12 進化の罠
ミケランジェロのダビデ象はその頃どうなっていたのか?
動き出した巨大オブジェたちはそれぞれ勝手に暴れ出し、大騒ぎになっていた。
ダビデ象は目の前に立ちふさがるビルなどに次々とパンチやキックを繰り出し、壊しまくっていた。ツタンカーメンは同じポーズのままわずかに空中に浮かび上がり、目から買い交戦を放ち、破壊の限りをつくしていた。
筋骨隆々たる金剛力士像は、体内にためた闘気を、気合をこめてエネルギー派のように打ち出し、離れたところにある建物を次々に破壊していった。街はもうめちゃくちゃにされていく。でもいま、その巨大オブジェにあえて立ち向かっていこうという美少女が立ち上がった。それは5人の魔法少女。
リーダーのセーラジェネシス、双子の美女コンビ、ルビーコランダム、サファイアコランダム、実験大好きのメガネ娘レイチェルローズウッド、寝るほどに頭がさえわたる、ミランダホイップスの魔法少女軍団だ。まずは、それぞれに魔法をかけて様子を見たようだっ「セーラ、ゼロウインドマジック!」
セーラが呪文を唱えたとたん、輝く風が吹き抜け、今破壊された街が色を失い、すべてが新しく作り直されようとしていた。しかし、やがてあちこちで色が混ざり始め、おかしな色に変色し、決して新しくなることはなかった。
「やはりだめだわ、やはりリアルブレーカーの魔法は、やつらに都合よく書き換えられているようね、本当なら破壊の後が何事もなかったように戻るはずだけど、だめだわ、まったく戻らない」
「コランダム、パワーオーラマジック!」
双子の魔法娘たちが魔法をかける。すると巨大なオブジェたちの体は小刻みに大きくなったり、小さくなったりを繰り返し、やがて巨大なままで止まってしまった。
こっちは巨大化の魔法なんだけど、逆にさらに大きくなるようにパワーアップされてるわ。元に戻すには、少しかかりそうね」
「レイチェルシークレットアイマジック!あの巨大な奴らを操ってるやつらがいるはずなんだけど、ゴーストをつかってわからないようにしてるわ。でも、その手には、乗らないわよ。ミランダ、お願い」
「オーケー、ストップチェーン」
ミランダが一言魔法の呪文を唱ええると、巨大なオブジェたちが、一瞬、凍り付いたように動きを止めた。
なんとダビデ象にも、ツタンカーメンにも、金剛力士像にも、魔法の太い鎖ががんじがらめに巻かれてしまっていたのだ。
狸顔のデイジーがあせった。
「う、動かない、やられたわ、ジェンキンスさん、どうします」
「しかたない、デイジー、パワーを挙げて引きちぎるんだ」
「…パワープラス10、プラス20、まだまだだめだわ」
「…パワープラス50で試みるんだ」
「はい、プラス50、いきそうです…」
その瞬間、ダビデの腕が、ツタンカーメンの怪光線が、金剛力士の気合が太い鎖を引きちぎったのだった。
ジェンキンスとデイジーが思わず声を上げた。
「やった!ルーニーさん、やりましたよ」
だが、同じように喜んでくれるかと思っていたボスのルーニーは、不機嫌な返事をした。
「…ふん、たぶん今のは、敵のひっかけだ。まずいぞ。パワー挙げて反応したらいくらゴースト使っていても、あやしいだろうって目ぇ付けられるかもしれないぞ。」
だがするとその言葉が終わるか終わらないかのうちに、ジェンキンス、デイジー、ルーニーの3人のすぐ後ろで声が聞こえたのだった。
声の主は魔法の杖をふりながらこう言った。
「ピコピコポーン、はい見つけたわ。セーラの魔法からは逃げられないわよ」
