第16話 現金運搬車
「あーら、お久しぶり。お元気? ムフフフ」
Gは、側で固まっている。修羅場を何度も経験してきたこの男にも、ワープの経験は想像を絶する世界のものらしい。
「これか、俺が最後に敗れたものは?」
Gは、そうつぶやくと深いため息をついた。
「何をブツブツ言ってるのよ。曽川急便の会長さんよ。さっき教えたでしょう。さあ、営業、営業!」
ジュリーがせかす。
Gは、気を取り直して、懐から名刺を取り出した。
「私、東郷警備保障の社長をしております。東郷平九郎と申すものです。この度は、お初に………」
曽川映子は、Gの差し出した名刺を受取ると、名刺には一瞥もくれず、Gの身体を舐めるように見つめている。そして、
「いい男ね。私、タイプだわ。待ってたのよ。こんな男が私の前に現れるのを。この胸板、この腕。この肩幅。この凛々しい顔。だめ、恥ずかしい。変な事言っちゃったみたい。どうにかなってしまいそう。私、どうしましょう」
と言うと、真っ赤になった顔を両手で隠した。
「あなた、一目惚れされちゃったみたいね。どう? 悪い気はしないでしょう」
ワープで研究室に帰って来た二人だが、早速、ジュリーが突っ込みを入れている。
「…………」
「まあ、よかったじゃない。仕事くれたんだから。初対面で仕事くれるなんて、あなたラッキーよ」
「仕事を回してくれたのは感謝しているが、ラッキーかどうかは………」
曽川映子は、大手銀行の井住銀行から依頼を受けている現金輸送の仕事を東郷警備保障にまわすことを約束したのだ。ただ、Gとディナーを共にすることも承諾させた。Gにとっては、少々気が重い。
巷では、現金輸送車が襲われる事件が多発していた。月に三度は現金輸送車が襲われ、多額の現金が奪われていた。現金だけならまだしも、輸送に携わっていた警備員も銃で皆殺しにするという凶悪犯罪である。現場に残された輸送車には、必ず、
『夜霧の勇治郎見参』
の文字が書かれた紙切れが、フロントガラスに貼り付けてあった。
「おのれ、火盗改めを舐めおって、必ずやこの手で捕らえて、地獄の責めにのたうちまわして繰れようぞ。畜生働きは許しちゃおかねぇー」
鬼六こと長谷川平六は歯ぎしりをしながら捜査に没頭していた。
「それに、夜霧の勇治郎ってのが気に入らねェ、早く捕まえないと天国の裕ちゃんに申し訳がたたねぇ。絶対に生かしちゃおかねぇからな、覚悟しておけ」
青春時代から、ずっと憧れ続けた石原裕次郎を連想させる名前が、鬼六を心底怒らせ、捜査にかける気合も桁違いだ。
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