第2話 危機一髪

 山道を走り抜け、指定の駐車場に着いた時にはもう4時を回っていた。午後一番で出たのに、大分時間がかかり過ぎた。

ここからは、木箱をリアカーに積み杣道そまみちを辿るという。

辺鄙へんぴだ。辺鄙過ぎる。先輩がリアカーを引き、私がそれを押す。



 大分経ったような、いくらも経たないような、陽が陰った杣道は不気味に続いている。

と、突然山側のヤブがザザザと鳴った。そして、何か黒い物がボテッと道に落ちて来た。


「何でしょう」


私は、先輩の隣に来て聞いてみた。

黒い物体は、ブヒーとおめいて突進して来た。イノシシだった。


「・・・・!」


先輩は私を弾き飛ばした。


「おりゃー!」


先輩は、雄叫おたけびをあげリアカーの向きを変えた。そこへイノシシが突進。

ガシャンと大きな音を立ててリヤカーがひっくり返り、荷物の木箱が投げ出された。そこへ、又もイノシシが突撃。フタがふっ飛び、木箱は音を立てて壊れ、中身がドシャと投げ出された。


「ブタ野郎、こっちだ」


先輩はおめき、サスマタを構えた。何でサスマタをリアカーに乗せるのかと疑問に思ったのが、今の瞬間解った。

イノシシが「ブヒー!」と喚き、先輩が「おりゃー!」と雄叫びをあげ、激しいバトルを展開している。

先輩、女じゃない。いや、先輩、人間じゃないぞー。

何なの、この日常をいちじるしく逸脱いつだつしたシュチュエーションは・・・・・シュールだ。

とても、現実と思えない。映画の戦闘1シーンを観てるみたい。



「ブヒー!」と「オリャー!」が同時に聞こえてきたと思ったら、黒い物体が私めがけて飛んで来た。

私は、暗転した。



“トントン”「○○運送です。お届け物をお持ちしました~」


「おう」


引き戸を開ける音がする。



 ぼんやりとした意識の中、そんなやりとりが聞こえてきた。

何か、身体が痛い。私は、リアカーの上に寝かされているようだ。ふと横を見ると、包装の破れた露わになった荷物の中身があった。

ぬめりとした目があった。こわい黒い剛毛。ブタ鼻があった。半開き口から血濡れた黄色の牙が覘いていた。


「おぎゃあぁぁぁぁ~」


悲鳴をあげ半身を起こすと、黒い鼻をてからせた牛がいた。


「う~ん」


私は、再び暗転した。



 ふと気付くと、私は囲炉裏の脇に寝かされていた。

隣には先輩がいた。対面には、白髪頭の老人がいた。二人は和やかに、談笑している。



 あれは、何だったのだろう。

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ポツンと一軒家へのお届け物 2 森 三治郎 @sanjiro

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