素人が小説サイトに投稿してみるお話

村沢黒音

第1話

 

 

1 突然の婚約破棄

 

 

「カロリーネ。君との婚約を解消したい」

 

 その一言に――カロリーネは固まった。

 

 その日、彼女は婚約者のルーカスに呼び出された。なぜかその場に妹が同席していたので、首を傾げる。ルーカスは固い面持ちで、カロリーネのことを見つめていた。話がある、と切り出され、告げられたのは突然の婚約破棄――。

 

 どういうこと……?

 事態を呑みこめず、カロリーネは目を瞬かせる。

 すると、妹が勝ち誇った声で告げた。

 

「ごめんねぇ~? お姉さま? ルーカス様は、真面目で面白みのないお姉さまよりも、私の方がいいんですって」

 

 妹は、うふふ、と笑いながら、ルーカスの腕にすり寄った。ルーカスはそれを当然のように受け入れ、彼女の髪を撫でている。

 

「すまない、カロリーネ。でも、不安に思うことはない。私や君がより幸せになれる道を考えたのだ。君なら、わかってくれるだろう?」

「大丈夫よ、お姉さま? お姉さまの嫁ぎ先ならもう決まっているから。オーグレーン公爵家が私に婚約の打診をくださっているでしょう? 私の代わりにお姉さまがそちらに行ってくださらない?」

「ああ、素晴らしい考えだ。これで皆が幸せになれる」

 

 ルーカスは夢見る瞳で告げて、妹の手を握る。2人はうっとりとした様子で見つめ合っていた。

 その展開に1人、とり残されていたのはカロリーネだ。

 

(オーグレーン公爵家の当主といえば……冷酷無慈悲と噂のお方……。そんな方の元に私が……?)

 

 カロリーネは目の前が真っ暗になった。

 

 

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はじめまして!

初投稿です♪

「おもしろかった」「続きが気になる」という方は、☆評価をぜひぜひお願いシマス!!

 

 

※この小説の次ページはまだ投稿されていません。

 

 

 

 

 

 + + + + +

 

 

「ふふふふ~完璧! 完璧な1話目が書けちゃった! 私って天才!? このままランキング1位とって、書籍化して、ゆくゆくはアニメ化まで行っちゃうかも~~」

 

 スマホの画面を眺めて、今泉美希いまいずみみきはにんまりとする。

 ベッドで転がりながら、今しがた書き上げた自信作を何度も読み返した。

 彼女は現在、高校2年生。学校が終わった後、趣味に没頭していた。

 

 そのサイトを知ったのは、友人からの紹介だった。

『小説家になろうぜ!』――アニメ化された作品の原作が、そこで投稿されたものだということは知っていた。

 しかし、美希は漫画は好きだが、普段、小説の方はまったく読まない。『小説とか、本当におもしろいのぉ?』と、半信半疑で、そのサイトを開いてみた。

 結果――想像を超えるほどに、おもしろかった。

 そこで掲載されている小説はとても読みやすかった。美希が活字嫌いとなった、トラウマの読書感想文推薦本とはまるでちがっていた。

 小難しい文章はなく、ひたすら簡潔。続きが気になる展開の数々。さくっとスナック感覚で読める手軽さ。

 彼女はそのサイトに夢中になった。

 

 美希が特にのめりこんだのは、ジャンル『恋愛』の物語だ。不遇な主人公。彼女を平気で踏みつけにする嫌な連中。しかし、最後には主人公が幸せになって、彼女を踏みつけにしていた人たちを皆ぎゃふんと言わせる。爽快な展開がやみつきになる。

 美希は毎日のようにスマホで、『恋愛』ものの話を読みあさった。そして、ふと思ったのだ。

 

(これ……私にも書けるんじゃないかな?)

 

 それからはスマホのメモ機能を使って、ひたすら思い付いた展開を書き溜めた。

 

 婚約破棄された主人公が、冷酷無慈悲と噂の公爵家に嫁ぐことに。しかし、公爵は噂とは違って、本当は優しい男性だった。主人公はそこで蕩けるような溺愛を受ける――。

 

 我ながら「天才かもしれない!」と思った。この物語をサイトに載せれば、絶対に人気作になる!