「うう、激まずだ。みんな打ち合わせ通りわからない場所にワープして、そこからゴーストで操縦するんだ」
3人は見る間に姿を消し、一見見えなくなったが、セーラは自信満々に言った。
「最初の魔法で、それぞれの背中に違う種類の追跡タグ3つをつけて、身元確認パスワードを記録させてもらったわ。スターシードさんの所のエンジニアさんレベルでは、今頃現実世界の操縦者も判明してるはずよ、あとは現実世界での警察レベルの問題ね」
セーラジェネシスは、魔法少女たちを集めてさらに言った。
「やつらゲームリモコンで操縦してたから、あの若い女の子に、リモコンリモコンの魔法をかけて置いたわ」さあ、結果がどうなるか見ものだわ。とりあえずレイチェルローズウッドだけは、ボードゲーム大会にもどっていいわ。あとは私たちで何とかなりそうよ」
「じゃあ、ごめんなさい。お先に失礼させていただくわ。メガネ娘のレイチェルがさっと姿を消し、ボードゲームの大会へと戻っていったのだった」
あのルーニーという男はまだ何かしてくるかもしれない得体のしれない男だ、だが、その出方を待つ前に、今度は、ボードゲーム、進化の罠のゲーム上で、まさかのことが起きていたのだ。
「うう、頭がくらくらする」
あの不気味な黒づくめの男、ブラックマターが苦しみ始めたのだ。
「ブラックマター君、本名アンソニーゲオルギウス君、平気かな。見たところ、遅れていた実験の結果が今出たようとしているようだね」
立会人のライオンハート教授がすぐに駆け付けた。
「はい、まちがいありません。ですから数十秒もかからないで実態化が終わり新しい共鳴体が手に入るはずです。少々お待ち下されば…すぐに復活しますよ…」
ブラックマター氏は、そういいながら、みるみる回復してきたようだった。
それと同時に、あの黒づくめの装束の内側が光、そこに新しい体が見え隠れし始めた。
一緒に組んでいたあのブタ鼻の恐竜野郎は、羽毛を震わせながらその新しい体にわくわくしているようだった。そして、あの不気味な黒装束をバリバリと破りながら、人間より
2回りほど大きな黒光りするからだが姿を現した。
「うおおおおおお、な、なんだ、あれは」
ブラックマターのもとの姿も似たようなものらしかったが、本物の体はさらに大きかったのだ。それはモリーたちが先日日本史で見たばかりの物だった。
「モリー、あれ、この間、日本史の木暮沢先生に見せてもらった遮光器土偶ってやつじゃないか」
テッドがさっそくつぶやいた。モリーもうなずきながら答えた。
「そうね、2m近くあるけど、確かに遮光器土偶みたいな黒いめがねを付けてるわね」
でもやぶれた黒装束の中から出てきた男をよく見れば、黒い鎧に身を包んだ古代中国の勇者のようでもあった。兵馬俑の武人が黒い鎧を身に着け、遮光器によく見たお面をかぶっている感じにもみえた。どちらにしても、日本や古代中国に関係のある武人なのだろう。
しかし、アンソニーゲオルギウスだったはずのこのブラックマターは、いったい何の実験をしていたのだろう。
「ライオンハート教授、これはいったい何の実験なのですか」
単刀直入にモリーが質問するとライオンハート教授は自信満々で答えた。
「ありがとう実験は大成功だ。これは、図形や形状に反応する特性を生かして、このスターシードランドで試みた、アンソニーゲオルギウスを媒体として使った、アースウィズダム、地球の叡智との交信実験だ。
モリーもテッドもまったく教授が何を言っているのかわからなかった。
アースウィズダムってなんだ?
