第2話
同じ時期に入社したのに、私が先にエリア長に昇格したことで凌太のプライドを損ねていることはわかっている。けれど、大した努力もせずに上司からの極めて真っ当な指導に悪態をつく凌太の側面は親に買ってもらった車を自慢する見せびらかすことに近い恥を感じるようになった。それと付き合っている私もたいそうな人間ではないように思えてくる。
あと一ヶ月で三十歳。自分の能力の無さを周囲のせいにしている彼に好意がなくなっていく。別に高い給料を要求しているわけではないが、せめて仕事のできない自分を認めて努力してほしい。
凌太が十一個目の転職サイトのタブを作ったのを横目に確認しつつ、私はマッチングアプリをインストールした。こんなので良い出会いがあるのだろうかという疑念が、凌太より良い男と出会えるかもという膨らんだ期待に押し潰されていく。
スクロールしながら男のアイコンを確認していくと、指が硬直した。親指で凌太の顔を踏んでいた。何でお前が私を捨てようとしてるんだ。私がプロポーズを逃げ回っているからか。転職活動といって実際はアプリでマッチングした人と密会していたりして。とはいえ低スペックなヤツにフラれるのはさすがにきつい。
ただ、仕事のできない愚痴まみれの凌太が転職活動も女とのマッチングも成功するはずがない。プロポーズを避け続けた後ろめたさは、バカみたいな笑顔の凌太のアイコンの前に鳴りを潜める。
三十歳でゲーム好きの女は需要があるだろうか。ある程度仕事はできる方だ。男にとっては守りたいという欲を刺激しないかな。そういえば中学生くらいのときから二十代で子どもを産みたいと思っていたな。五十代で孫が生まれて若いお婆ちゃんになりたかったんだった。あと一ヶ月で二十代が終わる。夢は叶えられそうもない。ごめん、私。三十代に賭けるわ。
離れどき 佐々井 サイジ @sasaisaiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます