【短編】俺の知らないコンビニは命懸けらしい。

水定ゆう

第1話

 俺、黒木は高校一年生。

 同じクラスの沢田と同じバイト先、まさかの同じシフトで働いていた。


 何処と言われれば何の変哲もない普通のコンビニ。

 家からも近くて、バイト代は安いけど、俺の働いているコンビニは、あまり客が入らないからとっても暇だ。


 現に今もレジで突っ立っていた。

 今の時代、客が勝手に袋詰めもしてくれる上に代金の支払いも機械が勝手にやってくれる。

 店員はあくまでも監視員でしかなく、とんでもない空虚な時間を過ごしていた。


「「ありがとうございましたー」」


 店から客が出て行った。

 ようやく一人だ。

 俺は溜息を心の中でつく。

 何故かって? そんなの決まっている。今日は異様に人が多いのだ。


 レジからは店内の様子が一目瞭然。

 俺と沢田とバックヤードで休んでいる店長を除いても、店内には十人弱の客が蠢いていた。


 いや蠢くって言い方もおかしいとは思う。

 だけどこんな経験はない。

 このコンビニは立地は悪くないのだが、近くに幾つかコンビニがあるせいで、立地は良くても大通りから逸れているせいで、そうも客は入らないのだ。


 けれど今日ばかりは違った。

 みんな一体何を買いに来ているのか。

 キョロキョロと視線を追ってしまうが、まるで見当もつかない。自分でも思うが、何の思い入れもないダメ店員だった。


「なあ黒木、なんでこんなにお客様いるの?」

「知らないよ。俺が聞きたいよ」


 沢田も困惑していた。

 こんな何も分かっていない子犬状態の俺に聞いてくるあたり同類だ。


 正直に珍紛漢紛なことを伝えると、沢田は客の目線を執拗に追う。

 だけど何も見えてこない。当然だ。右往左往しすぎて何を如何見ればいいのか、定かでもなかった。


「そもそもなんでこんなにお客様いるの?」

「お前、ループしてない?」

「ループ? いや、してなしてない。んでさ、そもそもなんでこんなにお客様いるの?」

「いや、やっぱループしてるよ。言葉だけが延々にループしてるよ。そもそも沢田って、客のことお客さんって言うじゃん。なんで今日に限って様なの?」


 俺はツッコんでしまった。

 すると沢田は俺のことをジッと見た。

 首を捻り、こんなくだらないやり取りで溜めを使う。


「・・・……・・・……・・……えっ?」

「どんな溜めかた?」


 完全にコントだった。

 完全に暇すぎるがあまり、コンビニバイトを客観的に分かりやすいコントの舞台に使っていた。


「でさ、なんでこんなにお客様いるの?」

「あっ、今日はそのテンションで行くのね。えーっと、分かんないけど」

「分かんないのか。分かんないのか。……うん」

「慰めるな!」


 俺は何故か沢田に肩を叩かれた。

 慰める目をされてしまい、俺はムッと唇を尖らせる。


「まあ、いっか。んでさ、お客様来たよ」

「えっ!」


 スッと視線を向けると、客がレジにやって来る。

 しかし商品は持っていない。

 持っているのは怪しいアタッシュケースのみで、俺は戸惑ってしまう。


「バイトか」

「は、はい?」

「バイトかと聞いている。三秒以内に答えろ。さもなくば……」


 俺の目の前にやって来たのは女性だった。

 背は高く日本人離れしている顔立ち。

 とても美しいのだが、なんだか怖い。


 しかもアタッシュケースをレジに置くと、俺に変な質問を投げる。

 答えないでポカンとしていると、着ているトレンチコートの内側で黒い何かが覗く。


 その形は完全に拳銃。

 仮に本物ではないとしても、脅しの道具に使うのは如何だろう。

 とりあえず初見でビビってしまい、俺はゴクリと喉を鳴らし、コクコクと首を縦に振る。


「そうか。なら、これが分かるな」

「ほえっ?」


 俺は変な声が出た。今まで出したことのない声だ。

 しかしアタッシュケースを女性は突きつけると、俺に何かを促す。

 一体これは何? 頭を悩ますには十分だった。


