第2話・七つの国を蹂躙した狂気な王妃は正気にもどる

 おしゃべりなオウムが天で災いを歌い、メスのチーターが走りながら子を産み落とし、仮装劇の役者たちが主役の座を争って互いに殺し合い、最後に乗った一人が自殺した夜──


 自国も含めて六つの国を蹂躙した狂気王妃は、最後の七つ目の国へ向けての進撃を開始した。

 顔がある三日月の月下、シネヤが野営している場にマッドな殺人鬼ピエロとその妻が現れた。

 ピエロは、赤サビが浮き出て苔がむした甲冑を着て、林のように立ったまま眠っている兵士たちの間を抜けて。

 紫色の揺らぐ炎の焚き火の前で丸太に擬態したナニかに座っているシネヤの前に現れた。

 ピエロは血塗られた戦斧と腐りかけの野ウサギを持っていた。

 ピエロがシネヤに言った。

「よう、狂気の世界で正気を保っている者……元気か? この腐った野ウサギは戦場への差し入れだ、紫色の炎で炙れば腐る前の肉にもどる……焼きすぎると生き返るからな、注意しろ」

 ピエロの妻は可憐なドレスを着衣して、さらに体に鎖を巻いている。

 シネヤがピエロに訊ねる。

「奥さん裸ではないんですね」

「あぁ、女房は脱いでケダモノの血を頭から浴びたがるが『脱ぐのは建物の中にいる時だけにしろ』と、言ってある……おまえ、この先どうするつもりだ。現世での知識や記憶は、この狂った世界では役に立たないぞ」

 そう言って、ピエロはアイスホッケーのキーパーマスクをかぶる。


「そんなのわかっています、狂気王妃が七つの国を蹂躙したら本当に魔導士がかけた、狂った呪いが本当に解けるのかも不明ですし」

「呪いかぁ、狂った呪いが王妃が七つの国を蹂躙したら解けるのは間違いない……なにしろ、その呪いをかけたのはオレの叔父だからな」

「ピエロさんの叔父さんが、呪いをかけた魔導士?」

「叔父は死ぬまで悔んでいた、狂った世界に変えてしまったコトをな……その叔父から聞いた呪いの解き方を聞いたオレは予言として広めたからな」

「もしかして、ピエロさんは狂ったフリをしているだけじゃないんですか?」

「さあ、どうだかな」

 紫色の炎で焼かれた野ウサギは、半分生き返り、炎の中でもがき苦しんだ。


 大地に巨大な笑い顔が現れ豪快に笑い、空が割れて夜空が覗き、海がクリームスープに変わった朝──クジラが上陸して我が物顔で這い回り、巨大な食肉植物が人間を襲って食する七つ目の国を狂気な王妃は、ついに蹂躙するコトに成功した。

 その瞬間、世界にかけられていた狂気の呪はすべて解けて、王妃も狂気から正気に変わった。


 正気になった王妃は、今までの自分の所業に恐怖して恐れ震えた。

「わたしは、狂っていたとはいえ。なんという、おぞましく恐ろしい所業を……あぁぁぁ、こんなコトなら狂ったまま、ナニも知らない方がましだった」

 今にも心が崩れて発狂しそうな王妃に向かって、シネヤが言った。

「正気王妃さま、ご心配なく……今度は、オレが狂気に落ちますから……あひぃ、いひゃぁひぃ、人の目や口の花の、お花畑が見えてきた……狂っていく、オレの心と頭が狂っていく……あひゃいひゃ」


 シネヤは正気にもどった王妃に変わって狂人になった。

 王妃はシネヤの優しさに黒い涙を一粒流した。

 シネヤは正気になった世界で、今までは狂った世界の中で転生者のシネヤ以外の正気の者が隔離治療されていた、治療施設に連れて行かれ。

 今度はシネヤが病棟に治療隔離された。


  ……おわり……

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狂った王妃は十万の敵兵を鍋で煮込み七つの国を蹂躙する 楠本恵士 @67853-_-

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