2人がまるっきりピンと来ていない顔をしているので、さすがに教授もこう言った。
「うむ、この実験体と大急ぎでコミュニケーションを取り次第、すぐに実験の概要について説明しよ」
ライオンハート教授は、その土偶に似た古代中国の武人をつれて隣室にうつった。
「すぐにもどる。少しの間だけ待っていてくれ」
そしてボードゲームは続いていく。かなり進化して姿かたちが変わって来たライドルたちが、石畳のすごろくロードを進んでいく。
進化金貨の入る♡のマスト失う●のマスが混在していた。
さらに進化を続けるクロマニヨン人たちは、国家をつくり、大きな町を作ってそこに移り住むようになる。
植民地の大陸
♡大きな都市を結ぶ街道が整備されるようになり、街の中にも五番目のように道が行き渡様になる。金貨2。
さらに人類の進化が進み銀色のテーブルの上には街のジオラマが現れ、小さな人々が行きかうようになった。
またここからは、グライダーのイラストにオットーリリエンタールのクラシカルなグライダーのイラストが使われ、蒸気機関車ではジョージスチーブンソンの精密な蒸気機関のイラスト、自転車やクラシックカーでも当時の高級車の精密なイラストが使われ、カードは、ここからはセピアカラーのおしゃれな仕上がりとなる。
♡、新しい街に新しい市場や商店街が次々に産まれ、住宅地も増え、工場もでき、多くの人が移り住んできた。金貨1。
●川沿いのたくさんの煙突から黒い煙。大気汚染が問題となる。失1。
♡自転車が発明され、競技用やスポーツ用に様々に発達する。金貨1。
●汚水が架線に垂れ流しにされ汚れた川が海に流れ込む。失1。
♡グライダー、機体が工夫され、エンジンがなくともかなりの長距離が飛べる。金貨2。
●グライダーが墜落して死者が出る。失1。
♡蒸気機関、機関車が都市をつなぎ、煙を吐いて進む勇猛な姿が人々に愛される。金貨2。
ガソリンエンジン、自動車、乗用車、トラックなどが国中を走り回るようになる。金貨2。
●あちこちで交通事故が多発、飲酒運転も問題になる。失1。
●蒸気機関やガソリンエンジン、石炭の暖房が盛んになるにつれ、大気汚染が深刻となる。スモッグに街がかすむようになる。失2。
ゲームが進む中、ドアが開いてライオンハート教授があの土偶の男を引き連れて部屋に入ってくる。
「みんな、またせてすまない。この古代の勇者の名前はユーリー、なんでももともとのアンソニーゲオルギウスと勇者ユーリーのスピリチュアシンクロニティが高かったため、言語の壁も難なく乗り越え、すぐに教授とも心が通じ合ったのだそうだ…」
「…では勇者ユーリー君、ここにいる私の仲間たちに君の話をしてあげてくれ…」
「はい、私はユーリーシーロンと言います。私が人間として生存したのは俊儒―戦国時代のころの中国大陸。私は仲間とともにそこでいくつもの的に打ち勝ち、勇者として一生を終えました。当時は小氷期の初めに当り、大陸はあちこちで冷害や不作となり、生きるためにいくつもの部族が自分たちの土地を離れ、新しい土地を目指したのです。大陸は、強いものが法となる戦乱の時代を迎えていました。その無秩序の世界に新しい秩序を作るために孔子を始めとした何人もの思想家が現れたのです。部族の勢力を決定的に広げた私と仲間たちは、そのうち武神と称えられるようにっていました。私は何度か生まれ変わり、やがて移動をはじめた自分の部族とともに生まれ故郷の長江の流域を離れ、大陸を遠く、極東の島国を目指して海を渡ったのです。そこにはエミシと呼ばれる、大陸の部族と葉また違う狩猟採集民が住んでいて、私たちはコメを中心とした濃厚システムをつかって彼らを懐柔し支配を広げていきました。でも季節によって自由に動き回っていた狩猟採集民である彼らはそのままでは、土地に縛り付けられる農業を嫌い、懐柔策はうまくいかなかったでしょう。でも、この地でも小氷期は猛威を振るっており、1万年ほど続いていた狩猟採集の生活は寒さで破綻していたのです。その寒さにおびえる狩猟採集民の隙間をうまく利用し、われわれはゆっくりと支配を広げていったわけです」
