まるむの魔法少女な日々

にゃべ♪

まるむは魔法少女

 瀬戸内海に面する舞高市は、温暖な気候で住みやすい田舎日本一に選ばれるほど平和な街だ。ある日、この街に突然ゲートが開いてしまう。それは地球支配を目論む魔導帝国アルマの侵略作戦だった。

 長年アルマと戦ってきた神聖魔法国ルーシルはこの作戦を阻止するためにエージェントを派遣。エージェントは地元の少女を魔法少女に仕立て上げ、アルマから送られてくる刺客を倒す日々を送っていた。


 その勇敢な少女の名は熊野まるむ。彼女は『魔法少女まるむ』と名乗り、緑を基調とした魔法少女衣装に身を包む。そうして、植物魔法をメインにアルマからの刺客、魔法生物のゴーレムを倒していた。

 そんな彼女が今危機的状況に陥ってしまう。バトルの一部始終を一人の少女に目撃されていたからだ。魔法少女はその正体を誰にも知られてはいけない。変身を解いたところで少女の存在に気付いたまるむは、速攻で少女に近付く。


「あんた、最初から見てたの?」

「はい。すごかったです。街を守ってくれてマジ感謝」


 魔法少女は目の前で変身しても正体がバレない認識阻害魔法で守られてる。なので、少女がまるむの正体を視認出来ているのは有り得ない事だった。彼女はすぐに自分を魔法少女にしたルーシルのエージェントを呼ぶ。

 スマホで呼び出されたエージェントは見た目がほぼ猫のミルミ。マルムは少女にそこで待っているように伝えて、ミルミを捕まえて物陰に走っていった。


「どう言う事? 認識阻害が効かないなんて事ある?」

「魔法の才能がある子には効かないんだよ。君もそうだっただろ?」

「じゃあ、あの子には魔法少女の才能があるって事?」


 まるむの質問にミルミはコクリとうなずく。事情が分かったところで、彼女は指を顎に当てて考え始めた。そして、頭の中の豆電球がピカッと光る。


「と言う訳で仲間になって!」

「ええーっ! 嫌です」


 突然のスカウトに対し、少女は秒で拒否。その当然の反応に、まるむは魔法少女の正体を知っている事のリスクを説明する。


「秘密を知ったあなたは敵に狙われてしまうの。危険な目に遭ってしまうんだよ」

「じゃあ守ってください」

「敵も襲ってくるのに守りきれる訳ないでしょ。今ここで記憶を消してあげてもいいのよ?」

「じゃあそれでお願いします」


 少女はペコリと頭を下げる。この流れだと記憶を消してさようならと言う事になるだろう。前々から仲間が欲しかったまるむは、絶対にこのチャンスを逃したくなかった。そこで、うまく言いくるめるための作戦を思いつく。

