きな女性に対するときで、実はアプローチの仕方がかなり違う」

 ことである。


「なかなか自分からは追いかけられないんだよね」


 夫に、言った。付き合うか付き合わないかぐらいの頃。

 自分からは追いかけない、と。

 追いかけて貰えなかったらどうするか? 追わないので、そこでサヨナラになる。


「もったいない……」と言われた。自分から行けば実るものもあるかもしれないのに、と。

 恐らく、「誰に対しても、自分からは追いかけない人だ」と思っているんだろう。これは、完全に間違いだ。私は、女性が相手だと、自分から行くことが多い。

 男性のことは追いかけるほど好きにならない、というのではない。正直私は夫が一番好きだ。

 相手を見て決めてる。

 相手が男性だと、どうも、自分の性質として、追いかけてもらったほうが円満な恋愛になる場合が多いので、

「追いかけられない人間なので、よろしくね」

 と宣言して、夫に追いかけて貰ってるわけだ。


 夫は、私を追いかけてくれている時の方が、健康そうで、幸せそうで、楽しそうだ。

 そういう相手がパートナーになりそうだったら、私は喜んで追いかけられる側に回る。追いかけるタイプの人が追いかけてくれなかったら諦めるというのも、嘘でもない。たぶん、私は、男性は追いかけてもあまり喜んでくれない人が多いな、と感じているのだ。

 女性でも、追いかけるほうが好きな相手なら、なるべく追いかけないようにするし、追いかけたほうがうまくいきそうな感じの人が相手だと、「愛してる!」とか自分から言ったりする。


 要は、追いかけられないというより、追いかけるとうまくいかなさそうだと思った場合に、追いかけないようにコントロールしているだけである。

 それで二人とも幸せになれるんだったら、いくらでも駆け引きする。追いかけるほうが幸せな人と、追いかけられるほうが幸せな人、両方いるもの。


 追いかけるのが向いている人は、追いかけられていると、最初は少し嬉しくても、だんだんぐんにゃりしてきて甘いものを食べすぎて胃もたれしたような表情になってくる。メンタル的に不健康な感じになる。追いかけ始めると生き生きする。

 逆に、追いかけるのが苦手な人は、最初は楽しくときめいて追いかけていても、そのうち息切れしてきて、ドロドロした目をし始める。


 私の中で、夫は、追いかけているほうが精神的に健康でいられる人間に見えている。「あなた追いかけるほうが向いてそうだから、なるべく追いかけないようにしてるよ」とは言わないけど。

 本当は、私の愛情、飲み込もうとしたら胃もたれするほど重いからね。


 秘密ね。

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