この時の体験を後でまとめたゲオルギウスの論文では、興奮した口調でこう書かれていた
大きな歴史的な事件の背景には、異常気象や凶作、自然災害などがあると言われていた。ユーリーシーロンの生きていた時代、春秋戦国時代、日本でいう城門の終わりから弥生時代にかけては小氷期で突然の寒さで不作が続き人心が乱れ、戦乱が吹き荒れた。環境学者である私は、歴史との関連を強調してきたが、ユーリーシーロンのおかげでさらに研究は裏付けられ、進んだのである。彼の一族が海を渡って日本に映り、稲作を武器にエミシたちを支配下におさめたのもその流れであった。面白かったのは、さらに歴史が進み、日本列島の関東地方に大地震が起こった後、地震と火事によって焼け野原となった東京を復興するため、軍部が中国支配をもくろみ、実際に大陸に打って出たこともその逆の流れであり、興味深い。小氷期によって大陸から1度逃れた民たちは、大地震に遭遇し、また中国へと帰って来て、泥沼の日中戦争を始めるのである。なんにせよ、日本に移り住んだ頃、彼らの村に入り込んでいた我々の子孫が、我々の武神とエミシたちの戦士を融合して作ったのが土偶と呼ばれる土人形です。もうその頃私はすべて失われていましたが、重要な記録はアースウィズダムとしてこの地球の記憶となって残っていたのです。私はもう生きていない。それどころか霊でさえない。だがこうやってアースウィズダムの1つの記憶として、教授と、いいや皆さんとだって話ができる」
「ええ、ユーリーさん、太古からの古い歴史を持ったあなたとおはなしができて光栄だわ」
モリーが楽しそうに話すと、カエル人間のテッドも言った。
「…ってえと、おれたちは地球の記憶と話をしてるってわけか、でもライオンハート教授、この地球の記憶ってやつはいったい何のためにあって、なんかの役に立っているのかい」
するとテッドの質問に、ライオンハート教授は、ニコニコしながら答えた。
「ほうほう、モリー君の連れてきた変える人間訓も実にいい質問をするねえ。わかった、すぐに説明しよう」
すると来オンハート教授はプラチナテーブルのみんなに言った。
「…ええっと、ジャングルマーカス君,例のハンマーとバケツの映像を出してくれるかな」
葉隠れフクロウテナガザルのマーカスは楽しそうに答えた。
「ホッホー、オーケー。じゃあ、わたしのすぐ後ろの空間にスクリーンをだしましょう、ではどうぞ」
すると、スクリーンの映像を見ながらライオンハート教授が語りだした。
「昔から、伝書鳩がどうやってなん百キロもはなれた自分の巣に帰るのか謎とされてきた。鳥の話で言えば、キョクアジサシなどは北極圏と南極圏の間を、1年のうちに行ったり戻ったりする。彼らは何を頼りに、地球のはしから端まで、間違えずに目的地まで飛んでいくのか、なかなか解明されていない。魚でもウナギなどは3000kmもはなれたマリアナ諸島から稚魚の状態で遠い日本の川までやってきて成長し、大人になればまた同じマリアナ諸島に帰って、深海で産卵する。なぜそんなことができるのか難しい問題だった。
また、東京の多摩川の河原にもいるセッカという鳥は、巣作りの時期になると蜘蛛の、しかも卵を守る粘り気のない糸だけを集め、縫糸にして草と草を縫い合わせ、巣をつくる。
縫い糸を作るのも、縫い合わせるのもかなり難しい。セッカはいったい誰に教えてもらってこんな高度な技術を習得したというのか?そしてテッド君に診てもらいたいのが、オーストラリアのハンマーオーキッドと、中南米のバケットオーキッドだ」
画面に映ったのは鮮やかな二種類の蘭の花だった。
「ハンマーオーキッドの花は、ある種の蜂のメスによく似ていて、匂いさえも似ていてオスを引き付ける。先に羽化してやってきたオスは、メスだと思い、うしろから抱えて、すぐ結婚飛行に行こうと飛びたつ。だが、もちろん花なので飛び立てるはずもなく、ただ前後に大きく揺れるだけ、オスを付けたままでハンマーのように往ったり来たりする。そして何回も花の雄しべや雌しべに叩きつけられる。そしてその動作を他の花でも繰り返すうちに、オスの体に着いた花粉は運ばれ、花から花へと受粉が行われるのだ。そしてこちらはバケットオーキッド。この欄は花の中にバケツのような部分があり、やってきた蜂はこのバケツの中につるんと堕ちる。蜂は慌てて脱出しようと試みる。するとうまいことに出口への階段があり、蜂の体がギリギリ通れるほどの穴が付いている。蜂が、がんばって階段を上り、この出口をとおると体に大きな花粉が付き、この動作を繰り返すうちに花から花へと受粉が行われるのだ」