 彼女は顎に人差し指を当てて、顔をそらしながら目線だけを少女に向けた。


「でもなー。間違って他の記憶も消しちゃうかもなー」

「えぇ……」

「魔法少女になってくれたら、記憶も消さずん済むんだけどなー」


 まるむはやらしい笑みを浮かべながら、少女の反応を待つ。その様子を観察していたミルミは、この露骨な流れに前足で顔を覆って大きなため息を吐き出した。

 一方、脅された側の少女はと言うと、彼女の話を素直に受け入れて神妙な顔つきになる。


「魔法少女って、危なくない?」

「全然? いつも楽勝だけど?」

「私に出来るかな?」

「出来る出来る。このあたしにだって出来るんだよ。全然大丈夫だから。ね? 一緒に街を守ろ?」


 優しい先輩おねーさんの雰囲気を出して、まるむは手を差し出す。少女はその手を握り、魔法少女になる事を了承したのだった。


「じゃあ自己紹介しよっか、あたしは熊野まるむ。あなたは?」

「村上ミカです。先輩、よろしくお願いします」


 話を進めると、まるむとミカは同級生だと言う事が分かった。しかも同じ中学校。そう言う訳で共通の話題も多く、会話も弾む。

 こうして、2人はすっかり仲良くなったのだった。


 ミカはミルミから変身アイテムのカードを受け取る。変身はカードそのものを使ってもいいし、スマホにデータを読み込ませてアプリでも起動出来るらしい。


「好きな方で変身してね」

「ど、ども……」

「魔法少女で分からない事があったら、あたしかコイツに聞いてよ」

「うん、有難う。頑張るね」


 こうして正式に新しい魔法少女が誕生する。舞高市を守る2人目の魔法少女だ。仕事は街を襲うゴーレムを倒す事。敵はゲートから不定期に現れる。ゲートそのものもどこで出現するか分からないため、魔法少女達は常に臨戦態勢でいる必要があった。


「私の魔法少女生活のスタートだ! 頑張るぞ!」


 ミカはゴーレム出現の連絡を受けて早速変身して現地に向かう。彼女の魔法少女衣装は赤を基調にした鮮やかなもの。炎属性の才能があるらしい。

 目的地に着くと、そこでは既にまるむが戦っていた。ミカはステッキを振って加勢する。


「マジマジファヤー!」


 ステッキで生成された魔法火炎がゴーレムに直撃。これによってゴーレムの攻撃対象がミカに変更された。初めてのバトルで勝手が分からなかった彼女は、敵と正面から戦おうとして構えを取る。

 ゴーレムはすぐに標準を合わせて魔導ビームを発射した。


「え?」


 まだ防御方法を知らないミカは、自分に向かってくる魔導光に対して為す術がない。恐怖で足がすくんで動けないため、必死に腕で顔をガードする。

 それを目にしたまるむは、すぐに後輩を助けようと動いた。


「バカッ!」


 光がミカを貫こうとした瞬間、間一髪でまるむの魔法がそれを弾き飛ばす。攻撃をキャンセルされたゴーレムが混乱している隙に、まるむは必殺魔法を叩き込んだ。


「ビッグスマッシャーッ!」


 ベテランの彼女が放った魔法はゴーレムのボディの魔法結合を無力化し、一瞬で無に還す。一連の流れを、ミカは呆然としながら見つめていた。


「流石先輩です……」

「危機一髪だったね。でも無事で良かった。あたしもいきなりこんな強敵が出てくると思わなくてさあ」

「全然楽勝じゃないのはちょっと騙された感がありますけど」

「いやいやいや、あんなのレアケースだよ。いつもはもっと雑魚いから。マジ楽勝だから」


 必死に弁明するまるむを見て、ミカはクスクスと笑う。それを見たマルムもつられて笑うのだった。


 その後は本当に雑魚ばかりが出現し、ミカも順調に経験を積んでいく。攻撃魔法、防御魔法、補助魔法などを一通り身につけた頃には、ソロでもゴーレムを倒せるレベルに成長していた。


 やがて、地球征服がことごとく失敗している事を受けて、ゴーレム以外の敵もやってきた。それが、魔導帝国アルマの四天王の1人、幻惑のフレシア。

 見た目はまるむ達と同じくらいの年齢のように見える少女で、悪役らしいセクシィな黒い衣装を身に着けている。


「こんな雑魚しかいない世界、秒で征服してさしあげますわ!」


 どうやら彼女は悪役令嬢っぽいタイプの性格のようだ。オーッホッホッホッホって笑っている。対峙していた魔法少女2人も、この新たな敵の登場に困惑した。


「なんかヤバイの出てきましたね、先輩」

「実力が分からない。最初から大技で行くよ!」


 ミカとまるむはすぐに連携をして攻撃を開始。まずはミカがフレシアの足元を氷魔法で凍らせて足止め。まるむはスピードダウン魔法を唱えて敵の思考スピードを極限まで落とした。

