テレワークするネコ

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

ただいま、テレワーク中ニャ

 ボクは、布団の中で見てしまった。

 

 ウチのネコである「ミカン」が、ノートPCを開けているのを。


 小学校で話しても、誰も信じてくれないんだろうな。


「社長。たった今、会社のリモートページに飛んだニャ。確認してくれニャー」


 馴れ馴れしく、ミカンが社長なる人物に語りかけている。


「ご苦労さまニャン」


 社長なる人物の顔が、わずかに見えた。


 通話の相手も、ネコみたいだ。


 あのネコ、八百屋さんのブルちゃんじゃないか。


 デブネコで、とてもデジタル機器なんか触る柄じゃないのに。

 むしろ店長が会計処理しているとき、しょっちゅうキーボードを触る店主の手の甲に乗っかって迷惑しているって。


「それで、手はずはどうニャンか?」


「ふむ。保護猫のミドリちゃんが、無事にもらわれたニャン。引き取ったのは小学生の女の子で、ミドリちゃんともどもかわいいニャン」


「よかったニャン。ミドリちゃんは小さいのに捨てられて、かわいそうだったニャン」


 祐香ちゃんのことだな。

 ボクが保護猫に関して話してたら、ぜひもらいたいって言ってくれたし。

 あそこはマンションじゃなくて一軒家だから、ペット関係にうるさくない。管理に関しても、問題ないだろう。


「あと、三丁目のカツオブシが一〇円安かったニャン」


「その情報助かるニャン。今度みんなで、偵察に行くニャン」


「はいニャン。我ら化け猫界でも、あそこはひいきにするニャン」


 化け猫!?


 うちのミカンって妖怪だったの?


「まさかご主人が留守の間にバイトして、カツオブシを買っているなんて思っていないニャン」


「近所の人にも、見られていないニャン」


「いいニャン。いつかニンゲンに取って代わる日も近いニャン」


「でも、ニンゲンにはあのまま発展しててほしいニャン。でないと、アタシたちがもっと働かなきゃいけなくなるニャン」


「たしかに、お店番はつらいニャン。ずっと座っているだけってのも、退屈ニャンよ。もっとお散歩……いや、通勤したいニャン」


 ネコって、飼い主に黙ってこっそりと辺りを巡回すると、聞いたことがある。

 あれって、通勤だったのか。

 

「こんばんはニャー」


 ノートPCの画面に新しいウィンドウが開き、白い子猫が顔を出す。

 

「こんばんは、ミドリちゃん」


「あのね、今日は、身体を洗ってもらったニャー」


「お水は怖くなかったニャン? アタシのときはめちゃ暴れ回ったニャン」


「耳を大事にしてくれたから、安心したニャー。これで明日から、エステサロンで働くニャー」


 猫同士は、身体をもみ合う時がある。

 あれが、エステなのかも?


「働き口が見つかってよかったニャン」


「もうひもじい思いをしなくて済むニャー。じゃあ、明日に備えて寝るニャー」


 今日は無事の確認だけだったみたいで、ミドリちゃんはすぐにオフになった。


 それを合図に、二人も落ちる。


 ボクも、ミカンに感づかれないように眠った。


 ミカンがボクの布団に入ってくる。


 ゴロゴロとノドを鳴らすふりをして、ミカンが語りかけてきた。

 

「ご主人がネコ語を理解できるのは、アタシとご主人だけの秘密ニャン」

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