第3話

 私、山野洋子は、実は人間じゃない。

 狐。それも、人間に化ける力を持った妖怪狐だ。

 要は、昔話とかにもよく出てくるアレ。


 ちなみに、人間に化けてた時に着ていた服は、人間と狐の姿を切り替える度に、出てきたりなくなったりするんだよ。

 だから、今から人間に化けても、裸の女の子が現れるってことにはならないから。


 それはさておき、私たち狐の一族は、昔話と違って無闇やたらに人間に迷惑なんてかけたりしない。

 むしろできることなら仲良くしたいって思ってて、化けるのがうまい狐は、完全に一人の人間として、人間社会で生活を送ることもある。

 私が学校に通っているのもそう。


 小さい頃から人間の生活に憧れてた私は、必死で化ける練習をして、見事化け方一級免許を習得。


 人間の高校生として青春を謳歌していたんだけど、そこで問題発生。

 実は私の化ける力、すっごく感情が高ぶっていっぱいいっぱいになったら、自分の意志とは関係なくとけちゃうの。


 さっきは、ついに水島くんとキス!? キャーッ!キャーッ!どうしよう! 大人の階段上っちゃうーっ! って思ったところで、感情が高ぶりすぎて変身が解けそうになっちゃった。


 私が狐だってのは、水島くんにも秘密。

 人間に正体を知られたら知ったら、人間のフリをして生活するのはお終いってのが、私たち狐族の掟。

 なにより、水島くんをビックリさせる。最悪の場合、得体の知れないやつとは恋人になんてなれないって、フラれちゃうかも。

 そんなの絶対イヤーっ!


 だから、変身が解けそうになってすぐに逃げ出して、誰もいないこんなところで狐の姿に戻ったの。


「絶対に、バレちゃダメ」


 水島くんだけじゃない。狐として生きてきて、いつか人間の世界で生活してみたいなって思ってた私にとって、学校での日々は何もかもが新鮮で楽しい。


 さっき水島くんは、私のこといつも一生懸命だって言ってくれたけど、その理由も多分それ。

 人間の世界に行ってよかったって、心から思ってる。

 だから、この日々を絶対に手離したくない。


 なのに、最近こんな風に、急に化けるのが解ける時がある。

 原因は、ぜーんぶ水島くん。かっこいい水島くんにキュンとしたり、いい雰囲気になってときめいたりすると、感情が高ぶりすぎて化けるのを維持できなくなるの。


 普通は、そう簡単に変身が解除されることはないんだよ。

 化け方一級免許の試験でも、ちゃんとそういうのはチェックされる。


 だけど水島くんへのトキメキは、試験の合格ラインを軽々超えていくの!


 その度に、今みたいにあれこれ理由をつけて逃げ出すんだけど、おかげで未だキスもできず。


 逃げ出す理由も雑になってるし、いい加減水島くんも変に思ってるかも。


「もしそれで嫌われたらどうしよう。けどバレたら、それはそれで嫌われるかもしれないし、学校にも通えなくなる。好きな人と一緒にいるってすっごく幸せなはずなのに、私にとって最大の試練になっちゃってるよーっ!」


 私、このままずっと水島くんに、狐だってこと秘密にできるかな?

 キスとかムードたっぷりのデートとか、できるのかな?


 狐の恋と青春は、前途多難です。

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