ハガクレフクロウのジャングルマーカスが見せてくれたのは、色鮮やかな、奇跡のような映像で会った。
「さて、いいかなテッド君。ハンマーオーキッドは、どのような過程をふんで自分の花を、メスの形やにおいを似せたのだろう、バケットオーキッドは、やはりどうやって蜂をつるりと落とすバケツの形に進化することができたのだろう。だいたい、本物のメスの方が早く浮かしてしまえばおすもハンマーオーキッドの。の花にはいかない。しかもバケットオーキッドでも、会談も不思議だが、出口がちょっとでも大きすぎれば花粉はつかないし、少しでも小さければ、蜂は脱出自体ができず、受粉は不可能となる。この不思議な1連の出来事を、学者たちは何回も繰り返すうちの偶然によって説明しようとする、でも、偶然で説明がつくかな、テッド君」
「ええ、…それは、偶然では説明がつかない…っていうか偶然の数が多すぎるよ。む、
難しいですね」
「そのとおり、偶然では説明がつかないことばかりだ。生物の活動全般に説明のつかないことが多いし、特にどうしてそのような形に進化したのかなど、進化ではわからないことばかりだ。そこで私はある現象から考えた。どういう方向に飛んだり泳いだりすればいいのか、どのような形に進化すればいいのか、この地球には、それを教えてくれる積み上げられた記憶が、どこかにあるのではないか。失敗の記憶や成功の記憶が、あるのではないか。さらにそれらをまとめたこうすればうまくいくだろうというモデルがあるのではないか、私はその記憶やモデルをアースウィズダム、地球の叡智と名付けてみた。見えないけどこの地球が持っているものなんだ。生き物たちは、それにアクセスすることができ、どう飛べば目的地に着くのかとか、どのような形に進化すればいいのかなどを知ることができるのだ」
「それがアースウィズダムなんだ。鳥や魚に方向を教えたり、やりかたをおしえたりする、こう進化すればうまくいくという積み重ねられた叡智があるのだ。それって見えないけどどこかにあるんだ」
今度はテッドも、少しは納得したようだった。でも、モリーからすぐに次の質問が矢継ぎ早にくる。
「教授、その考えを思いつくきっかけになった現象っていったい何ですか」
「うん、さすがモリー君、鋭いね。だが、それを答えるにはかなり時間がかかる。それに、マダムの秘密にもかかわることだからね」
だがそこで、ノバ女王の隣にいたマダムクリステルがさっと手を上げた。
「私のことを気遣ってくれているのなら心配はご無用、私がベールの下の顔や本名を隠しているのは、隠したいからじゃないの。別の理由があるからなの。だから教授、あとでモリーさんに話してあげてね」
「ほう、そうなのかい。じゃあそうするよ。ボードゲームが終わってから詳しく話すよ」
「はい、では楽しみに待ってます。テッド、最後までがんばるよ」
「おお!」
そしてゲームは再開された。
今度は盤面のジオラマに、様々な電車や、ブルドーザーやパワーショベルなど、什器が動き出す。
♡モーターの実用化、電車、線路網が全国を巡るようになる。金貨2。
♡ブルドーザー、パワーショベル、様々な什器が工事や採掘を迅速に行う。金貨2。.
●汚水が垂れ流しされた河川で、魚が死に絶える。水質汚染。失2。
♡タンカー;巨大なタンカーが、何万トンもの燃料や原料を運ぶ。金貨2。
♡プロペラ機、ライト兄弟が初飛行に成功した後、大都市と大都市が航空路で結ばれる。
金貨2。
ここからは大きな飛行場ができて飛行機が離着陸する様になる。また巨大な飛行船もやってくる。
♡巨大な飛行船が大陸を横断する。金貨1。
♡女性の飛行機乗りが世界一周に挑戦。女性の社会進出も話題となる、金貨2。
●戦車や爆撃機が飛び交い世界大戦が起こる。失3。