 意気揚々と『投稿』ボタンをタップする。

 明日にはきっと1万ポイントくらい入ってて、ランキング1位ね♪ と、ニヤニヤを抑えられないまま就寝した。

 

 その翌日のこと。

 

「どうして!? ブクマもポイントも0!!?」

 

 美希はスマホ画面を見て、蒼白になっていた。

 ブクマが1つもついてない。『こんなに面白い1話目なのに何で!!』と、彼女は憤る。

 そして、スマホの画面をスクロールしていた時――その事実に気付いた。

 

「あー!? これ、ジャンルが『恋愛』じゃなくて、『異世界ファンタジー』になってる!!」

 

 そう、美希は投稿する際に、ジャンルの設定を間違えていた。

『小説家になろうぜ!』は『異世界ファンタジー』の物語も人気で、よくアニメ化もされている。しかし、美希が投稿した婚約破棄ものとは毛色がちがうのだ。

『異世界ファンタジー』で人気が出る作品は、無能と思われていた主人公が実は有能で、それにより成り上がり、周囲を見返すというストーリーだった。

 当然、そこには屑な婚約者も、結婚の身代わりを押し付けてくる妹も、冷酷に思われて実は溺愛してくれる男性キャラも、登場しない。

 

(えー……どうしよう……)

 

 美希はスマホを握りしめて考える。

 実は『小説家になろうぜ!』では、投稿した後でもジャンルの設定を変えることができる。だが、美希はそれが初めての投稿だったので、ジャンルを移動できるということを知らなかった。

 

「あ、そっか! ここからハイファンタジーの話にしちゃえばいいんだ!」

 

 美希は閃いた。

 

 それはもう、売れなかったバトルもの漫画に、やたらと編集者が「武道会! 天下一武道会やりましょう!」とアドバイスするがごとく、急転直下なテコ入れだった。

 

 

 

 

 + + + + +

 

 

2 無能と呼ばれた伯爵令嬢

 

 

(困りました……急にパーティを追い出されてしまって。私1人ではダンジョン攻略に行けません……)

 

 ルーカスに婚約破棄を告げられて、1週間が経った。

 カロリーネは困り果てていた。

 

 カロリーネとルーカスは冒険者であり、同じパーティを組んでいて、ついでに婚約者だった。

 カロリーネの能力は、『アイテム生成』という地味なものだ。薬草や武器、防具を生成することができる。しかし、ルーカスはそれを「役に立たない能力だ」と馬鹿にしていた。

 妹も、「お姉さまの能力って何て地味なの!? アイテムなんて、お店で買って来ればいいのよ!!」と言っていた。

 

 そのせいで、カロリーネはパーティを追い出されてしまったのだ。……婚約破棄は、そのついでだった。

 

 カロリーネは戦いに役立つスキルを何も覚えてない。だから、1人でダンジョンに潜ることはできなかった。

 ――ちなみにこの世界では、令嬢も令息も、ダンジョン攻略で生計を立てている。ダンジョンに潜れない令嬢に価値はない。

 

(とりあえず……新しくパーティを組んでくれる人を見つけなくてはいけませんね)

 

 カロリーネはその相手を見つけるべく、さっそく酒場へと向かった。

 

 

 

 + + + + +

 

 

「あー。でも、せっかく設定とか、キャラクターとか考えてあったのになあ~~~」

 

 美希はスマホ画面を見つめながら、悩んでいた。

 メモ機能には、いろいろな設定が書かれている。彼女のお気に入りは、公爵家の男性キャラだった。

 

 彼は冷酷無慈悲と思われているが、主人公のことだけは気に入り、ものすごく優しくしてくれる。溺愛系のヒーローだ。

 彼と主人公のいちゃいちゃシーンを妄想して、美希はにやにやしものだった。

 

(話は方向転換しちゃったけど、何とかして彼も登場させてあげたいなあ~~)

 

 美希は参考にするべく、「ハイファンタジー」の話を読みあさる。こちらは女性向けよりも男性向けの話が多い様子だった。

 

「ふーん……ハイファンタジーに出てくるヒロインって、奴隷獣人が人気なんだー……」

 

 彼女は人気作を数作品読んで、傾向をつかんだ。

 そして、決めた。

 

「よし、ヒーローは奴隷にしよう」

 

 こうして、公爵家の有能冷酷男に、『でも今は奴隷』という謎の設定が生えた。 

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