第2話 勇者パーティーの強さの秘密

「なぜだ? もう小1時間もわしが相手してやっていると言うのに、誰一人倒れぬとは。お前ら本当に人間か? わしは数多の国を滅ぼした魔王だぞ。」


魔王アンデランスは非常に戸惑っているようだ。

初めは歯牙にも掛けない様子だった相手と対等に戦わされている。

自分の100分の1も生きていない若造を一人も倒せないことに苛立っていた。

そんな表情が手に取るように分かる。


俺たち4人は何も初めから最強だったわけではない。

俺を含めて勇者パーティーの全員が幼少期はごくごく平凡に育った。

そう、強さには秘密があるのだ。


この世界の魔法や加護と言った力には『代償』という概念がある。

『代償』は人によって様々で一様ではない代物だ。

例えば、コーヒーが苦手な人間にとってコーヒーは『代償』となるが、

好きな人間にとって『代償』となえるはずがない。

要するに、こいつら皆、重たい『代償』を背負って生きている悲しい存在だ。

だから俺たちは最強となり得た。




「ファイナルナイトメアウェーブ!!!!」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン


「そんな技では、僕には効かない! 魔王アンデランスよ。覚悟しろ!」


「なぜだ! なぜ人間が今の攻撃に耐えるどころか立っていられる!

 国一つ吹っ飛ばす黒魔法だぞ。」


アレキサンダーは非常に頑丈だ。

俺はこいつが横になるどころか、座っているところすら見たことがない。

寝る時ですら常に立ち続けている重戦士だ。

しかも、どんな攻撃だろうと前から受けきる。

背中を見せるなんて、戦士の恥と言わんばかりに相手を威圧する。


そんなアレキサンダーの『代償』はケツに宿す爆弾だ。

俺の前世の世界では、いぼ痔と呼ばれていた。

風呂に入った時に、見えたことがあるのだが、少なくとも林檎大はある。

そのため、彼にとって座るという行為は地獄の苦行と何ら変わりないのだ。

尻爆弾をひたすら隠すように立ち続け、戦闘においても一切倒れることはない。

遂には、強力な『大地の加護』を身につけるまで至った。

前方方向からの攻撃であれば魔王の必殺技をも受け切る彼だが、

幼子のデコピンですらケツにヒットすれば一瞬で気絶させられてしまう。

アレキサンダーの宿す腫瘍の前では、大聖女マリアンヌの浄化ですら凡庸と化す。

悲しい存在であるのだ。




「セリアスの風、エルヴィンの水、フィレスの大地、アルマの火よ、集いて我が願いを叶えん。この世に調和を、そして平和を。エスペリアの誓いとともに、精霊の力を解き放て!」


「そ、それは、大精霊の呪文!? 人間ごときが扱える魔法じゃないぞ!」


メリッサの魔法の知識は膨大だ。

古今東西あらゆる魔法を扱うどころか、オリジナルの魔法も数多く有する。

彼女に聞いたことがあるのだが、魔法は想像力の具象化だという。

そんな彼女は各地の大賢者が弟子入りを志願してきたどころか、

召喚した悪魔でさえ知識を乞うたという逸話もあるほどだ。


そんなメリッサの『代償』は隠れオタク趣味だ。

彼女は13歳ごろから急に一人称を「わらわ」に変更した。

まぁ、年頃だしそんな時期もあると思っていたが20歳になった今でも続けている。

あらゆる、最新のジャンルにはすぐに飛びつき、お金を湯水のように注ぎ込む。

知識は膨大に増えていく一方、彼女はいつも金欠だ。

ちなみに俺たちは年間に普通の人の生涯年収ぐらい稼いでいる。

彼女は「限定品」と冠すればただ泥水ですら、金貨100枚ぐらいすぐ出してしまう。

巷の人間は、これを錬金術と呼び、「黄金の魔女」と呼ばれるに至った。

俺らに隠しているが最近は男同士の恋愛に興味があるようだ。

禁断の魔導書として彼女が隠し持っている本には自作の小説が書かれている。

ちなみに、内容は俺とアレキサンダーの恋愛話だ。

なぜか、いつも俺が攻めでいぼ痔が受けで固定されている。

実際、あり得ないことだがメリッサはアレキサンダーを殺したいのだろうか?




「穢らわしきものたちよ。浄化されよ!」


「ぎゃああああああああああああああああああ!」


「わしの不死身の軍団、アンデットたちがあああああああああ!

 こいつらは死を克服した兵士だぞ。聖女とはいえ人間如きがなぜ浄化できる!」


マリアンヌはあらゆる穢れを浄化する。

傷や毒、呪いなどあらゆる状態異常を全て無効化してしまう。

それだけでなく、今みたいに禍々しき存在は存在自体をキャンセルする。

彼女の結界の中ではあらゆる邪念は消え去り、犯罪は起き得ない。

それどころか、神に奉仕する気持ちを芽生えさせてしまう。

彼女のおかげで、俺たちの国アルブバーンの犯罪は根絶され、

慈愛に溢れ、ゴミ1つ落ちていない奇跡の国と賞賛されている。


そんなマリアンヌの『代償』はシンプルに足が臭いことである。

その足の臭いは人を気絶させ、草木を枯らすほどである。

彼女の足の臭いに比べたら、屈強な冒険者の足の裏は清涼なハーブとなる。

普段は、聖地エデンの聖樹を炭にしてそれを靴にすることで臭いを隠しているが、

1日もすれば聖樹の浄化力すら効果を失ってしまうほどだ。

そんな、彼女はコンプレックスを隠すため、あらゆる手段で浄化の術を学び、

結果、国一番の大聖女と祀られるようになった。

この国では風呂の文化があり、俺たちのパーティーは順番に入るのだが、

彼女はいつも最後に入っている。

一度だけ、手違いでマリアンヌの後に風呂に入ったが、

湯船が禍々しいものに成り果ててしまっていた。

これをご褒美と思えるのはこの世で俺だけだろう。

彼女の『代償』の前ではメリッサの呪術も児戯に等しい。

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