♡大人の階段♡

 私は今、唯華と手を繋いで歩いています。周りからはどう思われているのかなぁと考える。仲の良い友達同士だなぁと思われているのだろう。まさか、付き合っているとは思わない。少し前の私なら同性同士が手を繋いで歩いていても「凄く仲が良いんだ」と思うだけだっただろうし。

 もっとも今は私たちと同じかなぁと思ってしまうことだろう。

 小学生の私とか、中学生の私とか、キスをする前の私とかに「唯華と付き合うことになるよ」と言ったらどんな反応をするだろうか。嘲笑するだろうなぁ。きっと。けれど、付き合うことになっちゃうのだから、人生って本当にわからない。


 「唯華」

 「ん?」

 「あのね」


 家が近付く。ドキドキと胸は高鳴る。

 付き合った。キスもした。そうしたらすることなんて一つに決まっている。


 「今日ね、ウチ両親いないの」

 「いつもじゃん」


 私の言葉に唯華は風情もなにもないことを返してくる。いいや、その通りなのだけれど。雰囲気というものがあってね。と、文句を垂れたい気持ちが湧き出てくるけれど、グッと堪える。


 「と、とにかくそういうわけだからさ。来ない?」

 「雛乃の家に?」

 「そう。私の家に」


 唯華を家に誘う。なんてことのない行為なはずなのに妙に緊張してしまう。唯華の返事が待ち遠しく、怖く、恐ろしく、聞きたいけれど聞きたくない。そんな感情にさせられる。


 「うーん」


 なぜか答えは芳しくない。即答してくれると思っていた。


 「まぁ行こうかな」

 「うん」


 私だけが舞い上がっているのかな、と不安になる。

 不安になりながらも、やることはやりたい。私の中に芽生える感情を処理するために、家へと招く。

 手を繋ぎながら家へ入る。そのまま部屋へと直行する。

 静寂に包まれている私の部屋。

 下腹部がもぞもぞと熱を帯び始める。

 唯華の顔を見る。どんな表情をしているのだろうと、様子を見る。唯華はぼけーっとしている。なにを考えているのかイマイチわからないような表情であった。というか、なにも考えていないのではないかと思わせるような表情である。そんなことはないとは思うけれど。