 この2つの攻撃が防がれずにヒットしたところから、フレシアの実力を見抜いたまるむが必殺魔法をぶつける。


「ギガスフィア!」

「ギャアアアア!」


 まるむの魔法の直撃を受けたフレシアは絶叫を残してあっさりと倒れた。多分四天王の中で一番最弱なヤツだったのだろう。一番最初に現れるヤツは一番最弱、基本中の基本だ。

 こうして敵幹部を行動不能にする事に成功したところで、まるむは彼女を手慣れた手付きでテキパキと拘束する。身動きを取れなくしたところで、魔法で隔離された何もない部屋に放り込んだ。


「じゃあ、色々敵の事を聞こうか」


 まるむはニヤリと笑うと、フレシアに電撃魔法をかけて無理やり起こす。気が付くと拘束されて椅子に座らされてると言う状況に、彼女は混乱した。


「これは一体どう言う状況ですの?」

「あんたはあたし達に負けたんだよ。さあ、知ってる事を洗いざらい話して」

「何を言ってるんですの? この私がアルマの秘密を喋るとでも?」

「まぁそう言う態度を取るよね」


 この期に及んでも強気な態度を取るフレシアを見て、まるむは軽くため息を吐き出す。相手はしっかり訓練された四天王。並の拷問では口を割らないだろう。そこで、彼女は正攻法ではない方法を考える。

 しばらくのシンキングタイムの後、まるむの口角がすうっと上がった。


「じゃあ、吐かぬなら、吐かせてあげるホトトギス」


 彼女はステッキをフレシアにかざす。これからどんな激しい拷問魔法をかけられるのかと、帝国の少女幹部は身構えた。


「たとえ洗脳魔法をかけられたって、私は屈しませんわっ!」

「それはどうかしらね……クラケフト!」


 その魔法は、無数の触手が対象物を刺激すると言うもの。具体的に言えば、くすぐり魔法だ。体中のありとあらゆる部分を絶妙に刺激されて、フレシアは苦悶とも恍惚とも取れる表情を浮かべる。


「こっ、この程度っ。大した事……ありまっ……ひゃん!」

「いつまで耐えられるかしらねえ」


 この光景を、ミカは恐ろしいものを見る目でじっと見つめている。思うところがない訳ではなかったものの、帝国の秘密を知るためには仕方がないと心を無にしていた。


「アレじゃ口を割らないだろうな」

「ミルミさん?」


 同じ光景を面してた猫精霊はこの作戦の失敗を予見する。身をよじって悶えている姿を目にしていたミカは、その結論に納得出来ない。


「それは、どうして?」

「見てごらん。あの幹部は快楽に酔っている。Mにとってはご褒美なんだよ」

「?」


 ミカはその手の知識の乏しいため、ミルミの解説に首を傾げる。乏しいのはまるむも同じようで、彼女は自分の拷問が効いていると思いこんでた。


「ほらほら、早く吐き出して楽になりな!」

「ああっ、とってもいいですわぁ~」

「くっ、しぶといわね……」

「ボクに任せて」


 ミルミは苦戦するまるむの前に現れる。自分の魔法では埒が明かないと言う自覚があった彼女は、このエージェントの申し出を素直に受け入れた。


「じゃあミルミ、お願いね」

「うん。そこで見てて」


 触手攻撃が終わって物足りないフレシアは不満そうな表情を見せる。頬を赤らめてハァハァと呼吸を乱しながら、まるむの顔をねっとりと見つめた。


「何で止めてしまうんですのォ? もっともっとくださったら間違って秘密を喋ったかもですのにィ~」

「君の相手は今からボクだよ」

「なぁに? ネコチャン?」

「おいで」


 ミルミの呼びかけに応じて現れたのは、かわいい白黒ハチワレの子猫。それを目にしたフレシアは目がハートに変わる。


「かんわいいい~っ!」


 ハチワレ猫は人懐っこく、すぐに少女幹部の膝の上に登って座り込む。この仕草にフレシアはノックアウトされた。ただし、表情は平静を装っている。


「こ、これが拷問になるとでも?」

「秘密を教えてくれたら彼と一緒に暮らしていいよ」

「分かったわ!」


 こうして、フレシアは知っている事を全て話してくれた。魔法少女2人はそれらの情報を元に、魔導帝国に向けて出発する。向かってくる様々な敵や他の四天王は手に入れた情報で的確に弱点を突いて撃破。

