第18話 Gの黄昏

 それから数週間後、冷たい雨が降りしきる夕刻だった。渡辺が愛車のスバルサンバーで都内を走っていた時、工事現場で交通整備員に止められた。

「すみません。二分程停車お願いします」

 旗を差し出した男を見て驚いた。Gだった。

「Gさんじゃないの。元気? この前は大変だったね」

 渡辺はウインドを開いてGに話しかけた。

「ああ、何とか裁判にはならなかった。だが、現場検証とかに立ち会わされて面倒だったがな」

「でも、こんな寒いところで立ち仕事してたら、痔に悪いよ」

「ああ、分かっているが、撃たれた水野がまだ入院しているので仕方がない」

「大変だね。あの史上最高のスナイパーが、こんなとこで交通整備なんかやってるなんて、なんて言ったらいいのか」

 ついつい、口を突いて出てしまった言葉にGの表情が一瞬曇った。

「どんな仕事だろうが、私は今まで全身全霊でやって来た。手を抜いたことなど一度もない」

 Gの抑揚のない言葉遣いに、渡辺は全身が凍りついた。

 その時、Gの旗が揚がった。スバルサンバーは再び走り始めた。

「おっそろしぃーー、ほんと生きた心地しねーよな。それにしても、なんか哀愁みたいなの感じてしまうよな」

 ルームミラーに映るGの姿を見ながら、渡辺は一人つぶやいた。

                          

                                       

 ディック・スモーラーは、六本木ヒルズにある事務所でテレビを見ながら呟いている。

「また、なにかやらかしたな。あの二人、これは調べんといかんな」

 テレビの画面には、渡辺の顔がアップになり、インタビュー攻めにあっている画像が流れていた。

「だから、さっきも言ったように、あの豚舎に落ちた車のドアは、私の車で試験飛行していた時に、スピードを出しすぎて車体が耐えられなくなって取れてしまったんですよ」

「じゃあ、今度は、飛行機にもなる車を開発したという事でよろしいんでしょうか?」

「まあ、そう言ったところです」

「では、車の胴体からは羽根が出てくるとか、ゼロゼロセブンとかの映画に出てくるような奴ですか?」

「いえ、羽根は出てきません」

 とんちんかんな応対が続いている。


「アンナ、こっちへおいで」

 ディックは、女を呼び寄せた。ディックの秘書をしている元中国工作員、林香琳、現在の名はアンナ土山。 

「アンナはどう思う?」

「そうですね。何か匂いますね」

「お前もそう思うか」

 そう言うと、ディックはアンナの腹をさすった。

「おっ、動いたぞ。元気な子だ」

 ディックはそう言うと、女を抱き寄せ唇を重ねた。

 そう、アンナの腹にはディックの子が宿っている。ディック・スモーラー、65歳にして、やっと春が巡って来たのだ。

                                 

                              ワープ04 完


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ワープ 04 ~超リアルアンドロイド~ かわごえともぞう @kwagoe

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