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彼に手紙を渡すチャンスは神無月先輩に手紙を書いてもらって二日後に来た。
今日は彼とシフトが一緒だから、バイト終わりに呼び出して手紙を渡す。完璧な作戦、明日からは恋人同士……あはっどうしよう恥ずかしい~。
なんてバカみたいな妄想をしている間に夕方がきて私はバイトに行く。
「おっはよ~ございます」
何故か飲食の挨拶は時間に関係なくおはよーなんだよね。
「お~三原ちゃん、なんかテンション高いね。なんか良いことあった?」
「え~
嘘嘘、有る、有るどころか大有りだ。
「ああ、そー言えばいつもそんな感じだね、じゃあ今日もよろしく」
水原さんも結構いい人だけど、背も低いしちょっとチャラいから私の中では3番手くらいかな、まあ社員さんだから少しおまけしてるけど。
あ~でもそんな事より私の植盛さん植盛さ~ん、早くバイト終わんないかな~。
結局、終始頭がフワフワしたままバイトは終わって、さあ後は片付けて帰り自宅だというところで水原さんが皆をフロアに集めた。
「皆、疲れるとこでゴメンね。今日は重大発表がありま~す。じゃあ植盛くん」
名前を呼ばれた植盛さんが前へ出てきた。何だかモジモジしてて可愛い。
「え~この度ここにいる植盛くんが正式に社員になることが決まりましたっ」
「「おおおおー」」
「「おめでとーー」」
突然の発表に驚きながらも、皆拍手で祝福をした。流石愛しの植盛さん、やっぱり出来る男は違うね。
「でもう一つ発表、こっちのほうが重大、ほらっズバッと」
ポンとお尻を叩かれた彼は改まって口を開いた。
「え~あの~この度、私植盛パパになりました」
っっっっっって、パパって言った?
「前から同棲してた彼女が妊娠しまして、え~出来ちゃった婚っていうのも恥ずかしいんですが、水原さんに相談したら社員に推薦してくれて……」
皆の祝福の拍手と歓声は最高潮に盛り上がる、それと反対に私の意識は暗い沼の底に引き込まれて、耳に届く音は小さくなっていった。
その後のことは全然覚えてない、気が付いたらお店を出て自転車をひいてトボトボ歩いてた。
「彼女がいるとか、あり?っていうか出来ちゃった婚とか、まじあり得ないんですけど」
せっかく神無月先輩に手紙を書いてもらったのに……。
私はショルダーバッグから手紙を取りだしてマジマジと見つめる、何だか色んなことが憎らしく思えてきた。
グシャッ!
「にゃろーーーー」
衝動に負けた私は手紙を握り潰して地面に叩きつけた。刹那言葉を思い出す(絶対破ったり捨てたりしてはいけないよ)あっそうだった。
そう思った途端、目の前が真っ白な光に包まれて何も分からなくなった。
それから五日が経ち私が気が付いたのは病院のベッドの上だった。
「あれ?ここどこ?」
「鈴音っ、せっせんせー」
母親が泣きながら大声で叫んでる。ん?どったのかな?
それから数時間たって漸く自分の置かれている状況が飲み込めた。どうやら私はバイトの帰りに車に撥ねられたみたい、なる程、なる程。両足に巻かれてるギプスはそういうことなのね。
「一ヶ月は入院らしいわよ」
「え~まあしょうがないか」
心配そうな母親には悪いけど、私はその間に心の傷も癒すもんね。怪我だって単純骨折で後遺症もなくちゃんと治るみたいだから大丈夫でしょ。
この時はまだ私は楽観的だった。でも一週間経っても十日経っても誰もお見舞いに来ない。メグとコサくらいは来てくれたっていいのに、LINEを送ると返信は来るけど定型文みたいなのとかスタンプが一個帰ってくるだけで凄く素っ気ない、私何か悪いことしたかな?
なんで誰も来てくれないの?何で?なんで?
「鈴音っち手紙捨てちゃったみたいだね」
「みたいだね、あの手紙にはあの子の”魅力”の全てを封印してあったからね。それを捨てちゃったってことは自分自身の魅力も捨てちゃったってことだから」
二人は中庭の芝生に腰を下ろし、暖かな風と陽光に身を預けている。
「え~あの子結構気に入ってたんだけどな~」
「うん僕もそうだよ、せめて自分であの手紙を読めれば”魅力”はあの子の中に帰って来るんだけどね」
神無月は右目の眼帯を外し天を見上げると、何かを祈るような因果を飲み込んだような表情を浮かべた。
「これが最後の依頼なるかもだし、幸せになって欲しいよ」
名残惜しそうに緑の景色を
更に三日後、鈴音が入院している病院の前に水原が立っていた。
(事故の場所で鞄と一緒に拾った手紙、植盛様って書いてあるけどこれって三原ちゃんが渡そうとしてたってことだよな、迷ってたけどやっぱりちゃんと返してあげた方がいいよな、でも傷口に塩を塗るみたいで気が引けるしな……いや、やっぱりちゃんとお見舞いに行こう)
密かに三原鈴音のことが気になっていた水原は、少しの罪悪感と期待を込めて鈴音の元へと歩を進めた。
終
盲目の魔女は今日も頼りにされる 永里 餡 @sisisi2013
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