第2話
3 奴隷を買うことにしました
(困りました……誰もパーティを組んでくださらないなんて……)
カロリーネは困り果てていた。
酒場で仲間を募ってみたものの、誰もパーティを組んでくれなかったのだ。興味を持ってくれる人は何人かいたが、カロリーネの能力が『アイテム生成』だと知ると、「けっ、外れスキルじゃねーか!!」と去って行ってしまう。
これではダンジョンに潜ることができない。――伯爵令嬢として失格だ。
(私1人では戦うことができません……。どうしましょう)
彼女が困り果てて、街をさ迷っている時だった。
「お嬢ちゃん……お買い得商品があるんだけど、どうだい?」
カロリーネに声をかけて来たのは、見るからに怪しい風体の男だった。
「お買い得商品とは、どのようなものでしょうか?」
「へっへっへ……あんた、見たところ、いいとこのお嬢様で冒険者だろう? 冒険のお供に最適な一品を紹介してやるよ」
その男に連れられて、カロリーネは裏道へと入る。
たどり着いたのは、奴隷市場だった。檻の中にいるのは、鎖をかけられた人間だ。カロリーネはその光景に絶句する。
「こ、ここは……!?」
「どうだい? 強そうなのがいっぱいいるだろう? 1人どうだい? そいつなんて最近、入ってきたばかりでオススメだよ」
商人に促され、カロリーネはそちらを見る。奥の檻に収監されていたのは、何と――
「こ……公爵様!? どうして、こんなところに……!!」
+ + + + +
「いや、本当、どうしてだよ……!! どうしよう……いい言い訳が思いつかない……。公爵が道を歩いていたら、何か捕まって売り飛ばされて奴隷になってた、とかでいいかな?」
美希は頭を悩ませていた。
公爵家の男がいきなり奴隷になるのは無理があるのでは? と、今さらながら気付いた。
他にも考えなければいけないことがたくさんある。仲間の設定、カロリーネの能力の設定、元婚約者や妹の処遇など……。
考えれば考えるほど難しくなってくる。
美希はここにきて、気付き始めていた。
――『小説家になろうぜ!』で小説を連載するのって、とてつもなく難しいのでは……?
それでも美希は書き続けた。
学校から帰ればひたすらスマホで文字を入力する。1日1ページ、必ずupするように心がけた。
+ + + + +
53 ワガママな妹にわからせます!
「どうして! お姉さまのレベルが9999になってる! どういうことなの!?」
「実は私の『アイテム生成』スキルは、レベルアップアイテムを量産できるのです」
「そんな……ずるい! お姉さまばっかり……ずるいわ!」
カロリーネの眼前で妹が泣き喚く。その姿が突然、ぐにゃりと歪んだ。カロリーネはハッとして、
「いけない、このままじゃあなたは……!」
「うるさい……うるさいうるさいうるさあああい!」
妹は全身が泥のように溶け出していく。その姿が突然、肥大化し、彼女はモンスターへと変わり果てた!
「お姉さまばっかりいいいい! ずーるーいーわー!」
+ + + + +
こうしてモンスター化した妹は、カロリーネのチート能力で撃退された。
+ + + + +
73 「君との方が真実の愛!」と言われても、もう遅いです!
「カロリーネ……私は気付いたんだ」
「嫌です」
「やはり君との方が」
「嫌です」
「私は君の妹にたぶらかされ」
「嫌です」
カロリーネのにべのない対応に、ルーカスは切れた。彼の体がぐにゃりと歪んでいく。
「私は気付いたんだ、カロリーネ! 君との方が、真実のーあーいーであーるーとー!」
「ルーカス様……」
カロリーネはモンスターと化したルーカスに無防備に近づいて行く。
周囲にいた冒険者たちは、一斉に青ざめた。
「危ない! あのモンスターはランクSS級だ! 死ぬぞ!」
カロリーネは構わず、ルーカスの前に立つ。
そして、
「前からルーカス様に申し上げたいことがありました」
さっと手を振りかぶると、
「私の幸せは、私が決めます!!」
ただのビンタ――レベル9999アタック!
「ぶるぁあああ!」
ルーカスは一撃で吹き飛んで、倒れた。
周りはそのすさまじい威力に唖然としている。
「え……何だ、あのお嬢様」
「ただ者じゃねえ……」
ざわつく周囲。
カロリーネは振り向いて、にっこりとほほ笑んだ。
「え……私、今、何かやっちゃいましたか?」
+ + + + +
やっぱり魔物化した元婚約者も、カロリーネのチート能力で華麗に撃退された。
渾身のざまぁ展開(物理)を迎えても、ブクマはつかなかった。
それでも美希は一心不乱に書き続けた。
そして、とうとう話は佳境を迎える。
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102 婚約破棄された伯爵令嬢だけど、冷酷無慈悲と噂の公爵家に嫁いで幸せになりました!
「カロリーネ……私は君を愛している」
「ああ……オーグレーン公爵様……」
「しかし、君は本当に私でいいのか。公爵家でありながら、竜族と獣人族の血を引いているが故に、奴隷商人に売り飛ばされた、こんな身の上の私でも」
+ + + + +
「あ、公爵って実は、神族の血も引いてるんだっけ? 設定盛りすぎてわかんなくなってきちゃったな……」
とにかく、そんなこんなで。
美希はとうとうやりとげた。
最終話をupし、話を完結させたのだ。
「はー終わったああ! 途中から設定わけわかんなくなっちゃったけど。よくやり遂げたよ、私……」
美希は感慨深い気持ちでスマホを眺める。
ブクマ数――0。
評価人数――0。
誰にも読んでもらえなかった処女作。でも今は、不思議とすがすがしい気持ちだった。
物語を1つ書き上げたという達成感が胸を満たしている。
(この話を最後まで書けてよかったな……)
しみじみと思いながら、美希は「なろうぜ!」のホーム画面を開く。
そして、目を見張った。
『感想が書かれました』
「うそ……」
美希は震える指でその文字をタップする。
そこに書かれていたのは……
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▼良い点
完結おめでとうございます。この話が連載された時からずっと更新を追いかけていました。奇想天外な展開ばかりで楽しめました。
▼一言
もしかして、ジャンル:『恋愛』と間違えて投稿されているのでは? 「小説情報編集」というページからジャンルは変えられますよ!
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「はじめに、言ってよ!!!!!!」
美希は勢いよく崩れ落ちた。
終わり
素人が小説サイトに投稿してみるお話 村沢黒音 @kurone629
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