薄明りとの生活

彩鳥つぐみ

1本目『薄明りとの生活』

底冷えのする現実が、布団に染み入り、ままならない身体を揺らす。

抵抗を続ける目蓋の隙間から、光が侵入し、揺蕩う意識を転覆させた。

無意識のまま窓から背けた頬に、夜な夜な蜜月を重ねる愛しき端末が触れる。

流れるような所作で眠れる画面を呼び起こし、有機的な光が無機質な文字列を示す。


AM6:48。

無遠慮な光が生き生きとし始める頃合いだ。


覚めぬ頭は働かずとも、生活の訪れを実感してしまえば、実行に移していくほかない。

体を起こす。顔を洗う。食事をとる。身なりを整える。やっと気合がついてくる。

うっすらと抱え続ける気怠さに狂わされた心身のリズムと、世界様が強要してくる時の流れを調律していく作業を、毎日欠かさず行う。


もしかすると。いや、間違いなく、私はとてもエラい。

いくら自分の大切なものであっても、キチンと毎日メンテナンスをしている人は、そう多くないだろう。

私は、自分自身のことが好きだ。だから僅かな狂いも見逃さない。

見逃さないために、生活から逃げない。


これは決して、自分が世界に合わせるための作業ではない。

代わり映えしない世界と自分の距離感から、自分の変化を悟るための作業だ。

当たり前の日常はこんなに役立つものなのだと、自ら気付けたことを、大いに誇っている。


だから、日々の生活を難なくこなし……たい。

こなしたい、のだが!

寒いものは寒いし!眠いものは眠いし!気が乗らない時は気が乗らない!

今日も今日とて、大いに怠さが残る身体を抱え、薄ぼんやりとした気力を太陽のもとに晒さねばならないのだ!!


いつも通り、何とか自らに課した身支度を終えた頃、無二の相方がAM7:30を告げていた。

あぁ、相変わらず時の流れは早すぎるし、日の光は明るすぎる。

もう既に、宵闇に灯る薄明りが恋しい。

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薄明りとの生活 彩鳥つぐみ @irodori_tsugumi

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