第10話 蒼炎たる竜


 翌日の早朝。

 物をまとめたシグとファフニールは、宿から出て海紺竜かいこんりゅうの領域近くにある港町へと目標を定める。


『シグ! あの出店はなんだ』

 そう昨日の出来事があってか、距離が近づいたファフニールが、シグの肩に乗って向かうように急かす。

「出発するんじゃ無かったのか?」

『まずは腹ごしらえだろう!』

 シグは、重心がファフニールの重さによって出店に体が傾く。

「おう、らっしゃい。飛竜なんて連れて珍しいな」

『そこのリンゴは、美味いぞ』

 そう店主には、ファフニールの声が聞こえないのか、シグに赤いヘタのついた果実を尾で示す。

「え? あ、はい。それじゃあ、そのリンゴ? 三つください」

「はいよ、銀貨三枚だ。ボウズは、細いからな持ってきな」

 そう店主がシグから銀貨をもらうとリンゴが、五つは入った紙袋を渡した。

「……その飛竜、怖くないんですか?」

 シグは、そのファフニールを気にしていない様子の店主にそう恐る恐る聞いた。

「ああ? お前、オリュンピアの方からきたのか? あそこの国は、おっかねぇ竜人様がいるからなぁ」

「ここいらは、世界樹の竜様から知識を授かって栄えたんだと、物珍しいとは思うが、気にはしねぇよ」

「そう、ですか。ありがとうございます」

 そう村とは違う対応を取られ、自分とファフニールを心配する店主に、言葉を詰まらせながら礼を言って立ち去った。


「ファフニール」

『んぐ……なんだ、シグ』

 リンゴを食べていたファフニールが、シグの方へと視線を向ける。

「俺、森緑竜の心臓をちゃんと返したいよ」

『うむ、そうだな』

 そう森緑竜の心臓を返す決意を新たに決めたシグに、ファフニールは、そう答えた。



 そんな二人の上空。

 朝日を遮るように影がさす。

「懐かしい気配が近くですると思ったら、?」

 そうシグたちを小馬鹿にしたような声が彼らの上空から降り注ぐ。


「――ファフニール?」


 そうファフニールと呼んだ声に、ファフニールは苦虫を噛み潰したような唸り声をあげ、声の主を見ようとシグも視線を上にする。


 シグたちを空から見下ろすのは、その青い髪を短く切りそろえ、竜のような鋭い赤い目を細め、ファフニールを馬鹿にするような表情をした青年が、空に浮いてた。

「……人?」

『違う。あれは、

 その青い髪の青年は、シグの前に降り立つとファフニールを指差しこう言った。

「なぁんだ、百年前のこと謝りに森緑竜の所に泣きついてきたと思ったら、人間なんかに使役されてるんだ?」

『ふん、使役されてるのではない。我が、譲歩して契約したまでだ――レギン』

 そうレギンと呼ばれた青年は、瞼をぴくりと動かした。

「ぼくたちを呼ぶ時は、蒼炎竜そうえんりゅうって言ったよな?」

 レギンの小馬鹿にした態度が消え、竜の持つ威圧感がファフニールへと向けられる。

「オマエのこと、まだ許してないんだぞ? お父さんが捨ておけ、なんて言わなかったら、オマエのことなんて――」

「アンタが、ファフニールのきょうだいなのか?」

 そうレギンの言葉に遮るように、シグはレギンとファフニールの関係性を確認するように割り込んだ。


「は?」


「オマエ、人間の癖に何? それにぼくたち、は……」

 話を遮られたレギンは、シグに唖然としたがすぐに嫌悪感を隠さない表情で、シグを、ファフニールを従える人間を初めて認識した。


「――オマエは、ッ!!」

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