第12話

「付き纏われていたらしい」


 それは他ならぬ紅桜から伝えられた情報だった。


「執念深いトレントだったみたいでさ。刀になった後も追い続けて、持ち主となった冒険者を襲い続けたんだ」

「それが曰くがついた理由かぁ。でも、よく持ち去られなかったね」

「紅桜も必死に抵抗したみたいだから。持ち主の死体を能力で瞬間移動させて」

「あ、そっか。それなら捕まらないね」


 そう話しているうちにダンジョンを抜ける。

 無事に外までたどり着くと、その先で何故か江藤が待ち構えていた。


「やあ、万丈さん」

「江藤くん? どしたの?」

「聞いてほしいことがあるんだ。僕はこの実技の授業でなんと! リザードマンを倒したんだ!」


 自慢気に、高らかに、江藤は言う。

 ダンジョンの表層でも屈指の強さを持つ魔物リザードマン。二足歩行の蜥蜴とかげで、剣と盾、それから尻尾を巧みに使う技巧派だ。

 学生身分でリザードマンを倒せる人はそう多くない。態度が大きいだけあって実力はあるみたいだ。


「鶴木くん! 君は今日なにを倒した? 一番の魔物だ」

「トレント」

「なるほど、つまり勝敗は明白! 僕の――なんだって?」

「だから、トレントだってば」

「証拠は!?」

「これ」


 トレントから落ちてきた果実を見せる。

 すると、江藤は愕然とした表情をした。


「い、いや! 僕はわかっているよ。万丈さんの手柄を横取りしたんだろう! ミノタウロスのように!」

「違うけど」

「え」

「変な噂が流れてるけど、それ嘘だから。ミノタウロスを倒したのは颯也。あたしじゃない」

「なんだってッ!?」


 がくんと膝から崩れ落ちる。


「この僕が……また負けた? そんな……そんな馬鹿な……」


 この姿を見せられて、俺たちにどうしろと。


「……行こっか」

「だな」


 一先ず江藤は放置することにした。

 しばらくすれば立ち上がるだろう。

 その時まで待ってやる義理もないことだし。


「いやー、良かった良かった。颯也が無事で」

「曰くの正体もはっきりしたし、小杖の心配性もこれでよくなるな」

「そりゃ心配性にもなるよ。うちの刀が原因で友達に死なれたら堪らないもん。一生引きずっちゃうよ」

「たしかに。でも、もう大丈夫だから安心してくれ。紅桜は妖刀なんかじゃないんだから」

「だね。あー、良かった!」


 これで一件落着。

 江藤の様子は周囲にいた生徒たちも見ていたし、噂のほうも終息に向かうだろう。

 小杖のお陰で居心地の悪かった学園に彩が宿った。感謝してもしきれない。

 いつか。

 そう、いつか。

 この気持ちを伝えられたらいいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園一の美少女が陰キャの俺にくっついて離れない 〜スキルが【剣の声を聞く】で馬鹿にされてるけど、誰も真の価値を見抜けてない〜 黒井カラス @karasukuroi96

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