とろとろ。

珠邑ミト

とろとろ。



 そう、第一印象は、「ああ、なんてキレイな子なんだ」だったんですよ。


 プラチナブロンドの巻き毛に、同じ色の睫毛まつげが、まるで、けぶるように、バサバサとしていて、エメラルド色の瞳に、影をさしていたんです。まっ白な肌は、皮をむいたばかりのライチのように、ぷりぷりと瑞々みずみずしかった。哀愁ただよう風情ふぜい、とでも、いうのでしょうか? ああいうの。


 そう、彼女はね、異世界から召喚された、聖女様だったんです。


 ただね、まずいなとも思いました。

 だってこれ、完成しちゃってるんですもん。

 さんすくみが。


 あ、申し遅れました。僕も異世界からやってきた人間で、関といいます。

 あちらでは理科の教師をやっていました。


 ええとですね、こちらの世界は、なんといいますか、僕があちらで見聞きしていた、転位とか転生とかがされる異世界とは、ちょっと違っていましてですね。爬虫類や、甲虫や、動物が、さも人間のごとく地上や水中で統治をおこなっているのですよ。

 異世界ファンタジーというか、童話の世界ですね。

 アンデルセンとか、ペローが書いていたような、ああいうね。


 でですね。


 僕が転位させられた国は、明らかに『カエルの王様』がベースになっていて、摩訶不思議な力をもつゴールデンボールというものが存在してまして、これを所持しているカエル一族が権勢をふるっています。

 で、かつていろいろあって、下男の身におとされたヘビの一族の末裔なんかが、王城で掃除夫をしていたりするんですが、そういうのが成立している世界です。あ、サイズは人間大くらいになっているとご想像くださいね。

 まあ、このカエル一族、決して品行は正しくないのですが(特にいまのケグリン王子が)、めずらかなる僕のような転位者を邪険にはせず、おもしろがって身近にとりたてて下さるので、生活には困っていませんでした。


 召喚の儀の場に同席していた僕は(ああ、僕王子様のおきにいりなんです。……察してください)、召喚された聖女様を見た瞬間に、「あ、これはあかん」となったのです。そして、たまたま掃除中で同じ間にいたヘビの顔色が変わるのを、みてしまいました。


 あ、これは勃発するなと。直感しましたよね。


 案の定、後日、ヘビは聖女様を腹にいれて、誘拐というか、助け出した。これを王子が取り戻すために飛び出していった。


 ああ、これは終わりだなと。

 やっと自由になれると。

 そう思いました。


 ああ、さんすくみって、ご存知ですか?


 ヘビはカエルより強く、カエルはナメクジより強く、ナメクジはヘビよりも強い。っていう、あれ。

 


 そう。聖女様は、海藻ナメクジだったのです。



 ヘビは、ナメクジの体液でとかされるっていうあの話、生物学上では否定されてるんですけど、ここ異世界のファンタジーの世界みたいだからなぁ。

 ナメクジの聖女を口のなかにいれちゃって、あのヘビ、無事でいられるのかしら?



 まあ、もう僕には関係ないんですけどね。

 せっかくだから、ゴールデンボールをいただいて、このすきに高跳びしようと思います。


 あ、このこと、くれぐれも、秘密でお願いしますね。

 では、失礼します。



                          (了)















 

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