♡ジェット機の実用化。世界中に航空網が張り巡らせ、短時間で移動が可能に。金貨1。
♡徐々に下水処理場が整備され、川や海が次第にきれいになる。金貨1。
♡ロケット;宇宙開発が競争となり、民間による宇宙旅行が活発になる。金貨1。
そしてここでハンティングポイントだ。
哺乳類と鳥類
ハダカデバネズミ;社2社会性、穴1、穴掘り能力。
キクガシラコウモリー;音2、超音波で暗闇も飛べる、飛3。
カモノハシ;攻2、後ろ足に毒針、泳2。
ムササビ;飛2、滑空能力。
ムツオビアルマジロ;防3、完全にボール状に丸まり、体を守る。
スカンク;攻4、強力なガス発射。
アイアイ;攻1、蒸しを採る特殊な長い指。
ウォンバット;防2、硬いお知り、穴1、穴掘り能力。
オランウータン;攻2、怪力の腕知力4。
ラッコ;人気3、知2、道具をうまく使う。
フウチョウ;飛2、知2、高度で派手な求愛ダンス。
ダチョウ;走3。
ハヤブサ;飛4。
ヒクイドリ;攻4、カミソリのような鋭い爪の強力な蹴り。
マヌルネコ;人気3。
植民地の大陸
ここから先には進化金貨をたくさんもらえるマスト多量に失うマスがあるそうだ。
「テッドうちの金貨はどうなの、たまってるの?」
するとテッドは即座に答えた。
「モリーさあ、決して悪くはないと思うよ。ええっと、只今金貨27枚で3位てとこかな」
「じゃあ、この辺で進化金貨を狙っていくわよ」
「補遺きた」
♡ビルの高層化が進み、遠くからでも目印になる高いビルが立ち並ぶ。金貨2。
♡印刷技術が発達し、本が流通し、世の中に広く学問が広がる。金貨3。
♡新聞;世の中の事件や出来事が毎日配達される。金貨2。
♡ラジオが発明され、出来事がリアルタイムで全国に広がるようになる。金貨2
●戦争がはじまるとラジオはプロパガンダに利用される。敗北や破壊は伝わることもない。失3。
♡映画が発明され、記録映画や娯楽映画を見に人々が映画館に押し寄せる。金貨2。
♡テレビ放送が始まり、同じ番組を人々が、共通の話題で話すようになる。金貨1。
●テレビもプロパガンダのツールになる。都合の悪いニュースはフェイクと言われる。失2。
♡電卓の発明、難しい計算が簡単な操作で誰にでもできるようになる。金貨1
♡計算だけでなく、映像処理や文書、アートの作成もパソコンでできるようになる。金貨1。
●プラスチックごみの汚染が海水、深海など広がり深刻化する。失4。
♡インターネット、世界中がネットを通じて互いに発信し合い、つながる。金貨2。
●ネットでサギや悪質ウイルスが横行する、出所のわからない怪しい情報に惑わされ、金を失う。失3。
♡スマホの発明、携帯して持ち歩く端末で映画を見たりテレビを見たり、ネットにもつながり、SNSが流行する。金貨2。
ひどい大気汚染は収まってきたが空気中の二酸化炭素が蓄積してきて地球が温暖化。それにより洪水、旱魃、砂漠化、山火事、巨大台風などの異常気象が多発する。さらに食糧不足、水不足も深刻化する。失5。
さてこの最後のハンティングポイントまで、マダムと女王の最強女子チームはほとんどハンティングを行わず、ほとんどメタモルフォーゼをしなかった。なぜなのか。どうやらノバ女王の作戦で、この最後のハンティングポイントで狙っている動物が何匹もあるらしい。さてノバ女王の作戦とは何か?そして彼女たちのライドルはいったいどんな形態に進化していくのか?
大型哺乳類
アルパカ;人気2、走2、時速60kmで走る。耐2耐乾燥と耐寒。
クズリ;攻4、防3、骨もかみ砕くあごの力とがっしりした体。
ヤマアラシ;攻2、防2背中のトゲ。
チーター;人気1、攻3、走3、最速の肉食獣。
サイ;人気2、攻3、鋭い角、防4、鎧のような体。
パンダ;人気4。
オオアリクイ;攻撃力3、アリ塚を壊す強力な前足の爪。
ゾウ;人気3;攻3、知力3、器用な鼻。
フタコブラクダ;耐2耐乾燥、コブに脂肪。
プロングホーン;走3、最速の草食獣。
キリン;人気2、攻2、強力な蹴り。
カバ;人気2,攻4大きな口、泳2。
そしてこの最後のハンティングポイントを終えた時ボードゲームはゴールの手前まで迫り、
