第11話 裏切りもの


「オマエ、シグルズ!」

 そうシグを見たレギンは、シグルズと恨みのこもった声で言う。

「いや俺は、シグだよ。シグルズの血を「うるさい!」」

! ファフニールを誑かしたんだな!?」

 レギンの叫び声と共に、烈火のように周囲に魔力が広がった。

『面倒だな、逃げるぞシグ』

「なんでこんなに怒ってるんだよ、ファフニールっ!」

 レギンの纏う魔力に、攻撃を察知したファフニールが、シグにそう声をかけ、シグは慌てて走り出した。

『……あのクソ親父も心臓を取られた古き竜の一匹だ。その頃には、レギンの奴は生まれていたからな』

『まさか、彼奴がオマエとシグルズを間違えるとはな』

 そうシグを先導するように人の波を飛ぶファフニールが、驚いたようにシグに話す。

『ここは森緑竜の領域だからな、あやつも下手に動くまい。人間の多い場所にいって紛れ込むぞ』

「見逃すと思ってるの?」

 そう背後から聞こえ、翼をはためかせシグたちを追ってきたレギンの、青い火球がシグに迫ってくると、ファフニールの炎がその火球を相殺した。

 大通りで起こったその竜同士の戦いに、周囲の人間は蜘蛛の子散らすように周りから逃げていく。

「ファフニール! なんで邪魔するの!」

「オマエも、心臓を取られて言いなりになってるんじゃないのか!」

 シグを守ろうとするファフニールに、レギンはそう決めつけて言うが。

『だから我は、自分の意思で契約したと言っておろうが!』

 ファフニールのその答えに、傷ついたような顔をしたレギンが、ファフニールに決別の言葉を言った。

「ッこの裏切りもの! オマエなんか!」


「シグルズ共々ぼくたちの前から燃えて消えろ!!」


 そう周りも巻き込むような魔力の膨らみに、シグだけを守るように、ファフニールが飛び出そうとするが、彼らを巻き込むように薄紫の煙が吹き出した。


『なんだこの煙は』

「――なぁ、あの竜に困ってるんだよな」

 そう煙の中。シグたちの後方から男の声がする。

「え、あ、はい」

 シグがそう素直に答えると、声はかすかに笑うような声はした後。

「それじゃあ、こっちだな。あれだけ癇癪起こしてても見失っては、無差別に攻撃はしないはずだ」

 男はそう言うと、シグたちを手招きしシグたちは男の案内の元、煙の中を進んで行った。



 突如吹き出した煙幕に、レギンは攻撃を止め、標的であるシグルズをその眼で探す。

「そんな目隠しでぼくたちの眼から逃げれると――ッ!?」

 竜のまなこは、魔力を見る。

 例え、視界が遮られたとしても、その生き物が持つ魔力で持ってそのモノを認識するが故に、ただの煙幕は、通用しない

 新たに増えた魔力の塊が、レギンと目を合わせた瞬間。

 レギンの体は、ぐらついた。

「ぐッ!? オマエ!」

 肉体が上手く動かなくなり、揺れる視界に憎らしげに呟きその中でもシグルズを探そうと見渡す。

 だがしかし、既に視界内には何も見当たらない。

 硬直が解け、翼で煙をはらい、シグルズの魔力を探す。

 だが、そこには何もいなかった。

「――クソ!」

 そうレギンは顔を歪めて呟き、炎王竜の元へと飛び去った。

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シグルズの指輪〜竜殺しの子孫と欠けた竜が巡る、人間と竜のお話〜 芦屋秀次 @syuugi

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