本作には「百合」「ガールズラブ」のタグが付されています。
なるほど、違いありません。
ですが本作を読んだ率直な感想を申しますと、本命は別のところにある気がします。
「高校生から二十代前半に読んで欲しい」という企画に参加されていることに、本作の性質がうかがわれるように感じます(わたしは高校生でも二十代前半でもありませんが)。
主語が大きくなってしまい恐縮ですが、この社会では男どうしの友情を美化するあまり、女どうしの友情を軽んじてきたきらいがあるのだろうと思いました。
友情が友情以上のものになったときでさえ互いを思いやる気持ちは、女どうしだからと言って劣るとはとうてい思えません。
今さらですが、わたしたちは必要以上に性別に拘っているにちがいない、と本作を読んで改めて思いました。
もったいぶったことを書き連ねてきましたが、南国の海辺の空気を感じたいひとも、是非ご一読あれ。
定期的に主人公の綾子が会いに行くのは、入院中の夏希。
夏希の無頓着さが好きで嫌い、特別扱いしたくない、一緒に卒業したい、秘密を知られたくない。
綾子が夏希の携帯で見た「は」の予測変換候補で先頭に表示された言葉には、彼女の秘密が。
二人は秘密をひとつずつ、持っているのです。
天使の存在を身近に感じる病院で、夏希は点滴を繰り返すたびにきれいになっていく。
もしも天使がいるなら――
綾子の震える心が見事に表現されていて、美しい描写が読み手に場の空気感までありありと想像させます。
その空気の中には、二人のもつ秘密の濃密さや、病院内に漂う「生」と「死」両方が含まれています。
一緒に卒業できたら、綾子が天使の存在を意識することはなくなるのでしょう。
いつか本当のパジャマパーティーを開くことができたら、もう営業終了後の遊園地のような静寂などは感じなくなるのでしょう。
その時、秘密はどうなっているのでしょう。
読了後にも様々なことを想像させてくれる、大好きな作品です。