第29話

 ようやく出された水に口をつけていると、おかめは目の前でネギの千切りを始めた。


 エプロンをきつく締め直して包丁を握る姿は真剣そのもので、小刻みに揺れるお団子テールに合わせ、ものすごい勢いでネギが細切れになっていく。

 普段テレビでしか見られないワザに、思わずおぉーと声が漏れる。


「……変わったね」

「え? 私?」

「他に誰がいるの」


 手元で丁寧に仕事をこなしながらおかめは続ける。


「昔はおちょくったりなんてしてこなかった」

「そうだっけ」

「……ていうか、わたしのところに押しかけてきたりなんてしなかった」

「……」


 返す言葉も無かった。


「似てきたんじゃない? 彼氏に」

「えっ」

「違うの?」


 手を止め、見つめかえされる。

 目を丸くしているものの、そこまで驚いた様子はない。

 一方私は耳元まで真っ赤になっている気がして、たまらず目をそらした。



────────────────────────────────────

この小説のトップページ(表紙)または最新話のページの『★で称える』の+ボタンをいっぱい押したり、ハートを押したりして応援していただけるととてもうれしいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツインテールな君 羽川明 @zensyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