あちらの世界
常陸乃ひかる
こっちの世界
このふたつの
あとは、
『お
もプラスすると、より一月の雰囲気が出るので、こっそり追加しておこう。
さて。
年末年始には、近くの
間延びと言えば、私が車を走らせている平坦な道もその一部である。片側二車線の県道は車の通りが少なく、左車線に居座り、南に向かってアクセルを緩く踏んでいるだけで、そのうち目的地に到着するのだから。
一方、中央分離帯を挟んだ上り線では、様々な車種の渋滞ができていた。
数分前を思い起こしてみる――そういえば反対車線には、赤色のパトライトを回す、地方公務員の愛車が停まり、交通事故の処理を行っていた。
すぐ近くには、フロントがひしゃげたセダンと、リアバンパーとテールランプがわずかに損傷したトラックも停まっていたので、あれの影響で車線が規制され、あちら側の世界は地獄絵図と化しているのだ。
しかし不思議なものだ。制限速度50kmのまっすぐな道で、どんなハンドル操作をしたら、交通事故なんて起こせるのだろう。ロードサイドショップから急発進してきた可能性を考察したとしても、不注意が過ぎる。
民衆のお屠蘇頭は、私の認知を遥かに超えてしまっているようだ。
時に、こういう光景を見ると私はワクワクしてしまう。そうして、その何十分とも知れない、無駄な時間を消費させられるであろうドライバーたちに着目し、また執着してしまうものだ。
車内は言わばプライベートな空間。歌っても、怒鳴っても、シコっても、誰にも迷惑をかけない。が、思っているより外からは丸見えで、車内での生態を公開してしまっていることに気づいていないのだ。
現に、渋滞に巻きこまれたドライバーたちは、車内で様々な行動を取っている。
中でも多かったのが、『スマホを操作する者』だった。
現況を確認したり、誰かに連絡を取ったりし、この時に限っては、前を向かなくてはいけない運転席で、下ばかりを向いていた。
続いて目に入ったのは、『ドアの縁に肘をついている者』である。
表情に嫌気を宿し、悟ったような心で時が動くのを待ち、あくびを誘発させ、眠気に頭を撫でられる。こちらはスマホの
お次は、『眉間にシワを寄せながら遠くを眺める大型トラックのドライバー』だ。
そのひとつ前にも、さらにふたつ前にもトラックが居て、事故現場なんて到底見通せないというのに。けれど気持ちはわかる。覗きこみという行為は、行動を制された人間に与えられた、数少ない情報収集のひとつだ。
そして――あぁ、居た居た。『タバコに火を
悲しみという感情によって喫煙を誘発されていることに気づかず、また知る由もなく、一時的なストレス緩和に身を委ねた結果、それ以上のストレスをブーストさせているのだ。いやはや、反吐が出るほど浅慮な行為は、喫煙者のみに与えられたコモンセンスであり、またギャグセンスである。
そもそも、エビデンスベースで喫煙の恐ろしさを知っている人間は、タバコになんて手を出さないのだが。実に小気味が良くて、冷笑を禁じ得ない。
さて、次は――いや、まさか。『ハンドルに突っ伏す者』まで現れたではないか。
なにをそんなに追い詰められているのだろう? なにをそんなに諦めているのだろうか? 不眠大国では、こんなイレギュラーな時間さえも睡眠に
就寝時刻を十五分ばかり早めてみろ、と。
その次は――オーマイガッシュ、やってしまった。『化粧を始める者』の登場だ。
これは下品すぎて、言及するほどの価値もない。話をどうにか広げるとすれば、それがオジサンだった場合のみである。
そうして車の流れが止まった景色が、こちら側ではどんどん流れてゆく。
お次は――どんな面白い奴が、滑稽な素顔を晒してくれるのだろうかと、私はにやけながら意識を目の前に戻した。
次に私の目に飛びこんできた人物は、ひょっとこみたいな顔をしていた。
違う、私が交差点に飛びこんでしまっ――
それより、もう間に合わない。
了
あちらの世界 常陸乃ひかる @consan123
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