バレちゃダメ! 恋する狐の隠しごと?

無月兄

第1話

 私、山野洋子。16歳の高校一年生。ただいま青春真っ盛り。


 中でも今日は、いつも以上に力溢れる日。体育祭の当日なの。

 すでにほとんどの競技は終わっていて、今は最後の種目であるクラス対抗リレーの最中。


 うちのクラス、こういう時の団結力は強くて、みんな大声で代表のランナーに声援を送っていた。


 そのランナーっていうのが、なにを隠そうこの私。運動は得意なの!


 二位でバトンを受け取ると、その瞬間全力ダッシュ。前を走っている一人を抜き去り、一位に躍り出る。

 その瞬間、一際声援が大きくなった。


 残るランナーはあと二人。このまま一位でバトンを渡せれば、クラスの優勝にグッと近づく。

 一層気合を入れて足を動かそうとしたその時だった。


「うわっ!」


 入れた気合が空回りしたのか、足がもつれて大きくよろける。

 体勢を立て直そうとしたけど遅かった。

 私は、地面に向かって派手に転倒してしまった。


「いたたたた……」


 に、人間の足が二足歩行なのがいけないんだ。

 四足歩行なら、ちょっとくらい足がもつれても、安定感があるから転んだりしない。


 けど、そんなこと考えてる場合じゃなかった。

 私が起き上がるまでの間に、すぐ隣を、ひとりまたひとりと、ランナーが駆け抜けていく。

 あっという間に、ビリになってしまった。


「いけない! 」


 慌てて起き上がって走り出したのはいいけど、結局順位は変わらず、ビリのままで次の走者にバトンを繋ぐ。


 私の出番は、これで終わり。あとは走っている人の応援をするべきなんだけど、出てきた言葉はこれだった。


「みんな、ごめん!」


 せっかく、今まで走ってきたみんなが頑張ったおかげで一位争いしてたのに、私が転んだせいでビリになった。

 悔しさと申し訳なさでいっぱいで、謝る以外の言葉が出てこない。


「本当に、ごめん」


 もう一度謝って、頭を下げる。


 リレーはまだ続いていて、私からバトンを受け取った子が走ってるけど、順位は変わらないまま。つまり、ビリのまま。

 その次はアンカーだし、ここから逆転は難しい。

 私が転ばなかったら……


 だけどその時、下げたままの私の頭を、誰かがポンと軽く撫でた。


「山野さん。それより、ケガはありませんか?」

「水野くん……」


 頭を撫でて声をかけてくれたのは、クラスメイトの水島瞬くん。

 透き通るような肌に整った顔立ちから、男の子だけど美人って言葉が良く似合う。


 いつも真面目で礼儀正しく、誰に対しても敬語。それでいて気さくで人当たりのいい性格から、クラスの中心になっている、そんな子だった。


「大丈夫ですよ。山野さんを嫌な気持ちのままで終わらせはしませんから」

「えっ……?」

「彼女を落ち込ませたままなんて、彼氏失格でしょう」


 そこまで言うと、水島くんは次の走者が待機しているレーンに入っていく。

 私達のクラスの次の走者は、つまりアンカーは、水島くんだった。


 そしてそして、実は水島くん、私の彼氏なの。


 他の走者が次々にバトンを受け取り走っていき、ようやく水島くんにもバトンが渡る。

 水島くんは、ほんの一瞬私の方を見て、それから一目散に走り出す。


 順位はビリのままで、うちのクラス以外、誰も注目なんてしていない。

 だけどすぐに、その場の空気が変わった。


「水島くん、すごい!」


 前を走る選手たちを、あっという間に追い抜いていく。

 まだまだ先頭のランナーとの距離はあるけど、その差は確実に縮まっている。

 さらに、アンカーが走る距離は他の走者よりも一周分長い。

 もしかしたら、逆転も有り得るんじゃないか。見ている人みんながそう思った。


 そして私はそんな水島くんに、大好きな彼氏に向かって、思いっきり叫んだ。


「水島くん、頑張ってーっ!」


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