通常のすごろくのマスは終わりをつげる。アリーナや、宝さがし、問題解決場面へとついにやってきたのだ。
目の前にはオオキナゲートが現れ、そこをくぐると、早く到着したライドルたちから順番に多くの進化金貨がもらえるのだ。
そしてアリーナでは勝てば進化金貨がもらえ、負ければダメージの大きさで金貨が減ることさえある。
そしてアリーナが終われば10の道のうちどれか1つを選び問題解決クエストに挑戦して宝箱を手に入れるそれで終了となる。最後の宝箱を手に入れた状態で進化金貨の1番多いものが優勝となる。
複雑な変身を遂げるとき、AIが変身を分析してニックネームをつけるのだが、プレーヤーたちのライドルは何回ものメタモルフォーゼを繰り返し、ある時はおもしろい、ある時は不気味な不思議生物へと姿を変えていた。
ニックネームだけ紹介すれば、ゴールドカラーのブタのブウは、マジカルタンク。アースグリーンのヘビのニョロは、クラッシャードラゴン。スカーレットのカメのムウは、インテリジェントジャイアント。蛍光イエローのトリノピーはドッキリパンチャー。クリアブルーの猫のミーはデンジャラスカウボーイ。メタルブラックのトカゲのチョロはダークリザートマンバイオレットのコオロギのリンは、毒薬マシン。
と、なかなか多様な名前がつけられている。第1回戦の様子とともにライドルたちの詳しい説明をしよう。
デジタルナレーターが、響き渡る声で、アリーナでの戦いを宣言した。するとどうだろう、銀色の大きなテーブルの上で、あっというまに大地が震え、動き出し、巨大な岩がいくつもいくつもせり上がり、そこに、は楕円形のコロッセオのような闘技場のミニチュアが、現れたのだ。ミニチュアといっても数mあるが。
ライドルたちは、コロッセオのような大きな石の闘技場に1匹、1匹と入っていく。そこがアリーナ、入った順番でトーナメント表に名前が書きこまれ、自動的に対戦相手が決まっていく。
第1回戦ンマジカルタンク對ダークリザートマンだ。
シバシグマとファゴットメアリのチームのブタのブウは、ニックネーム、マジカルタンクだ。
もともとゴールドのカラーのやせた子ブタの顔を持っているが、それが隙間なくふたができるハコガメの体で防御力を上げ、さらに皮膚の色や質感を自在に変えられるオーストラリアコウイカの皮膚を甲羅や頭、手足など全身に持ち、背景に溶け込むことさえ自由自在だ。また甲羅の横からとても固いヤシガニのはさみや脚が生えていて、硬いものも切断できるし、なんと思い甲羅のまま木にも上れる。ハサミも強力だが、スッポンモドキのコウモリーの翼を思わせる大きな水かきのついた前足、カモノハシの毒針のついた後ろ足も持っていて、泳ぐのも大得意だ。危険が迫ると体の色を自由に変えて姿を消し、タコのスミの煙幕や強力なハサミ、後ろ足の毒針で奇襲をかけてくる。小型戦車並みの堅牢なボディの油断できないやつ、それゆえにマジカルタンクと呼ばれている。
そして土偶戦士とユーリーシーロンと、偉大なブタのチームの戦士も迫力だ。
下あごに毒のあるコモドドラゴンの頭にキクガシラコウモリーの耳と超音波、さらに、ガラガラヘビの赤外線センサー、ピットと強力な毒牙まで持ち、暗闇でも自由に動き、確実に強力な毒牙が血管毒を流し込む。
だからこのメタルブラックの怪物のニックネームはダークリザートマンだ。
また水中生物は地上の戦いは不利なので、特別ルールで水中と同じように、同じスピードで空中を泳いだり煙幕を放ったりできる。
