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で私は今ここに居るってわけ。
「僕のところに来たってことは恋愛の悩みだろ、話してごらん」
神無月先輩の話ぶりは慣れてる様子で、本当に恋愛成就の魔女なんじゃないかと思った。
右手に透明なガラス製の万年筆を持っている。さっき小羽根先輩が用意して渡してたんだけど、ガラスの中の
「えっと、私ギターが欲しくて夏休みにバイトしてたんです」
「ギター。どうして?」
「私バンドがやりたくて、でも楽器を持ってないから」
「うん、親におねだりしなかったのかな?」
「はい、あのギターは高いから親にねだるのはちょっと……あと自分で買った方が大事にするかなって」
「うん、そういうことね」
神無月先輩は私と話をしながら、机の上の白い便箋にメモをとっている。顔は正面のまま時折左手で便箋の位置を確かめながらなので、本当に見えてないんだなと思った。
それにしても見えてないのにメモってるのも驚きだけど、こんなにペンを滑らかに扱う人は初めてみた。
サラサラとペンが踊った後には綺麗に整列した字が並んでいる。アルファベットの筆記体を書くみたいな動きなのに、漢字や平仮名のとめはねがしっかり出来てるのが不思議だし関心してしまう。
「字、凄く綺麗ですね」
「ありがとう。でもこれは走り書きだから、後で清書はちゃんとするからね」
うえっこれで走り書きって。しかしなんて器用な人なんだろう。
「それで、鈴音ちゃんの意中の彼はどんな人なのかな」
「えっと、アメリカンスタイルのレストランでウェイトレスのバイトしてたんですけど、あっ今も週2でやってます。制服が凄く可愛いくて、それで彼はそこのバイトリーダーですっごく仕事が出来て、気も効くし背も高いし、あっ顔は普通なんですけど優しくて素敵なんです。だから植盛さん、いいなって皆が狙ってて、あっ
「おっとっと、圧が凄いな本当に好きなんだね」
「あっすいません……」
夢中になると周りを気にしないのは昔からの悪いクセだけど、マズったかな?
「ああ、気にしないでいいよ。鈴音ちゃんの良いところは沢山知りたいからね」
「良いところ……ですか?」
「そうだよ。いいかい、皆僕の手紙を書く能力が優れていると思っているみたいだけど、実際そんなことはないんだよ」
「でも、皆魔女みたいって、あっ」
「いいよ。魔女のくだりは気にしないで、言われ慣れてるからね。僕は優れた文章力があるってわけじゃないんだ、依頼してきた人の”魅力”を文字通り手紙に書き綴っているだけなんだ」
「でも、私にそんな魅力なんて……」
「あるよ」
静かだけど力強い肯定の響き。
「魅力がない人なんて存在しない、ただ自分の事を客観的に見るのは割と難しいから皆気付かないだけさ」
「だと良いんですけど」
自分のことはバカだと思っているので、つい下を向いてしまった。
「鈴音ちゃん。例えば僕と話す時にちゃんと敬語を使ってくれるよね、当たり前だと思うかも知れないけど僕はこんなだから、上から目線の人は多いんだよ。もっとも本人は同情してるつもりなんだろうけど」
「そうなんですか?」
「うん、でも鈴音ちゃんは障害とか抜きで対等に話してくれた、見えない分そういうのは凄く伝わるんだよ、ギターを買うのも親に頼らず自分でバイトをしてるし、彼の話をするときも容姿より内面をちゃんと理解して好きになってるしね」
「えっ全然意識してなかった」
「でしょ。でもね、そうやって無意識にしてるのが凄いことなんだよ。鈴音ちゃんは優しいし思いやりのある子なんだね」
「そんなこと……」
ヤバい、泣きそうだ。何なのこの人、持ってかれちゃう。
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