トンビ・タカ・カエルカエル

イツミキトテカ

第1話

 私のママはとても美人。


 剝きたまごのように丸いおでこ。ぱっちり二重の大きな目に、すっと通った鼻筋。ぷるりとした唇は可愛らしく、すっきりとしたフェイスラインは美しい。


 そんなだから、ママが街を歩いていると道行く人が振り返る。老若男女誰でも彼でも振り返る。特に男はよく振り返る。


「おねえさんお茶でも…」

「気持ちは嬉しいけど、こどもがいるの。他を当たって」


 男たちはママと手を繋ぐ私に気付くとすごすごと引き下がった。ママは上機嫌に笑っていた。


 ♢


 小学校の参観日。どのママよりもやっぱりママが1番きれいだった。クラスのみんなはざわざわしていた。


「あの美人は誰のママ?」


 私のママだよと教えてあげるとみんなはとても驚いた。


「全然似てないね」


 ママは他のママに囲まれて上機嫌に笑っていた。


 ♢


 中学生になるとママは過保護になった。


「フードを被って。マスクをして。ほら、サングラスも」


 こんな格好では、知り合いに会っても気づかれないだろう。


「ほら、あれよ、日光はお肌の敵なのよ」


 そう言うママは日焼け止めクリームを塗るぐらいしかしていない。さすがにフードとマスクは鬱陶しいんだけど。


「ふふっ。面白い顔しないでよ」


 別に面白い顔なんかしていない。ちょっと拗ねて唇を尖らせただけだ。


「ははっ。変な顔。お願いだから、ママから離れて歩いてね」


 ママは上機嫌に笑っていた。だけど、少し意地悪く見えた。


 ◆


 高校生になった。ママは私を美容外科に連れて行った。


「あなたのためを思っているの。パパに似てブサイクで可哀想だもの」


 私はパパにも似ていないけれど。


「美人になればみんなから好きになってもらえる。あなたのためよ」


 別に今のままでも友達もいるし、困っていない。


「あなたがブサイクだと、ママの整形がバレるでしょう。少しは人のことも考えて」


 私はお医者さんと顔を見合わせた。知らないお医者さんじゃない。実は、ママに言われる前から私も整形を考えていた。そこまで言われたらしょうがない。私はついに覚悟を決めた。


「分かった。整形をお願いします」

「いい子ね」


 ママは上機嫌に笑った。ママはいつも笑っている。この笑顔が顔が固定されている。


 お医者さんが指パッチンした。奥の部屋から屈強な男が2人現れた。のしのしこちらにやってきて、ママの両腕をがっしり掴んだ。


「何よ」


 笑うママに教えてあげる。


「ママは心がブサイクで可哀想。だけど、大丈夫。今は心も整形できるんだって」


 叫びながら奥の部屋に連れて行かれるママ。次に会うときは身も心も美人なママになっている。


 ママが整形したことはみんなには内緒にしておくね。

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トンビ・タカ・カエルカエル イツミキトテカ @itsumiki

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