車の滑り場(危機一髪)
岩田へいきち
車の滑り場(危機一髪)
何故なんだ?
ここは、九州の平地。決して山ではない。なのに、ひとたび雪が降るとたちまちアイスバーンが出来、この坂を登れない車が続出。渋滞して会社にも間に合わなくなる。以前、ここ、Naちゃんちの前で止まってる時、対向車が下りなのに、前輪を空回りさせながら、ちょっと進んでは、後部が横滑り。石垣にガ〜ン。めげずに進んで、ガ〜ン。ガン、ガンガンと下って行ったのを見たことがある。どうしてここはこんなに凍ってしまうのか? さては、Naちゃん、雪女の娘?
まあ、それはどうでもいい。昨日から徹夜で今日の出張の資料を作っていた俺は、朝帰りでこの下り坂に差しかっている。夜中、雪が降っていることは知っていたが、俺の車は、4輪駆動のビッグ……ンむしろ雪道を走ってみたい。気にせず、朝まで仕事を続けた。帰って、風呂に入って、スーツに着替えたら出張へ出発だ。
周りは、銀世界。登りの車がそろそろ渋滞し始めている。それでも俺は楽勝。四駆だで。
えっ、何?
滑ってる? し、しまった油断した。勢いあり過ぎる。前の車は、既に止まっている。四駆もブレーキをかければ滑ることは、知ってるが、四駆がこんなに滑るなんて、なんて強力雪女が住んでるんだ? いや、今は、そんなことを言っている場合じゃない。どうする? 止まらなきゃ。止まらない。このまま行けば、前の車に追突だ。このデカい車がぶつかったら運転手が怪我をするかもしれない。あ〜、滑る。滑る。このビッグ……ンの横腹をNaちゃんちの石垣や塀に擦って止まるべきか? ああ、もうぶつかる。
俺は、無駄とは思いつつ、もう一度ブレーキを踏む。
ああ、当たった。
?? あれ、衝撃がない。いやぶつかってるだろ?
えっ? 当たってない?
髪の毛一本か?
ああ、神様ありがとう。もう四駆だからって、雪の日に偉そうな走りはしません。どうか許して下さい。
俺は、神様に感謝しつつ、今度は、ゆっくりと車を走らせた。右側に車で行くことを諦めて歩いて学校へ通勤しようとしている娘の副担任のF先生が。
「先生、おはようございます。乗っていきませんか? 大丈夫ですよ。どうぞ」
さっき、ぶつかりそうになって危機一髪だった事は言わない。
F先生は、大学のひとつ後輩のマドンナだった。当時からの憧れの先生である。その先生が俺の助手席に乗る。銀世界を眺めながらふたりドライブだ。なんて、素晴らしいんだ。四駆よ、ビッグ……ンよ、ありがとう。
いやいや、過信はいけない。さっき、滑ったじゃないか。俺は、慎重にうちまでの途中にある小学校にF先生を届けて出張へ出発した。もちろん、行きの電車の中では、爆睡である。F先生とドライブ出来たことをもう一度夢見ながら。
でも、俺は気づいていなかった。フロントガラスが平面なビッグ……ン運転席と助手席は、対向車からは丸見えなのだ。対向車線には、多くの同僚が会社に向かって車を走らせている。
『岩田さん、綺麗な女の人を助手席に乗せて朝帰りしてました』
そう、そんな噂が広がる『危機一髪』だったのだ。
終わり
車の滑り場(危機一髪) 岩田へいきち @iwatahei
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