「えっと、これは……」

「答えられないのか?」


 女性は眉根を寄せる。

 サングラスも掛けているせいか表情は読めない。

 明らかにマズい状況だった。俺は命の危機を感じ、沢田に助けを求めるが、何故か沢田は黙り込む。


 マジかよと俺は失望する。

 しかし気が付くと他の客も視線が一点を見つめていた。

 俺のことを嗜めるようで、もの凄く苦しい。息が苦しくて誰かに助けを求める。


「て、店長を今……」


 俺はバックヤードに逃げようとする。

 ここは責任者を突き出すべきだと思った。

 しかしそんな俺とは対照的で、急にバックヤードから何かが飛んで来る。


 グサリ!


 レジの裏。クナイが紙を突き刺していた。

 何だこの状況。俺は汗が溢れ出し、命の危機を感じる。

 それだけじゃない。これは逃げられないし、他言は無用。喋ればきっと命は無いし、命乞いの権利もなかった。


「えーっと、うっ!」


 俺はクナイが突き刺さった紙を見た。

 何か書いてあるが、ジッと覗き込むと、そこには〔黙って受け取れ〕と書かれていた。


「黙って受け取れってなんだよ。でもこの状況、犯罪でも仕方ないよな」


 俺は後で警察に言おう。

 そう思って覚悟を決め、腹を括った。


「はい。それじゃあ受け取って……」

「待て」


 俺は女性に脅された。

 見えない殺気を感じ取り、俺は威圧されてしまった。


「えっと、受け取りますよ?」

「合言葉を言え」

「はっ?」

「合言葉だ」


 何だよ合言葉って。マジのやつじゃん。

 俺は完全にトレーダーになっていた。

 ヤバいな。これはヤバいな。俺は嫌な予感が走ると、頭を使った。


 今も銃口がこちらを覗いている。

 とんでもなく嫌だ。

 これ、ミスったら殺されるやつだ。


「早く答えろ」

「早く答えろって、えっと、綺麗なお姉さんとか? なんて」


 バギューン!


 銃口から煙が出ていた。

 いつの間に引き金を引かれたのか、さっぱり分からないのだが、とにかく撃たれていた。

 背後の棚が一部破損して、本物の銃弾と銃痕が残されていた。


「えっ?」

「調子に乗るな。真面目に答えろ。次はないぞ」

「は、はい」


 これはマジだ。本気のやつだ。

 俺は嫌な予感がしたのだが、これは頭を使うしかない。


 次はない。死の宣告が脳裏を突き刺す。

 俺は死にたくないと願い続ける。

 ヤバいな。喉が閉まって、息が出なくなる。


 けれどヒントはあるはずだ。

 今日は色々おかしい。今だって、周りからの目が痛いくらい突き刺さる。


 しかしこれで答えは見えた。

 ここにいる人達は、この取引を監視しているんだ。

 俺は偉い日にバイトになってしまったと後悔するが、そんなことを言う暇はない。刻々と時間は過ぎる中、俺は非常におかしな奴、そう隣に立つ沢田を見た。


 そう言えば、沢田の様子がおかしいな。

 もしかして沢田の言葉か。

 それがヒントなのか。俺は最後のチャンスに弾丸を込めると、女性に伝えた。


「お客様」


 沈黙が流れる。

 俺はドヤッとドヤ顔をしたのだが、女性の表情は生憎分からない。

 不安だけが過重にのしかかると、俺は息苦しさも倍増。ヤバい状況下に、気絶しそうになる。


「合格だ。受け取れ。くれぐれも、他言無用にな」


 そういう時女性はレジにアタッシュケースを置いた。

 如何やら正解だったようで、満足の笑みを浮かべる。

 俺は寿命が伸びたようで安心すると、沢田に肩を掴まれた。


「よかったな、黒木!」

「間一髪だった。危うく死ぬところだった」


 こんな経験二度とごめんだ。

 俺は安堵の溜息をつくと、沢田にこう言われた。


「流石は黒木だな。次も頼むぜ!」

「いや、もう辞めるから」


 俺はキッパリ断った。

 こんな所にいたら命はい。

 思い知らされてしまい、俺は死んだ魚のような目をしていた。

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