第28話

 ツインからすいている時間と曜日をそれとなく聞き出し、ついに訪れた火曜の昼下がり。

 私は単身で味一番のスッポンラーメンに潜入する。


 冷房の効いた店内は思ったよりすいていて、奥の席で眠りこけている白髪のおじいさん以外お客さんは見当たらない。

 この前のようなかけ声もなく、というか誰も現れず、私は勝手にカウンター席の一つを陣取った。


「ご注文はお決まりでしょうか」

「うわっ!?」


メニューに手を伸ばしかけたタイミングで突然横から声をかけられ、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 取り損ねたメニュー表がイスの足元まで転げ落ちてしまった。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 少し間を置いて、何事もなかったかのように繰り返す女性の店員さん。

 とういか、私の幼なじみ。


「いや、拾ってよ」


 聞こえているのかいないのか、二つに結んだお団子テールは無表情のまま微動だにしない。


「……」

「……」


 沈黙を沈黙で返される。

 交錯する二つの視線。

 冷房の風でかすかに揺れる、ツインテールとお団子テール。

 沈黙を破ったのは、意外にも私だった。


「……おかめ納豆」


ぼそりとつぶやいた瞬間、メモを取るボードでバシンと叩かれる。


「いたっ」

「ご注文はお決まりでしょうか」


 間髪入れずに繰り返す。


「あの、そういえば水まだ?」

「ご注文は以上でよろしいでしょうか」


 よろしいわけがなかった。


「怒ってる?」

「……」


 ちょっぴりご立腹のようだ。

 ちなみにおかめ納豆というのはこの子の中学時代のあだ名で、どうも短くて丸いまゆ毛が某納豆メーカーのパッケージのそれにそっくりらしい。


 当たり前だけど、本人はあまり気に入っていない。


 言い出したのは確か男子だったと思う。

 しょっちゅうそうやってからかっては強めに叩かれて泣いていた。


 個人的には、おかめというより目つきの悪い豆柴と言った感じだ。

 思い出にひたっているといつの間にかものすごい形相ぎょうそうで睨まれていることに気づいた。

 無言の圧に押され、とりあえず目についた札を読み上げる。


「じゃあ、……味噌ラーメンで」



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