第3話 光の魔王

「小癪な小僧らが!」


俺たち勇者パーティーはかれこれ2時間ほど魔王と対峙している。

4対1とはいえ、人類最強の俺たちと対等に渡り合える魔王はさすがだ。

ラスボスに相応しい相手だと実感する。


「わしのドランケンフィストの餌食にしてやる。」


そういうと魔王は瓢箪の酒を一気飲みし始める

ついに来た。噂で聞く魔王の必殺技だ。

俺たちの額に汗が流れ、身の毛がよだつ。


噂によると、魔王は重度のアルコール依存症であり、

医術師に酒を断つように厳重に注意されていると聞く。

賭博と酒に溺れる日々に女房は愛想をつかし幼い子供を連れて出て行った。

会社もリストラされ、親の財産を食い潰しながら引きこもりだったようだ。

同窓会で同僚が役職についている中、自分も大きく見せようと虚勢を張る日々。

アルコールの消費量も日に日に増えて行き、ある日限界突破した結果、魔王となった。

それが魔王の『代償』である。

そんなアルコールに飲まれたやつの酔拳ドラケンフィストは強力だ。



「ヒック。こんなクソな世の中ブッ壊してやるぜ! ヒック。」


魔王は酒に溺れながら強力な体術を繰り出す。


「アレキサンダー! 怪我ない!?」


「問題ない!」


強力な攻撃を捌くアレキサンダーに対して、聖女マリアンヌは心配する。

(・・・・・けがない)



「妾の幻術で、魔王の攻撃をずらしまし。」


メリッサが魔王に強力な幻術を繰り出す。

(・・・・・ずら)


「魔王の鱗が剥げてきたぞ! 僕たちが勝つ! ライトニングストーン!」


アレキサンダー魔王の逆鱗を落とし、防御力すり減らす。

(・・・・・はげ ・・・・・かつら)



「そんなことで勝った気になるなよ! この特等の酒でさらにわしは更にパワーアップする。」


魔王は別の瓢箪から酒を一気飲みし、酔拳ドラケンフィストの威力が増す。

(・・・・・禿頭とくとう



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


さっきからこいつらの会話には悪意が感じられる。

これでは俺がまるで禿げているみたいではないか!


「シゲオさっきからどうしたんだ!」


「様子がおかしいわよ。」


「俺は禿げてなんかいなああああああああああああああああい!」


俺は魂のかぎり絶叫する。



「今はそんなこと言っている場合じゃないぞ、シゲオ! それにいつもそのカラフルなウイッグの角度が変わっていることぐらいわかっているぞ!」


「な、なんだと。」


アレキサンダーが奇妙なことをいうから、俺の時が止まる。



「そちが飛び跳ねるたびに、その面妖な被り物が宙に浮いてまし。」


「ま、まじか。」


メリッサも続けて奇妙なことを言う。俺の思考が追いつかない。



「今まで黙っていたけど、私たちの故郷にシゲオの銅像があるじゃない。あれ、リアルを追求して髪型が取り外せるギミックがるの。子供達に大人気だわ。」


「そ、そんなこと。」


マリアンヌも奇妙なことを言う。俺の精神はズタボロだ。


みんなに黙っていたが、俺は髪の毛がない。

ブリーチにドレッド。若気の至りで毛根を刺激しすぎた。

まだ、13歳ぐらいの時から毎朝、ドレッドの毛束が枕元に転がるようになった。

神様みたいになりたくないと思ったが、俺の頭の方が逝っている。

要するに俺は神をも超える輝きを有しており、光の勇者と呼ばれるに至った。

俺の光魔法は最強だ。


だが、もう無理だ。

俺はみんなハゲを知られてしまったからには、この世がどうなったっていい。

それぐらい俺にとってハゲを知られることが強力な『代償』である。



俺は目をそっと閉じる。

瞼の裏には頭皮がまだ生気溢れ、溌剌とした頃を思い浮かべる。



「・・・・・アトミック・フラッシュ」


俺はそう呟き、世界は崩壊した。

俺の毛根のように。

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光の勇者として転生した俺は魔王を倒し世界を救う。悲惨な最期をとげた勇者の秘密 雨井 トリカブト @AigameHem

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