いつもとちょっとだけ違う日
荘蒸
いつもとちょっとだけ違う日
俺の毎日は別にいつだって変わりはない。取り敢えず大学に行ってなんとなく講義を聴き、遊ぶ金欲しさとか一応就職に有利かなとか思ってバイトに行き、合コンに行っては可愛い子探している。至って普通の大学生だ。
その日はいつもよりちょっとだけ早く目が覚めた、15分程度のことだけどいつも寝坊して遅刻ギリギリダッシュ登校の俺としてはだいぶ珍しい。2限まで余裕ができてちょっと嬉しかった。目玉焼きを焼いてみたりして久しぶりにゆっくり朝ごはんを食べた。
「わりーんだけど、俺これから用事できちまったから3限の代返頼んでいい?今度メシ奢るからさっ」
いつも真面目な友人が珍しく代返を頼んできた。どうやらバイトで欠員が出たからヘルプに入るらしい。わざわざ大学サボってまでバイトはどうなんだ?いつも締切とか待ち合わせとか律儀なやつなのに。聞くところによるとアイツはバ先の美人店長に夢中らしいし、恋は人を堕落させるってのもあながち間違いじゃないのかも。俺も可愛い彼女に夢中になりたい。
学食での俺の好物はカツ丼だ。たいていカツ丼ばかり食べてる。それなのに今日は売り切れらしい。他のメニューを食べるのはずいぶん久しぶりだけど、なかなかここのカレーは美味い。たまには別の味を食べてみるのも新発見があってなかなか悪くない。
俺の学校終わりはたいてい友達と合コン参戦だ。今日もこれから友達三人と合コンだ。本日は美人が多いと噂のS女子大と奇跡的にセッティングが成功したのだ!2ヶ月前に彼女と別れてから、人肌恋しくて誘われるままに飲み会や合コンに繰り出しまくっている。
結論から言う。合コンは俺的には失敗だ。
噂と違わずS女は可愛いが正直俺のタイプはいないかった。顔面ももちろん、身につけているものから普段の趣味まで、正直どこにでもいるような男子大学生に満足していただけるような方々ではない気がする。どうしてそんなにそこかしこにブランド物のバッグやらコートやらを使えるんだ?元彼の話を聞いたって外車でお迎えとか別世界すぎる。俺は庶民的で優しくてしょーもないことで笑ってくれるような背の高めの笑顔の可愛い子がタイプだ。どうやら友人の一人はお持ち帰りに成功したみたいだが、アイツにお嬢様を満足させられるのか?もうS女との合コンなんて二度とないだろうが正直もうお腹いっぱいだ。憂さ晴らしにヤケ酒でもしよういい飲み屋はどこかにあっただろうか。
天使がいた。
繁華街の雑踏の中に輝く天使みたいに可愛い子がいる。あまりにも可愛い。
黒髪ショートヘアのよく似合う小顔で、すらっと伸びた足も長めのまつ毛も何もかもタイプすぎる。
いつもならナンパなんて絶対しないんだけど、酒も入ってたしヤケクソになって何かが俺の背中を押した。
「ねぇすごい可愛いね。超タイプ。よかったらちょっとだけ付き合ってくれない?奢るからさ!」
「良いですよ。実は誰かとお話ししたかったんです。お兄さん好きなタイプなので声かけてもらえて嬉しいです。」
まじか。人生初ナンパはなんと成功してしまった。か、可愛すぎる。少し低めのハスキーな声がたまらない。はにかんだように笑いかけられて落ちない男なんているのか?何かいいたげに上目遣いにこっちをみないでほしい眩しすぎて直視できない。
「お兄さん。本当にこれから付き合ってくれるの?」
「もちろんだよ。俺が声かけたんだし、いい店があるんだ一緒に行こう」
「嬉しい!じゃあもうお兄さんとは恋人同士だね。」
「え?俺らいつ付き合うことになったけ?」
「お兄さんが『付き合ってくれない?』って言ったんでしょ?だからもう恋人同士だよ。携帯貸して?連絡先交換しよ。浮気は許せないタイプなんだけど、代わりに尽くすタイプだから!」
気づいたら連絡先交換が終了してた。随分と強引で積極的な子だけどこんな可愛い子が彼女になってくれるっていうなら多少の束縛や強引さなんて全然我慢できる。こんな幸運が降ってくるなんていつもとちょっと違うことをしたから神様が気まぐれに出会いをくれたのか?
「じゃあ、早速飲みにでも行こう。そんなに可愛いのに会ったばかりのやつと恋人になんかなって大丈夫なの?俺はこんなに可愛い彼女ができて幸せだけどね」
「お兄さん何言ってるの?お兄さんにたった今できたのは彼女じゃなくて彼氏だよ。僕お兄さんのこと絶対満足させるから、これから僕の恋人としてよろしくね」
そう言って艶やかに微笑む彼女のいや、彼の瞳から目が離せなかった。
いつもと少しだけ違う日は全く違う日常への入り口だったのかもしれない。
いつもとちょっとだけ違う日 荘蒸 @sojo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます