40.まだ見ぬライバル

 俺達仙道リトルはグラウンドで表彰式を行った。監督と仙道リトルの主将である宮本先輩が代表して賞状を貰っていた。その後も慎ましやかに表彰式は終わり、俺達は全員ロッカールームでミーティングを行うことになった。


「みんな! 優勝おめでとう! だが、ここからだぞ! 8月にはすぐに全国大会が始まる。それまでに全員レベルアップに努めるように!」


俺達は大きな返事をして着替えることになった。女子は全員女子トイレで着替えるらしい。男女平等だとはいっても野球はやはり男子のスポーツだという感じがあるなと思った。


「なぁ高史。今年はどこでリトルの全国大会やるんだ?」


「確か、愛知だったかな?」


俺は着替えながら高史に全国大会が開催場所の確認を行った。この世界ではリトル、そして中学硬式野球の全国大会は毎年ランダムの都道府県で行われ、開催都道府県のチームは2チーム参加できるというルールとなっている。そのため、全国大会は北海道2チーム、東京2チームを含めた50チームのトーナメントで行われる。


「去年の全国大会、仙道リトルは確かベスト8で優勝チームの神奈川と当たって負けたんだっけ。今年も神奈川は横一リトルだと思うか? 高史」


「そうだな、神奈川の横一リトルにはあの甲斐谷がいるからな。まず間違いないだろうな」


甲斐谷幸輔、俺達の1つ上の世代のエース。左投げのピッチャーでスクリューとチェンジアップが得意な選手。緩急を上手く使って打者から三振を奪うピッチングスタイルであった。


「打者の滝上、投手の甲斐谷かぁ。今年はリベンジだな!」


俺達は着替え終わったので、球場の外に出た。すでに女子たちは外に出ており、本日はこの場で解散だった。


「高史、莉子。公園に行かないか?」


俺達は自転車に乗っていつもの公園に向かっていった。そして公園に着くとキャッチボールを始めた。


「司、お前はすごいよ。あんな観客の前で堂々たるピッチング。俺なんて見ることしか出来なかった」


「高史! それを言ったら私なんて大会で一度も出番なかったんだけど! まぁ出ても何も出来なかったけどね!」


莉子は自虐のように伝えてきた。高史はホームランを放ったが、莉子はこの予選で一度もグラウンドに出ることはなかった。本人としてもさぞ悔しいだろうと思った。


「俺だって緊張したよ。でも、俺は緊張よりもあの千陽リトルとバッターと全力で戦えることの喜びの方が強かったからな」


「・・・司、岡野さんとも戦いたかったか?」


「・・・そうだね、もちろん加山さんと戦えたことは楽しかった。でも本音も言うと、岡野さんとも投げ合いたかったかな」


決勝で岡野さんは投げなかった。その理由は彼女がエースでなかったからだ。加山さんは俺にホームランを打たれた後も調子を崩さずにピッチングをしていた。恐らくそれができる差が加山さんをエースとしたんだろうと思った。


「岡野さん、どうするんだろう・・・」


莉子が心配そうな表情をして俺達に伝えた。莉子の心配も分かる。俺達は恐らく中学に上がったら西東京第一シニアにいくと考えている。しかし、そこは女子が入れない。女子は軟式か私立の硬式野球部か別のシニアに行かないと行けないからだ。


「俺としては硬式野球を続けてほしいけどね。岡野さんなら絶対女子プロ野球選手になれるし、上手く行けば高校で甲子園に行くことだってできそうだしね」


「甲子園・・・私も行けるかな」


「「・・・」」


俺と高史は莉子の問いに答えられなかった。実力が足りないというわけではなく、ただ単純にそれ以外の環境が難しいと思ったからだ。公園にグラブでボールをキャッチする音が響いていた。


■■


「西東京の出場チームは仙道リトルになったようだ」


神奈川県のリトルクラブチームの強豪である横一リトルの監督が選手たちに西東京の結果を伝えていた。横一リトルと仙道リトルは前回し烈を極めた戦いを行い、決勝よりも激しい戦いをした中だったので、西東京の結果を注視していた。


「幸輔、滝上は怪我で出られないって言われていたけど、勝てたんだな。いいバッターっていたっけ?」


「・・・いいバッターはいなかったが、いいピッチャーがいた。多分そいつが活躍したんだろう」


甲斐谷には仙道リトルが勝ったことに驚いたが、考えてみれば妥当な結果だと考えていた。その理由は仙道リトルの4年生ピッチャー。野神という存在だった。


(あいつは練習試合でホームラン打っていたからな。4年生は決勝で投げないと思っていたし、投げても練習試合のような結果は残せないと考えたが、どうやらメンタルは太いらしいな)


「新山。投げるから受けてくれ」


「投げるって、今日は軽めにするんじゃなかったのかよ」


甲斐谷は新山を誘って、本気の投げ込み練習を行った。


■■


「え! 母さん、仕事変えるの?」


「いや、違うよ司。仕事自体は前と同じように野球のコーチだけど、コーチチームが変わるの」


「千恵、今度はどこのチームになるんだ? もしかして出張が必要か?」


母さんは元女子プロ野球選手。引退してもコーチとしての仕事はたくさん来るようであった。


「いや、大丈夫よ。東東京地区のチームだから今まで通りよ」


「なんて名前のチームなんだ?」


「私立・清恋せいれん女子大学付属清恋学園の中等部硬式野球部よ」


清恋学園、東京に済んでいれば知らない人はいないと思われる学校。通称女の花園。スポーツに力を入れており、女子のオリンピック選手やプロ選手を輩出している有名な学校だった。


「千恵、あそこに硬式野球部なんてあったか?」


「去年から出来たみたい。なんでも中高一貫の野球部で最終的には甲子園を目指すって」


(女子大付属ってことは女子校か。それで甲子園を目指すってすごいな)


女子が甲子園に行くのは難しい。しかも女子だけでとなるとそれは可能かどうか怪しくなるレベルであった。


「なんでもいろいろとそのために動いているって聞いているわ。内容までは分からないけど」


「でも、千恵。実際どうなんだ。受けるって決めたんなら、現場を見ているんだろ? 正直、甲子園って難しいと思うけど」


「それがあの清恋学園、本当に野球に力を入れているみたいで、プロ野球の施設かってくらいに設備が充実しているのよ。さすがお金持ちの学校だと思ったわ!」


俺はそんな事を考えながら夕飯を食べて寝た。次の日、俺は月刊リトルリーグの取材依頼があり、喜んだ母さんによって勝手にOKされて受けることとなった。


■■


(仙道リトルに現れる新生、4年生ながらに圧倒的なピッチングを披露する・・かぁ)


「おーい! 北山! 練習しないのか!」


「はーい! 今行きます!」


(俺と同じ4年生でマウンドに上がれるのか。受けてみたいし、対峙してみたいな)


北山と呼ばれた少年は月刊リトルリーグの雑誌をベンチに置き、練習へと向かった。


■■


(全国にはどんなすごい人がいるだろう・・・)


野神はベッドに入りながら、全国大会の強者と戦えることにワクワクしていた。


(どちらにしてもあの白球を支配して勝つのは俺だ!)


野神の戦いはこれからも続いていく・・・・



【あとがき】

ご愛読ありがとうございます!

物語は一旦区切りとします!

ありがとうございました!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの白球を支配しろ! ニート大帝 @hikikomori_king

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