対話

「…寒っ」

 

 

 

部屋着のまま広場に来てしまったが為に寒過ぎて風邪を引そうだ。ノースランドの気候にこの薄手じゃ合わない。

 

 

 

(上着着て来れば良かったなぁ)

 

 

 

若干の後悔が胸中に湧いたが、そのまま広場へと向かう。

 

時刻は昼を回っていたので、依頼を達成した互助会のみんなが昼ごはんを食べに帰って行く様子が見える。

 

 

 

「アスターにまた気絶させられたって聞いたぞー」

 

 

 

「うるさいなぁ」

 

 

 

会う人一人一人にそんなことを言われた。親父の奴、さては私の醜態を晒した挙句、言いふらしたな?

 

若干恥ずかしくはあったがこれもいつものことなので軽く流す。

絶対にどこかでアスターへ仕返しはするが。

 

 

 

皆んなは私にかなりよく接してくれている。もう一員として馴染んでいる。私は幼少期から育てられてはいるが途中から参加したよそ者なのは変わりない。それにも関わらず仲良くしてくれると言うことは、あの少年だって時間をかければ打ち解けられるだろう。

 

 

 

(私がその架け橋になってやろうじゃないか)

 

 

 

互助会のメンバーが増えることは良いことだ。人手も有るに越した事はないし、互助会に新しい風を入れる事も大切だと私は考えている。

 

 

 

そう思案に耽っている内に私は広場へ着いた。広場は昼間頃には子供達の遊び場になっており、子供のはしゃぐ声が絶え間なく聞こえている。私は広場の中へと入った。

 

 

 

「あ、メルだ!」

 

 

 

私に気づいた子供たちが一目散に駆け寄ってくる。この小ちゃい悪魔は体力が有り余っているため遊ぶ時はいつも私がギブアップしてしまうのだ。

 

 

 

「今日も鬼ごっこしない?」

 

 

 

いつもならノースランドでの仕事を抜け出す口実として快く受けるが、残念ながら今日は珍しくやることがある。

 

 

 

「ごめんみんな、今日は出来ないや。聞きたいんだけどさ、最近来た外の男の子何処にいるか知ってる?」

 

 

 

少年の話題を話した途端、子どもたちの顔つきが険しいものに変わる。

 

 

 

「あーあの人?何か広場の木のそばでぼーっとしてたよ。仕事すればいいのに」

 

 

 

(中々辛辣だなぁ)

 

 

 

どうやら外の人嫌いは子供にまで伝播しているらしい。ここまで顕著なのも問題だ。この子供達が大人になる頃には皆んな仲良くできるように変えていきたいと思っている。

 

 

 

「もっと外の人に優しくしてあげて。あと手にまた雹付いてるよ」

 

 

 

「ん、ありがと」

 

 

 

私は子供の手についていた雹を落としてあげて、少年のいる方向へと歩いていった。少年は俯いたまま動こうとしない。お腹痛いのかな?先ずは話しかけてみよう。

 

 

 

「おーい少年、お腹痛いのか?」

 

 

 

返答はない。本当に体調が悪いのかもしれない。

 

 

 

「別に」

 

 

 

やっと帰ってきた返事はあまり元気の良いものでは無かった。まぁ互助会のみんなに冷たくされたらこうもなるだろう。

 

私は話を広げてみる。

 

 

 

「そう言えば名前聞いて無かったよね。何て名?」

 

 

 

「…イーサン」

 

 

 

「かっこいい名前じゃんか、いいね」

 

 

 

(…気まずい。間が持たないな)

 

 

 

先ほどまでの無邪気さが嘘かのように今のイーサンに活力は見られない。会話を楽しみたい気分ではないようだ。何か嫌なことが起こったのかもしれない。

 

私はイーサンの隣に腰を下ろす。

 

 

 

「ファミリーネーム、聞かないのか?」

 

 

 

「え?あぁ、じゃあ苗字何?」

 

 

 

ちょっと予想外の質問に驚いてしまった。何でファミリーネームを気にする必要があるんだ?私はアルストとの会話を思い出す。

 

 

 

『…あのガキは孤児だよ』

 

 

 

なるほどね。そう言うことか。

 

全く、子供にそんなことを考えさせてしまっては大人失格だな。

 

 

 

(最も、私も子供と言えば子供だが)

 

 

 

「ただのイーサンだよ。だって孤児だから」

 

 

 

どうやらイーサンは自身が孤児であることに対してコンプレックスをもっている。そんなもの気にしない事が吉なのではあるが子供心にはそんなことを言ってもしょうがないだろう。

 

 

 

「あっそう。それなら私もただのメルだけど」

 

 

 

「え?」

 

 

 

支えてくれる存在がいたから私もこんな風に気にせずに生きることができたけど、この子は違ったみたいだ。長いこと人から受ける愛を知らずに生きてきたが為にそれを嫌悪しているのかもしれない。

 

 

 

「私も孤児だったんだよ。物心つく頃にはここで育てられて生きてきたから親の顔も知らない。」

 

 

 

事実私の最も幼い記憶は雪の中アスターにおんぶをされているものだ。

 

 

イーサンは私との共通点を見つけて嬉しかったのかもしれない。少し表情が穏やかなものになった。彼はゆっくりと話し始める。

 

 

 

「羨ましいよ。メルは強く生きてる」

 

 

 

そうなのかな?そうは思えないんだが。

 

 

 

「いやーそうかな?今日もアスターに負けたし」

 

 

 

「そうじゃなくて、精神的に」

 

 

 

別に精神的にも強いと思ったことはないのだが彼にとっては強く見えるらしい。

私は思ったことをそのまま伝える。

 

 

 

「まぁありきたりな言葉だけどさ、弱くていいんじゃない?思い悩んで苦しんでそれでも進み続けるのが人間でしょ」

 

 

 

かなりいい言葉を言えたんじゃないだろうか。イーサンは私の言葉を聞いた後納得したような表情を見せた。何か決意を固めたのだろうか、彼の目に信念が宿ったように感じた。

 

 

 

「いや、目的ができた。俺やっぱ強くなりたいよ」

 

 

 

私はニヤリと口角を上げる。これはいい傾向だ。目的を作ることは生きる気力につながるし、人生がもっと楽しくなる。それがどんな目標なのかは知らないが。

 

 

「いいね」

 

 

そうしているうちにイーサンの纏う雰囲気が少し穏やかになってきた。イーサンは木のそばから立ち上がり、話しかける。

 

 

 

「じゃあメルに困ったことがあったらいつでも言ってくれ!」

 

 

 

なるほど、これは都合がいい。私に舎弟のようなものができた。早速私はお願いを言ってみる。

 

 

 

「いいの?じゃあさ、私今寒いから温めてくんない?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

イーサンは困惑した表情をしていたが、私が手を引っ張って膝の上に座らせる。

 

 

 

(あーあったかい〜子供ってあったかくていいなー)

 

 

 

私はイーサンの体に手を回す。

 

彼の耳は真っ赤に染まっていたが私がそれに気づくことは無かった。

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