 私はベッドに座る。こうなったら私がリードするしかない。

 あ、ちょっと待って。わかってしまったかもしれない。もしかして、私の身体があまりにも魅力的じゃないから、そういうことをする気分にならないのではないだろうか。

 私のおっぱいは唯華みたいに大きくないから。きっと唯華からすれば楽しくもないのだろう。そんな私が誘うのは烏滸がましいよね。

 けれど、私だって好きな人とそういうことをしたいという欲はある。だって人間なんだもの。


 「ねぇ」


 私は自分でも吃驚するくらい妖しい声を出す。ちょっと気持ち悪いなとさえ思ってしまうほどだ。制服の裾を指で摘まんで、ぐいぐいと優しく引っ張る。

 唯華は不思議そうに私のことを見つめる。振り返ったので手は離す。その空いた手でぽんぽんとベッドを叩く。もふもふと私の手形がベッドに残った。小さいなぁと思う。

 その手形を消すように唯華はベッドに座った。

 目を合わせると、わざと目を逸らす。


 「なんで目を逸らすの」


 唯華の顎を指で掴んで、顔をこちらに向ける。そして目を合わせる。唯華の顔はみるみるうちに朱色に染まる。

 そしてまた目を逸らす。意地でも目を逸らす気なのがわかった。解せない。なぜ逃げるようなことをするのか。


 「唯華」

 「ひゃい」


 返事はするもののやはりこちらに顔を向けることはない。

 そっちがその気なら、こちらだって色々考えはある。

 ちょっと狡いかなとか思うけれど、ずっと目を逸らそうとする唯華に比べれば幾分かマシだと自分に言い聞かせる。そして行動に移す。


 「私のこと嫌いになっちゃった?」


 笑みを浮かべながら問う。けれど声色は本気風を装う。もちろんそんなこと思っていない。今日の今日で嫌いになるとか、唯華はそんな薄情者じゃないとわかっているから。


 「嫌いにはなってないよ」


 慌てて否定をする。そして私のことを見る。安堵するような表情を浮かべる。


 「じゃあ、なんで顔を逸らすの」

 「いや、だってさ」


 キョロキョロと落ち着かない様子で周囲を見渡す。見渡してから、諦めるようにため息を吐く。


 「彼女の部屋にやってくるってそういうことかなぁとか思っちゃったから。雛乃がそんなの考えてないってわかってんのに、ずっとそうかもしれないって考えちゃうから。だから意識を背けてたの」


 熟れたトマトみたいに顔を赤くする。

 私だけが舞い上がっていたわけじゃないんだとホッとする。


 「私も思っていたから大丈夫」

 「ううん。雛乃はわかってないよ」

 「わかっているよ」

 「わかってない」

 「大丈夫。良いよ。唯華」


 私は手を広げる。唯華は躊躇しつつも私の胸に飛び込む。胸元に柔らかな感覚が走る。


 「私は変態だけど」

 「受け入れるから」

 「どうしようもない変態だよ」

 「それじゃあ、私の胸じゃあ物足りないかも」

 「ううん、大丈夫。雛乃のおっぱいは魅力的だから。小さいけど、その小ささが良いんだよ」

 「え、あ、うん……」


 小さな胸を褒められるのは複雑な感覚になる。


 「本当に良いの?」

 「良いよ。だって私は唯華の彼女だから」


 制服に手をかけられる。布が一枚、また一枚と私の元から消えていく。

 小さな頃、一緒にお風呂に入ったりしていたけれど、その時には味わうことのなかった恥ずかしさが湧き出る。


 「かわいい」


 私の小さなおっぱいを指で撫でながらそんなことを呟く。


 「うるさい」


 頬を膨らませながら不満をアピールする。唯華の手を掴み、唯華の衣類を脱がす。上半身も下半身も。一糸纏わぬ姿だ。

 けれど、生まれた時の姿とは形容できないほどに成長しきっている。なによりもデカい。大人だ。唯華から見れば私なんてただの子供なのではないだろうかと不安になる。

 不安を見透かしてか、否か、唯華は私の唇を奪う。舌をねじ込む。

 なぜかキスに安心感を覚える。けれど、お互いに裸でするキスは妙な背徳感があった。

 いけないことをしているような気分になる。意味のわからない高揚感もある。

 蕩けそうなほどに、口づけを交わして、一度離れる。

 唯華は私の肩を掴む。そして私のことをジッと見つめる。

 私も唯華のことを見つめる。お互いに見つめ合う。

 裸で、なにをすることもなく、ただ互いに見つめ合う意味のわからない時間だけが過ぎていく。


 「えーっと」


 雰囲気を壊してしまうような気もしたけれど、声をかけなければずっとこのままなような気がして、声をかけてしまう。


 「あの……」


 唯華は苦笑する。


 「女の子同士のエッチってここからどうするんだろう」

 「え、私も知らないよ」

 「知らないの」

 「知らないよ」

 「そ、そっか」


 唯華は苦笑から引き攣った笑いに変わる。そして、脱ぎ捨てられていた制服に手を伸ばす。


 「服着ようか」

 「終わり?」

 「わかんないんじゃどうしようもないし。今日はその、動画で勉強しようか。女の子同士のエッチ」


 案の定雰囲気もなにもなくなってしまった。とはいえ、わからないのならどうしようもない。


 「そうだね」


 私は裸のまま、唯華の肩に肩をぶつける。そしてそのまま寄りかかる。

 温かな感触が広がる。


 「勉強しようか」


 唯華はぽとりと制服を床に落として、スマホを手に取った。

 私たちはこうしてまた一歩大人になっていく。

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ファーストキスを奪い合った女子高生二人は初心で面倒くさい こーぼーさつき @SirokawaYasen

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