4


 夏休みは、瞬く間に過ぎ去ってしまう。空はまだまだ鮮やかな群青に澄み渡り、蝉も鳴き続けているというのに、あっという間に授業の再会が訪れた。

「よし、今日から学校だな。休み気分から早々に切り替えろよ」

 担任の話に、由花は「だるっ」と呟く。今まで怠けていた分、生活リズムを取り戻すのが難しいようだ。

「それと、今日は転校生が来ている。入ってこい」

 ガラガラと扉が開かれる。同時に足を教室に踏み入れたのは、一人の少女。腰まで届きそうな黒髪を靡かせ、姿勢良く歩いてくる。優しそうで、でも何処か意思の強さも見える雰囲気を纏う彼女の姿に、由花は既視感を覚えた。

 彼女は教卓の隣に来ると、教室をぐるりと見渡してから桃色の唇を釣り上げた。

明美あけみしずくです。県外から来ました。体が弱くて、特に夏に体調を崩して入院していることが多かったのですが、今はもうすっかり治ったので皆さんと沢山遊べたら嬉しいです。よろしくお願いします」

 礼儀正しくお辞儀する彼女は、真面目と言う言葉が似合いそうだと由花は思った。

「明美の席は……和田の隣だな。あそこの空いている席を使ってくれ」

「はい」

 雫は指定された通り由花の隣にやって来て、自然に腰を下ろす。それから、隣を向いて優しく笑った。

「よろしくね。和田さん」

 感じ良さそうだな、と心の中で呟きながら由花も笑顔を浮かべる。

「由花でいいよ。こっちこそ、よろしく」

「由花、いい名前だね。私も雫って呼んで。ところでさ、由花」

「ん?」

 教えた名前を瞬時に呼ばれ、由花は首を傾げる。にやり、と少し悪戯っぽく笑った明美雫に、由花は真面目と言う言葉を彼女に使うのは違うかもしれない、と思わされる。

 案の定、雫はこんなことを尋ねたから。

「由花って、暇人?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る