エピローグ マダムの待っていたもの
それから3日後の夜、いつものポーラースターでささやかなお茶会が行われた。
今日はプラチナテーブルではなく、1階のレストラン2つのテーブルを合わせた特別席に、モリーラプラスのほか、いつものスターシード氏、美人秘書のデボラさん、なぜかフリントピットマーベラスしなどが、招待され、顔を並べていた。
するとあのスターシード氏が、満面の笑みを浮かべて立ち上がっていった。
「ではモリー君、報告を頼む」
モリーはレポート用紙1枚にまとめた報告書をみんなに配っていった。
そして自分の捜査の流れ、ポーラースターでのウイルス退治やガラス瓶の冒険、鳥かごでの音楽会や、操り人形での公演、また博物館の探検やライオンハート教授との出会いやプラチナテーブルでの出来事などを簡単に説明し、最後にこうまとめた。
優秀なジャーナリストであるマルコムライコス氏は、シャドーピエロに姿を変えて連絡を絶ったので行方不明となっていました。彼はパレードに出没し、険しい現実を観客に彼なりのやり方で伝えていました。
環境と人類に興味のあったアンソニーゲオルギウス氏は、地球の記憶、アースウィズダムの実験に参加し、ブラックマター氏となって実験を続けていたため、行方不明となっていました。
ビビアンエルンスト氏は大女優で有名でしたが、ボードゲームのペナルティとして、顔を獣に変えたのをきっかけに別人のマダムクリステルとして生活するようになり、行方不明になっていました。
以上、依頼を受けた3人の判明した消息です。
スターシード氏は立ち上がって拍手をすると何度も何度もお礼と感謝の言葉を繰り返した。
「しかし、ライオンハート教授はこのスターシードランドでしかできないような凄い実験をやっているんだな。フリントピットマーベラス君、今度私に紹介してくれ。ぜひ、お会いしたいものだ」
するとそこにお茶とお菓子のセットの入れたワゴンを押して、アルパカ顔のマダムが直々にやってきた。
「事件解決おめでとうございます、私も迷惑をかけていたようですみませんでした…」
紅茶は俳優の友人がスリランカに持っている農園で摘んだ有機栽培の最高級品、さらにルビーロマンなど、新品種のブドウが赤、紫、緑の3種類の盛り合わせ、そこにあの屋台で売っていたハンドパイが付いてくる。
「わあ、操り人形の舞台の時、屋台で売っていたやつ、ずっと食べたかったやつだ」
そう、甘じょっぱいチーズクリームとチリアジのミートパイだ、するとスターシード氏が言った。
「もちろん君たちの自宅にも同じものをドローン瓶で届けてあるから、ぜひ同時にご賞味あれ」
もちろんモリーの家でもママがニコニコしながら同じセットを用意してくれた。思わずかぶりつくモリー。
「うう、アンジェラのチーズクリームは、思った通りサクサクでとろりと甘くてとってもチーズで、すんごくうまいけど、こっちのチリ味のミートパイはとびぬけてるわ、このもちもちのパイの生地とミートソースがベストマッチで肉まんの西洋版というか、何個でも食べれる感じね」
おいしいおいしいと話も弾み、一通り食べ終わったころだった。
「すいません、お店やってますか…」
なぜか一般の客がどんどん入ってくる。
最初モリーは、あ、知らない普通のお客さんだなと思っていた。だが、体の大きなおじさんが入って来た時から、なんか昔見たことのある人たちかなあと思い始めた。
不思議な個性的な美人が入ってきて、スマートな鋭い目の男の人が入ってきて…。
「…あれ、この人たち、もしかして…」
そして次に入って来た2人のおじさんコンビを見て漠然とした予感が確信に変わった。
そのおじさんたちは2人ともつるつるのハゲだった。
「やっぱりそうだ。海賊団のスカルマーフィーとブルーとバーナードだわ。マッチョのハゲ2人組なんてどこにもいるもんじゃないわ」
体のバカデカイ怪力のブルックダインもいるし、タロットカードのアナスタシア、ビッグシェフのデルーカもいるし、ナイフ使いのスパークロベルトもいる…。
なんでミュージカルの登場人物がここに?