 ほぼほぼ無傷で、帝王のいる玉座の間に辿り着く。そこには不遜な顔でふんぞり返って玉座に座る帝王ルギュターがいた。


「フン。魔法少女よ、よくここまで来たな」

「あたし達は別にあなたを倒しにきた訳じゃない。力の源の魔導書を渡して!」

「ここまでやっておいて何を言うか。魔導書は余を倒して奪い取るんだな」

「やっぱり……話し合いでは解決しないのね」


 こうして、魔法少女達の最終決戦が始まる。流石のフレシアも帝王についてはあまり情報がなく、魔法少女側も今までのように弱点を突いた攻撃は出来なかった。

 ルギュターの強さは桁外れであり、十分に強くなったはずの魔法少女達も防戦一方。徐々に体力を削られていく。


「先輩、コイツ強いです」

「ラスボスだもの当然よ。あいつは無限の魔導書ってのを使ってて、つまり最強魔法を使い放題。マトモにやっても勝てない」

「そんなあ……」

「フハハハ! ルーシルの魔法少女も余の敵ではないわ!」


 ルギュターの魔法攻撃によって、魔法少女達は部屋の隅に追いやられる。ここで、帝王の持つ波動の杖に極大魔法が蓄積された。アレが開放されたら、魔法少女ですら一瞬で消し炭になってしまうだろう。


「楽しい児戯だったぞ。では、トドメだ!」


 凶悪な笑みを浮かべながらルギュターは杖を振り下ろす。その強大過ぎる魔力に戦意を完全に失った2人は、力の限り叫ぶ事しか出来なかった。


「「キャアア!」」


 そして、2人は真っ黒な消し炭に――ならなかった。何故なら、杖が振り下ろされた瞬間に蓄積されていた魔力の塊が消失したからだ。

 この異常事態には、流石の偉大なる魔導帝王も戸惑いの表情を見せる。


「何……だと……?」

「魔導書の力を封じたんだよ。2人共危機一髪だったね」


 魔法少女達のピンチに颯爽と現れたのは、四天王のフレシア。彼女は魔法少女達が帝王と戦ってる間に、宝物庫から魔導書を見つけ出していたのだ。つまり、帝王は陽動に引っかかったって訳。

 形成が逆転したところで、まるむはニヤリと笑う。


「ダメじゃない。大事なものは持ち歩いていないと」

「ぐぬぬ……」


 こうして帝王は倒され、魔導帝国の野望は潰える。舞高市に平穏な日々が戻ってきたものの、ルーシルの巫女のお告げによると、街は近い内にまた別の勢力に狙われてしまうらしい。魔法少女の戦いはまだ終わらないのだ。

 未知なる戦いに緊張している2人の前に、ミルミが音もなくやってくる。


「君達に新しい仲間を紹介するよ」

「えっ?」

「ふふ、お久しぶりね。よろしくしてあげても良くってよ」

「「フレシア?!」」


 そう、帝国四天王だった彼女は、先の戦いでの働きが認められて3人目の魔法少女になったのだ。元敵幹部だけに、その衣装は黒を基調にしている。闇の深い衣装がとても似合っていた。

 突然の新メンバーの加入に、まるむは呆れたように肩をすくめる。


「何となくこうなるだろうなって気はしてたよ」

「フレシアさん、私が先輩ですからね!」

「リーダーは実力で決めてくださらいないかしら? そうなると、当然私がリーダーで決まりですわよね?」


 3人の息の合わなさに、ミルミは頭を抱える。しかし、活動を続けていく内にその不安は解消されていく事だろう。

 こうして、街を守るスリーマンセルの魔法少女活動はスタートする。彼女達は人知れず街を守る正義のスーパーヒロイン。でも、その正体は絶対に秘密なんだ。



(おしまい)

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