第9話 禁忌
「兄さま!兄さまはどうなったんですか!?」
ニーニェ・ボロトーは色々と危うい身であった。
第三王子の誕生日パーティーに呼ばれて適当に良さそうな人を見繕ってやり過ごそうと思っていたらまさかの第三王子からの告白を受けてしまった事が始まりである。
別にこっそり愛人を作るなどは王族として血筋を残すためにするのは嫌悪するが役割でではあるため認める。
よりにもよって本妻となる前段階、婚約者となるアララ・リンダージの前で堂々と浮気宣言をするとは思っていなかった。
いや、浮気では生ぬるい。絶縁宣言に等しいことまでしでかし、今に至るのだから。
「…………ボロトー様、残念ですが」
「兄さまは助かるんよね!じゃなかったら、私…………!」
宮廷医師は可能な限り手を施した。止血をし、傷を癒す魔法をかけ、禁忌に触れない範囲で治療を施した。
だが足りない。目の前で失われる命をつなぎとめるには。
破れかぶれだったとはいえど刃が鎖骨から入り、そのまま肋骨、肺を傷つけるだけでなくはらわたまで達しており、延命もほぼ不可能であった。
体裁を保つためにも治療はしなければならない。何せ手下人が自国の王子でありながら時刻に仕える貴族にたいして決闘とはいえ刃傷沙汰を引き起こしたのだから。
「手は尽くしました。しかし結果は見放されたのです」
「嘘!そんなの嘘や!兄さま、兄さまああっ!」
命が失われた肉体にすがり、ニーニェは泣いた。
ぱん、と誰かが手を叩いたような音にも気づかないくらいに泣き喚いた。
何もしていないとはいえ己のせいで兄が死んだのだ。その身にのしかかる責任は計り知れない。
ぱん、と2回目の音がした。
誰もが失意と絶望の中でいる。だからこそニーニェが泣く声しか聞こえないと考えていた。
ぱん、と3回目の音がした。
ふと、誰の視線もないことに気づいたニーニェは振り返る。
5人いた宮廷医師が底には立っている。ただし、その目は虚ろで意識を奪われたかのような立ち姿をしている。
流石の異常事態にニーニェは泣き止まざるを得なかった。
何が起こっているのか把握しようと宮廷医師に話しかけようとしたその時だった。
「これは夢だ」
兄の遺体しかない筈の空間から、兄の声が聞こえた。
「君はショックで彼の隣で寝込んでしまっただけだ」
振り向こうとすると背後から両手で顔を掴まれ振り向けない。
「悪い夢だ、君の兄は死んでいない」
まるで他人事のように兄の声が嫌と言うほど耳に入ってくる。
「おやすみ、よい目覚めを」
最後にそう聞こえた瞬間、ニーニェは急な眠気に襲われる。
何とかこらえて振り向こうとしたが、結局絶えれず眠りについてしまった。
「さて、下準備は済んだか」
眠りこける妹と、ただ突っ立っているだけの人形となった宮廷医師を横目にこと切れた『俺』の遺体を眺める。
血の気が失せて土気色の顔になり、微かな死臭も漂う自分を眺めることになるのは不思議な気分だ。
さて、どうして俺が生者と死者で2つ残っているのか。
これは『2度目』の死であり、そして真の力。
別に不死身という訳ではない。命のストックが腐ってもあるだけ。
悪感情が力になるのは間違っていない。それに加えて『死』すら俺の力となり糧となることがはっきりした。
これが俺の力、最も恐ろしいナニカ。
なんでこれを俺にもつなげようと思ったんだよ別世界の俺。
助かったのは事実だが、この目の前の遺体をどうするか悩むな。
いや、死すらある意味で俺の手の中にあるのならこの死体を消すことは容易いはずだ。
そう思って死体に手のひらをかざす。イメージは消失、火の煙が空気に溶けるように土気色に染まった顔の俺よ消えてくれ…………
試みはうまくいった。俺だったものは消え失せて誰も載っていない寝台が出来上がった。
さて、後は偽装工作するだけだ。
幸いにも俺の死亡確認をしたのはニーニェと傷を診てくれた宮廷医師数名だけだ。
恐ろしいことに記憶操作もある程度可能ということも力を通じて発覚した。
もはや何が出来ないんだと思ったが、流石に死者蘇生のような理に反することは滅多に出来ないということは分かった。
いや、俺は別に死者蘇生という訳ではない。死んでも力の根源に隠されてる新たな肉体に意識を映しただけだ。
倫理観に反している?今更だろう、こんなことをしでかしている時点で。
俺はベッドに横たわり、ニーニェらの意識が元に戻るまで待つ。
ずっと立ちっぱしのまま一時停止と記憶操作をしているから混乱はするだろう。
衣装を先程の死んだ俺と同じように複製して…………なんで複製できるんだこれは。
ニーニェ達が意識を取り戻すまで目を瞑る。いや、治療が上手くいって眠っているという体にしよう。
そうして今後のこと、特に第三王子の暴走の後始末をどうするか考えていたら、俺はいつの間にか眠ってしまった。
本当に、本当にやってくれたなあのバカ王子め…………
悪役貴族っぽいんだけどパラレルワールドの俺と繋がったら悪役どころじゃない 蓮太郎 @hastar0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。悪役貴族っぽいんだけどパラレルワールドの俺と繋がったら悪役どころじゃないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます