第27話

「ラーメン屋に行こう」


 ソファで寝転がる背に言い放つ。

 君はゆっくりと起き上がってのそのそ支度を始めた。

 OKらしい。


「久しぶりだね、こういうの」


二人きりのエレベーターをおり、並んで歩き出す僕ら。

 返事の代わりに君は小さくうなずく。

 行き先はずばり味一番のスッポンラーメン。

 少し歩いた交差点の角にそれはある。


 着くまでの間会話が続かないのがい不機嫌だからなのかいつも通りなのか、気が気じゃなかった。


「……まだ怒ってる?」

「……」


 うつむいたまま返事はない。


「二名様入りまーすっ」


 中へ入ると軽快なかけ声とともにテーブル席へ案内される。

 昼間にしてはややすき気味の店内で、僕らは窓際の席についた。


「意外と冷房効いてるよね、ここ」


 パーカーのチャックをあげながら、何気ない風に声をかける。


「……」


 またもや無反応だった。

 ……気のせいか、さっきから視線をそらされている気がする。

 向き合って座っているのに驚くほど視線が合わない。


「ねぇ?」


 遮るように置かれた水に口をつける君。

 ほぼ同時に店員さんが来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


 びっくりしたのか、君は吹き出してむせ出す。


「……ご注文はお決まりでしょうか?」


 少し間をおいてから、何事もなかったかのように繰り返す店員さん。

 すました顔でこちらを見てくる。


「じゃ、じゃあ、醤油ラーメンと、味噌ラーメンで」

「かしこまりました」


 すっと背を向け、そそくさと帰っていく。

 振り返りぎわ、テールの方を横目で見たような気がした。


「大丈夫?」


 むせっぱなしの君はコクコクうなずきながら、落ち着かない様子でさっきの女性店員さんの背を視線で追いかけている。

 知り合いなんだろうか?

 無意識に僕もそっちばかりが気になってしまう。


 さっきの店員さんはレジの向こうへ引っ込んで、麺を入れたカゴを持ち手でしゃんしゃん湯切りする。

 身長はテールより少し低いくらいだろうか?


 カゴに合わせて、二つに結んだお団子から伸びるふさが上下に揺れている。

 お団子テール、とでも言うべきだろうか?

 あまり見かけない髪型だ。


 顔は、目つきの悪い豆柴みたいで、けっこう整っていた。

 ラーメン屋さんのエプロンよりチャイナドレスが似合いそうだ。

 けれど気になるのはそれくらいで、見覚えはなかった。




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