野生の虎と花畑
家戸 あず
その言葉は
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1月20日
物心がついた頃から一緒にいる男の子、成績は良く言って中の下、運動もてんで駄目、気弱で、泣き虫なくせに友達思いで、馬鹿みたいに優しい男の子 [
私は彼に恋をしていた。
思え返せば単純で、在り来りな理由。『私がこんなに簡単に恋に落ちるとは思っていなかった』と、親友に打ち明けたほど。
救われたんだ、彼の恐く何も考えていなかっただろう言葉に、行動に。ただそれだけで毎日を漠然と
『明日になったら学校か、世界が終わってないかな』
なんて願っていた私が死に
『明日が早く来ないかな、明日も虎くんとお話ができるかな』
なんて想う私が生まれた。
けれど、もし神様が居るのならその“神様”はイジワルだ。虎が奇病を患ったのだ
滅多に熱を出さない虎が高熱で学校を休んだ、その日のうちに看病に行ったが、歩くことも難しいという。
身体の汗を拭いてやるために背中を捲るとそこには昔見た事のある症状が。
まるで冬虫夏草のように脊椎に沿って生えた蔦
『
彼の母親を殺したその病の名前をまた聞くことになるとは思わなかった。
1月22日
この病に薬や治療法は無い。
実験的に【除草剤を飲む】【除草剤に浸かる】などを実行した患者も居たそうだが。少し考えれば分かるだろう、人体にとってももちろん毒、花は枯れたが命も枯れた。
調べるうちに興味深い実験があった。この方法であればきっと虎を救える……
1月23日
今日も看病に行った、前行った時には蔦は細く短かったのに、もう背骨と同じくらいの太さになっている、虎が言うに『背骨が出てきてるみたいに痛くて重い』だそう、あまりの鈍感さに思わず笑ってしまったが、あれは多分不安にさせないために言ったんだろう、でも、きっともう大丈夫…。
1月24日
虎が元気に登校してきた、どうやらあの方法は正しかったようだ、これで安心。虎とは気まずくてあれ以来顔もまともに見れていないけれど、私は後悔はしていない、むしろ誇りに思う
1月25日
今日は少し具合が悪くなってしまい学校を休んだ、寝ている間に虎が来ていたようだ、顔を見られずに済んだ、良かった。
1月26日
虎が全部知っていた!自分の罹っていた病気も、その治し方も、どうなるかも。私はただ虎に元気になってもらいたかったのに、これじゃただ伝えたいことを伝えられないだけで終わってしまう、もう口も上手く動かない、多分…長くない。
どうか…私に咲く花よ、どうせ咲くのなら私を綺麗に飾ってくれ
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少女の部屋で虎は静かにノートを閉じる
「驚いた、まさか心がこんな日記をつけていただなんて」
誰に言うでもない言葉をわざわざ口に出してしまう。
「僕にも、恩を返させてよ、」
虎はベッドに横たわる白い花束の花弁を撫で、涙を浮かべながらその花の名前をひとつずつ言い当てて見せた
「ウツギ、月下美人、カランコエ、そして、サギソウ」
まるでその姿は、花で出来たウエディングドレスを身にまとっているかのようだった。
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はじめまして、家戸あず です
今回は『2023カクヨム大賞』お題【秘密】をもとに書かせて頂きました。
調べれば出てきますが花たちの意味や特性を連ねておきます。
ウツギ(うの花)▶︎「秘密」「乙女の香り」
群生の花 白く、兎のような花
月下美人▶︎「儚い恋」
夕方に咲き、朝方には萎む
カランコエ▶︎「あなたを守る」「幸福を告げる」
釣鐘状の花を咲かせることが花言葉の由来
サギソウ▶︎「夢でもあなたを想う」
鷺が羽を広げたような花姿
全て春の花です
野生の虎と花畑 家戸 あず @0-1mitei
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