39.インタビューと岡野の進学先
「おっしゃー!!!!」
俺はマウンドで雄叫びを上げた。最後のボールを掴んだ木部先輩や内野外野のみんな、そしてベンチのみんなが駆けつけてくれた。俺達はリトルの全国大会への出場権を獲得した。そして仙道リトルは2年連続全国への出場を決めたことにもなった。俺達はグラウンドで盛り上がった後、整列をして試合を終えた。
「あの! 岡野さん!」
「・・・野神君」
「中学でも投げてください! そして今度こそ戦いましょう!」
「! ・・・ありがとう」
岡野さんはそう言うとベンチへ戻っていった。その顔は笑顔であった。俺の気持ちに嘘はない、加山さんと戦えて楽しかったが、岡野さんとも最後まで投げ合いたかった。もう俺達はリトルの場で戦うことはない。中学までのお預けだった。岡野さんの背中は整列前よりも背筋が伸びていたようで安心した。
「司! この後月刊リトルリーグのインタビューがあるらしい。監督が来いって言っていたぞ」
「え! インタビュー!」
俺は高史の言葉に驚いた。俺は前世でもインタビューなんて受けたこと無いからだ。俺は緊張しながら梶監督の元へ向かった。
「野神、決勝勝利投手のお前に是非インタビューしたいと申し出があってな。せっかくだ、受けてみろ」
「・・・はい」
俺は気乗りしなかったが、監督がどうしてもと言うので受ける事になった。インタビューを受けている間に表彰式の準備が行われるようだった。俺は梶監督と一緒に一旦球場の外へ出た。
「梶監督! 私は月刊リトルリーグの記者の
「ありがとうございます!」
インタビューに来た記者は前に俺が高史から借りたリトルリーグの雑誌、月刊リトルリーグからだった。高史曰く、月刊リトルリーグは俺達のような少年野球をする子供に取ってはバイブル的なもの。そんなところからのインタビューに俺は更に緊張をしてしまった。
「この度の優勝のポイントは何でしょうか?」
「そうですね、やはり選手を信じて戦ったところでしょうかね。今回の決勝に滝上は怪我で出場できませんでした。そのため、選手には動揺が走ったと思います。しかしそれを乗り越えて結果を出してくれた選手たちには感謝しか無いです」
監督の言っていることは事実であった。滝上先輩なしで俺達は勝てるか不安だった。しかし監督が俺達の事を信じてくれたおかげで力を出せた。この梶監督は俺達をちゃんと見てくれているという安心感があった。
「なるほど。確かに滝上君の離脱は痛かったですね。ですが、それでも勝てたということはやはりジュニアの時から野球をしていることが良かったのでしょうか?」
「そうですね、ジュニアチームを持っているリトルクラブはこの辺だとうちと千陽リトルさんだけですからね。ジュニアから徹底的に野球の基礎を学んだことは選手たちの力になっていると思います」
その後も梶監督と原口さんという記者のやりとりが続いた。俺への質問は無いのかなと思っていたが、突然原口さんから質問をされた。
「ところで、野神君! 君は本当に4年生でいいのかな?」
「え! は、はい! そ、そうです!」
俺は危うく否定をしてしまいそうだった。俺は転生者、今の身体年齢はともかく精神年齢は恐らく原口さんを越えているだろう。
「4年生にしては堂々としたピッチングをしていたわね! 緊張はしなかったの?」
「そ、そうですね! 緊張はしましたが、高揚感の方が強かったです!」
実際俺は緊張していたのは間違いない。あんな観客の前で俺はボールを投げたことなど前世を含めてなかったからだ。しかし、俺はそんなことよりも千陽リトルの打線と戦えることが嬉しかった。
「うんうん! そうなんだね! 君はいいピッチャーになれるね!」
「ありがとうございます!」
「私からも一つ、野神君いいかな?」
原口さんの隣にいた男性記者が手を上げて俺に確認を取った。俺は大丈夫と応えて男性記者の質問を待った。
「私は
「・・・プロ野球選手です」
「なぜ?」
「おれ・・・僕のまだ見たことのない選手たちと戦って、勝ちたいからです!」
「そうか、ありがとう。応援しているよ」
名取さんの質問が終わると同時に球場のスタッフが俺たちのもとに来て、表彰式の準備が出来たことを伝えてきた。俺と梶監督はインタビューを切り上げて、グラウンドへと向かった。
■■
「先輩、なんであんな質問をしたんですか?」
「野神君が今後、日本の野球を背負って立てるかの確認のためだよ」
「球界を背負うって、まだ子供ですよ!」
俺は原口の言っていることも分かった。でもその質問をしたくなった。あの子の目にはとてつもない意志を感じたからだ。
(普通の子供ならカッコいいからプロ野球選手になりたいとか、お金持ちになりたいからとか、アナウンサーや芸能人と結婚できるからっていう理由を言うと思った。でもあの子の言葉は建前で言っているのではなく、本音で言っていた)
「そうだな、まだ子供にそんな事を背負わせるのはいけないな」
「そうですよ! 野神君の今後に期待しましょ!」
俺達はこの決勝の事を記事にするべく、会社へと戻った。
■■
「今度こそ戦いましょう・・・か」
私は千陽リトルのロッカーから荷物を持って女子トイレへと向かった。男子達が着替えているため、女子が着替えるのにロッカーではダメだった。そして着替えながら私は野神君に言われた言葉を思い出していた。
(私は中学に上がったらどこまでやれるのかな。フィジカルじゃ絶対に男子達に叶わなくなる。それに千陽と仙道リトルの選手が行く西東京第一シニアには私は行けない)
私はユニフォームを脱いでしまいながら今後の事を考えていた。西東京第一シニアは今どき珍しく、男子しか入団を認めていない。中学生の女子が硬式で野球をするためには家から遠くの別のシニアに通うか、私立中学の硬式野球部に入るしかなかった。
(ここから別のシニアに行くとなると、そもそも通えるのかが疑問になる。どうしよう・・・)
私は焦っていた。硬式野球を諦めて軟式で野球するかどうかを。ただし女子が一度軟式で野球をしてしまったら、高校で硬式野球部に所属して甲子園を目指すことはほぼほぼ0になる。
「はぁ・・・」
私はため息を突きながら女子トイレから出た。
「はぁ、はぁ、岡野先輩! いいですか!」
私が女子トイレを出ると、後輩の華蓮が走って私の元に来たようであり、息を切らしていた。
「どうしたの、華蓮? なんかあった?」
「先輩にどうしても会いたいっていう人が監督のところに来て、私が呼びに来たんです!」
私は華蓮に連れられて私を呼んでいる人というところに行った。球場の外にいた人物は私のお母さんよりも歳上だと思うが、かなり若い雰囲気のある淑女だった。いわゆる美魔女だと思った。
「岡野香澄だね。待っていたよ。君に話がある。いいかい?」
「単刀直入に言う。私立清恋学園中等部の硬式野球部に入らないかい?」
「え!」
私は嬉しかった。女子の硬式野球部からの直々のお話。断る理由はなかった。それに清恋学園は中高一貫、ということは高校でも硬式野球に携われると思った。
「それにもう一つ、伝え無いといけないことがある」
「・・・それは本当ですか?」
「あぁ、今年は無理かもしれないが、来年は必ず来る。すでにある選手から返事は貰っている」
「是非、清恋で野球をさせてください!」
私の進学先が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます