王の名の秘密

みこと。

全一話

 じっと画面を見つめ続けること……どのくらいだろ。

 点滅するカーソルが、残像として目に焼きつきそう。


『名前を入力してください』


 何がいいかなぁ。


「晴喜、キャラ作れたか? って、全然進んでないじゃないか!」

「それが、プレイヤー名で悩んでて」


「悩むほどのことじゃないだろ? いつもの和風のにすれば?」

「舞台は西洋ファンタジーだぞ? カタカナがいいよ」

「じゃあ“ハルハル”でいいじゃん。一之瀬晴喜イチノセ ハルキ。女子からカワイイあだ名貰って幸せ者だよな?」

「遊ばれてるだけだよ。あとハルハルも却下」

「なんで?」

「ゲームの自キャラに憑依しちゃった時、正式名ハルハルはイヤだろ」

「何、その仮定? ないない、ないよ、ラノベの読み過ぎ。現実に起きないから」

「いや……、俺は油断しない。最近じゃメインキャラじゃなく、遊びで作ったサブキャラ転生もあるから、ここは気を抜かずにいきたい」

「アホかぁ──っ。しょーもないこと言ってないでさっさと遊べるようにしろって。仮に転移したとしても、その時カッコイイ名前を名乗れば済む話じゃないか。登録名は表示されないだろ」

「そっか」

「ほら、早く! オンラインゲームは親しみやすくて覚えやすい名前のがいいんだって」


(ま、そうだよな。自キャラに転移とか、物語だけの話だし、他にいいの思いつかないし)


 いいや。

 名前【ハルハル】、【決定】っと。


 悪友に促されるままに、安易に名前を決めた。

 その数年後、深く後悔することになるとも知らずに。



 ◇



「ハルハル様。ご命令通り周辺の地域を探索させましたところ、北にエルフの国を発見いたしました」


 跪き、畏まって報告する配下を見下ろし、鷹揚に頷いてみせる。


 憑依で転移、起こっちゃってた。


 国づくりゲームだった。プレイヤーは君主として一国に君臨し、発展させる。ハマって楽しんでたある日。突然、ログアウト出来なくなった結果、城ごと異世界にとんでいた。


「つきましてはハルハル様の御名のもと、使者を派遣し交渉を……」


 元NPC、現生身の獣人ラキアが意志を持って発言してる。彼女のケモ耳とふさふさシッポを、ぜひモフってみたい。くっ、鎮まれ、俺の右手!


 ラキアの提案を容認しながら、“ハルハル様”の部分が毎回気になる。


 名乗る以前に、登録名は王名・・として広まっていた。

 転移して間もない頃、変えようとして話を振ったら。


「あのさラキア、俺の名前なんだけど、ハルハルって呼ぶのやめない?」


 告げた途端、彼女はあからさまにショックを受けた表情で、震えながら叩頭 こうとうした。


わたくしごときがご尊名をみだりに口にするのは、ご不快ですよね。今まで気付かずに申し訳ありません」


 美人の目尻が涙で光った瞬間、俺はあっさり敗北した。


「いいです、そのままで!」


 どうせ国名で、すでにんでる。

 ハルルン国だ。のどかか!!


 ……やっぱり名前は、もっと練れば良かった。



 チートなハルルン国のもとに異世界が平伏ひれふし、ハルハル王の名が伝説へと昇華する未来は、すぐだった。

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王の名の秘密 みこと。 @miraca

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