すると最後にばたんと戸が開いて、あの男がやって来た。人形にそっくりだからすぐわかった。っまちがいなくかっこいい!いや、アの人形はミュージカルの本物の俳優をもとに作られているのに違いない。
「この男の人、どうしよう、マリオン海賊団の船長、マリオン男爵だわ」
「おーい、おれだ、帰って来たぜ、5年ぶりにやっと来たんだ、このポーラースターに!」
そしてマリオンは、誰かを捜して、ずかずかと店の中に入って来た。そしてみんなにお茶屋お菓子をふるまっていたアルパカ顔のマダムクリステルの所に1直線で近づくと、優しく言った。
大女優と釣り合う男になるために、5年前、おれはニューヨークに旅立った。ゼロからのスタートで苦労もしたがついに主役の座を勝ち取って約束通り、君のもとに帰って来た。何で顔がアルパカなのかわからないが、あんたがあんただね。雰囲気でばっちりわかるよ」
「ええ、実はあなたの活躍は、ずっと知り合いの新聞記者から聞いてたの」
そしたら、この間の電話で舞台の主役になったんだって教えてくれたわ。おめでとう、いつ帰ってくるかと心待ちにしていたのよ」
「なあんだそりゃうれしいねえ。来週には日本に戻るから、そしたら真っ先に君の所に行くよ。花束を抱えてね、ビクトリアバルマさん」
するとなぜかマダムははずかしそうに、後ろを向いてしまった。でもマダムクリステルの本名は、ビビアンエルンストのはず、ビクトリアバルマって誰?
だがその時、マダムの体が輝き始めた。なぜ?
マダムは後ろを向いたまま静かに言った。
「…アルパカ顔のマダムクリステルの本当の姿は、女優のビビアンエルンスト、だけど
それは芸名。本当の名前はビクトリアバルマ。マリオン、本当はずっとあなたに直接呼んでほしかった。この5年間あなたに本名を呼んでほしくてずっと待っていたのかもしれない…」
輝きはますます強くなり、やがて振り向くとともに、アルパカ顔のマダムクリステルは消
え去り、そこにはきらめくように美しい、8等身の大女優、ビビアンエルンストが立っていた。
「この間の事件で、ここの店ポーラースターが映り、2階で手を振るあんたの顔が大写しになっただろう、それで懐かしくなって当時の仲間に電話したら、じゃあみんなで久しぶりに冷やかしに行こうってことになってさ。そしてここに全員集合さ」
するとハゲでマッチョのひと組がおそるおそる言った。
「久しぶりにみんなで会ったんだからさあ…。紅茶やお菓子もいいけどね」
「おれたちはいつものホテルのあの部屋に集まってるんだけど…」
「そのう、何か料理とビールかなんかをさあ…」
すると大女優は大声で答えた。
「ホテルに電話して、すぐに料理とビールを運んでもらうわ!「当たり前でしょ、今夜はすべて私のおごりよ」
歓声が響き渡った。
波乱万丈姫の絵本は、今1回だけ、最期の光を放った。
ある日、最愛のマリオン男爵役の俳優は、もっと有名になるために旅立ってしまった。
悲しみに沈んだ波乱万丈姫は心を閉ざし、獣の仮面をかぶり、別人となって、暮らすこととなった。
魔法を解いてくれる愛する人を待っていたが、かれは夢を実現するためなかなか帰ってこなかった。
でも、彼女には、信じることと待つことしかできなかった。
彼が成功して帰って来た夜、姫は獣の仮面を脱ぎ捨て、友人の海賊仲間と陽気に過ごしたのでした。
めでたし、めでたし。
おしまい
モリーラプラスの異次元カフェ セイン葉山 @seinsein
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