それから私は自分の事、家族の事、友達の事、好きな事、嫌いな事、勿論気になっている彼の事、今まであった事を沢山沢山話した。神無月先輩はとても聞き上手みたいで、私はもうほんとにダムが決壊したくらいに自分自身ををぶちまけたと思う。


「うん、大体理解したよ。じゃあこれから清書に入るから、ちょっと離れてて」


 少し離れた机に腰かけてる小羽根先輩が小さく手招きしてる。私は机の椅子に腰かけた。


「さて、と」


 神無月先輩はおもむろに右目の眼帯を外した。


 

 「?」


 眼帯外したよ、怪我してんじゃないの?あれ?右目見えてんじゃ?


「びっくりしたかい?こっちの視力は”まだ少し残ってる”んだ。ただ使い過ぎると左目と同じように見えなくなっちゃうから、普段は眼帯をして負担を減らしてるんだよ」


 そういって私の方に顔を向けた。


 ブラウンの瞳は左目と違ってまだ生命力が感じられたけど、やっぱり色素が薄くて健康そうには見えなかった。


「それでも一日で眼帯を外していられるのは二~三時間くらいかな、それ以上使うと痛みで目を開けてられなくなっちゃうからね、まあ二十歳を越える頃にはこっちもダメになってるだろうね」


「…………」


「ああゴメン、心配させちゃったかな?まぁ見えなくはなっちゃうけど、代わりに”視える”ようにはなるからさ」


 見えなくなるけど見えるようになる?何のこっちゃ?


「混乱させたかな?とにかく問題ないってこと。じゃあちょっと集中するね」


 神無月先輩は手元に置いてあった別の万年筆を取り出すと、サラサラと筆を滑らした。書いてる間、先輩の周りには見えないバリアが張られているような独特のオーラみたいのが出てる。


 その姿は完全に肩の力が抜けた自然体、まるでそういう形の生き物みたい。何だろう?むしろ自然体すぎて近寄り難い、何かの達人とかこんな感じなのかな?


「すごっ」


「でしょでしょ」


 思わず感嘆の声を漏らす私に小羽根先輩が嬉しそうに相づちをうつ。


「書けた」


 書き始めて万年筆を置くまで三十分もかからなかった。



 書き終えた便箋をピッタリと二つに折って白い封筒に入れる、何の変哲もない普通のものだったけど、ここからは一味違った。


 机の上に置いてある蝋燭に火をつけた、お洒落な雑貨屋さんとかに置いてありそうな太くて赤い蝋燭。次にペン立てから金色の細長い棒を取り出してカッターで先の方を切り落とす。切り落とした金色の塊をペン立てから出したスプーンに乗せると、蝋燭の炎で炙りだした。


 金色の塊はゆっくり液状になる。


(あっ知ってる、あれ蝋だ外国の映画とかでみたことある)


 溶けた蝋を封筒の上に垂らすと、今度は木製のスタンプを押し当て封印をした。


「ふ~、はい終り」


 神無月先輩は眉をしかめ軽く右目を押さえる。ほんとに辛そう。


「はい、鈴音ちゃん」


 私は神無月先輩の手から封筒を受け取った。蝋の封印をよく見ると、魔法陣のような印が押してあってちょっとカッコイイ。


「この中には鈴音ちゃんの”魅力”がたっぷり詰まってるからね」


「私の魅力」


「うんそう、あとこれは大切な話だから、ちゃんと聞いて」


 神無月先輩は右目に眼帯を掛け直すと私の方へ顔を向けた。


 あ~眼帯姿がカッコいい。


「まず一つ、この手紙は意中の彼に手渡しして”必ず読んでもらう”こと、もう一つもしも彼に受け取って貰えなかった時は”必ず自分で手紙を読む”こと」


「えっと彼に直接読んでもらうか、それがダメなら自分で読む」


 自分としては珍しく慎重に復唱した。何となくだけど、凄く重要なんじゃないかと思ったんだよね。


「あと最後、この手紙には文字通り鈴音ちゃんの魅力が込められているから、間違っても破ったり捨ててしまってはいけないよ」


「わかりました」


 変なこと言うなと思ったけど、まぁ彼に渡すのは確実だし問題ないよね。


「じゃあ頑張ってね」


「鈴音っち、ばっはは~い」


「ありがとうございます。頑張りますっ」


 神無月先輩と小羽根先輩の応援を背にして私は上機嫌で旧校舎を後にした。

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