第17話 Gに尋問
その日は、朝八時、Gこと東郷平九郎と大学生アルバイト警備員水野忠雄は、現金輸送車に乗り、井住銀行池袋支店に向かっていた。
「この先、工事中ですので、少し待っていただきますか」
笑みを浮かべながら、交通整備員が旗を持って近づいてきた。
「すみません」
交通整備員が車の窓越しに声をかけてくる。
運転をしていた水野が窓を開けたその時だった。
「パン、パン、パン」
乾いた音が三回なった。水野は狙撃されたのだ。だが、Gは、一瞬先に気配を察知し、水野の襟をつかんで引き倒していた。、狙われていた急所だけは、かろうじて外すことができた。そして、次の瞬間、Gは、助手席から外に飛び出し、ドアを盾に身を潜めた。
「手を挙げて出てこい。命だけは助けてやる」
夜霧の勇治郎と思われるボス格の男が声をかける。
Gは、手を挙げて車から離れた。
「なかなか素直じゃないか。だが、その素直が命とりに………」
言い終える間もなく、夜霧の勇治郎の手にしていた自動小銃は、Gに奪われていた。
「あっ…」
夜霧の勇治郎が声を上げた瞬間、その眉間には小さな穴が開いていた。
何が起こったのか分からず、驚いてGの方を向いた強盗の一味も、次の瞬間には、全員の眉間に穴が開いていた。
「だから、お前は誰だと聞いてるんだ。さっさと正体を明かしやがれ。ただ者じゃないことは分かってるんだ」
Gこと東郷平九郎は、警視庁で鬼六こと長谷川平六の尋問を受けている。
「わたしは、東郷平九郎。東郷警備保障の社長だ。他に何もない。早く釈放してくれ。あれは、正当防衛だ」
「この野郎………」
鬼六は、絶対に自分の手で御縄にしてやると誓った夜霧の勇治郎をあっさり殺されてしまったので、憤懣やるかたないわけなのだ。
「吐かないのならいいだろう。お前の身体に訊いてやるとしようか」
鬼六は、そう言うと、薄気味悪い笑みを浮かべた。
「長官、総監から釈放するよう要請が来てます」
尋問室に伝言が届いた。
警視庁の外は、数万人の群衆が取り巻いていた。東郷平九郎の釈放要求のデモが発生していたのだ。警視総監も無視をする訳にはいかなくなっていた。正当防衛の要件は満たしているのは確かだ。これ以上拘留を続けることはできないと判断したのだ。
「あの程度のデモにビビりやがって、遠山の奴、肝の小せぇ野郎だぜ」
鬼六は、吐き捨てるように言った。
警視総監、遠山金五郎、失脚した飯成の後任で現職に就いた。警視庁では鬼六と同期で出世頭である。講談に出てくる遠山の金さんの直系にあたり、人情家で部下からの信頼も厚い。鬼六とは反りが合わず、何度も喧嘩騒ぎを起こしている。ただ、鬼六の言うような肝の小さい男ではない。若い頃、広域暴力団組織に潜入捜査をして、結果的に壊滅にまで追い込んだ実績がある。潜入の為に右腕に桜吹雪の入れ墨を施すまでしている。半端ではないのだ。ただ、その入れ墨の為に、好きな温泉になかなか入ることができないのが、現在のところの悩みの種である。
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