そしていよいよ試合開始、にらみ合う両者。ダークリザートマンがコモドドラゴンの大きな口で、牙をむき、襲い掛かる。だがブタのブウ、マジカルタンクは慌てず、まずタコの墨を、特別ルールを使って空中に広げ、煙幕を張る。さらにコウイカの能力で、体の色を背景と同じに変え、姿を消す作戦をとる。だがコウモリーの能力を持つダークリザートマンは超音波で敵の位置をつかみ、さらにガラガラヘビの赤外線センサーで正確に噛みついてくる。コモドドラゴンの大きな牙が光、ガラガラヘビの長い毒牙が空を切る。ブタのブウの顔が恐怖にひきつる。だが、マジカルタンクは、頭や手足をハコガメの甲羅に引っ込め、ふたをし、甲羅の外側についている硬くて強力なヤシガニのはさみで反撃し、さらにコウモリーの翼のようなスッポンモドキの大きな水かきで空中を猛スピードで泳ぎ出し、ピンチをギリギリで脱出する。ピンチは続くが追いついてきたダークリザートマンにカモノハシの後ろ足の毒針をお見舞いし、ダークリザートマンは1次的に戦闘不能となり、最後の最後でまさかのブタのブウの逆転勝ちとなる。勝者は続けて戦う権利があったが、ぎりぎりで勝ったブタのブウは続けての勝負はやめたようだった。
そして続けて第2戦、ドッキリパンチャー風毒薬マシンだ。
ドッキリパンチャー、蛍光イエローのわがモリーとテッドのチームのあのピーちゃんだ。コミカルなカエルアンコウの頭を持ち、硬い貝のからヲ1発でたたき割るパンチ力最強のシャコの両腕が最大の武器、そして物まね上手のミミックオクトパスの8本の足が、もともとのピーちゃんの翼と一体になり、ある時は、体を大きくつよそうに見世、ある時は奇怪な動きで不気味に見せ、その鋭いさえずりとともに相手を威嚇するのである。そしていざとなれば隠し持ったスカンクの強烈なガスで相手をダウンさせる。それがモリーたちのドッキリパンチャーなのである。
そして相手のライドルがシャドーピエロとアンディーライムのコンビのバイオレットカラーの昆虫人間のコオロギのリンダ。
タチウオの鋭い歯とヤゴの大きく伸びる隠し顎、そして相手を切り刻むハナカマキリの鎌もついている。そして左手の先にはムカデの頭が付き、大きな毒顎でかみつき毒液を流しこむ。右手からは、サソリの毒針のある長い尾が、むちのようにシュルルと伸びている。ニックネームはズバリ毒薬マシン。
さて不気味なコオロギのリンの毒薬マシンは、さすがに重苦しい殺気を漂わせ、ピーちゃんのドッキリパンチャーをにらみつける。ピーちゃんは負けじと翼を広げ、8本のタコの足をいっぱいに伸ばし、体を大菊見せて対抗する。
ついに試合開始、だがあの不気味なシャドーピエロは、哀愁のまなざしでモリーを見つめて笑うのであった。
「ああ、かわいい小鳥ちゃん、かわいそうにな、うちのりんちゃんと当たるとはねえ、ああ、本当に運がないんだねえ…」
しかし、最初からピーちゃんはヒヤッとさせられる。空を切る、カマキリの鎌の素早さ、ムチのようにしなり、襲い掛かるサソリの毒針、ムカデの毒アゴ、しかし、ミミックオクトパスの8本の腕が、ぎりぎりで何とか、サソリの尾毒針や鎌やカギツメお叩き落とした。だが、中でも胸元から伸びるヤゴの隠し顎の長さと素早さにはこっちがドッキリさせられた。
もう少しでがっちりつかまれるところだったのだ。
「やばいぞ、このスピードじゃ、時期に捕まって毒針でコロリだ」
テッドが珍しく心配そうにつぶやく。
でもそのくらいに素早く危険な奴だったのだ。
「しょうがない、ミラクルウェーブ大作戦よ」
モリーが叫ぶ!その声に合わせて、ピーちゃんが翼をバサバサと羽ばたかせ、羽毛を逆立て、そしてミミックオクトパスの8本の腕が、奇妙に大きく波打ったのだった。
するとその波の動きに合わせてピーちゃんがものすごい声を絞り出す。
「ギョエエエエエエエエエエエエエ!」
「今よ、その一瞬よ」
この瞬間だけは、あの笑えるカエルアンコウの顔が地獄からの死者のように恐ろしく見える。そのあまりのけたたましさに、毒薬マシンも驚き、パット動きが止まる。
そしてそこを逃さず、動きの止まった毒薬マシンにスカンクのガスが発射された。
「ま、まさか…」
スカンクの強烈なガスは、見事に毒薬マシンを直撃!
不幸中の幸いだったのは、スターシードランドには現在は基本的に「匂い」がないところ、スカンクのガスも実際は存在しない。ただ、試合においてはガスを直撃されたのと同じようなダメージを受け、ふらふらになり、場合によっては動けなくなる。
ふらふらになって、気が付くと、ピーちゃんのシャコの両腕が、毒薬マシンの胸に密着していた。
「そこだ、いっけええええ!」
筋肉の弓が場チーンと戻り、強烈なパンチとなって敵の胸を襲った。
「シャコクラッシュパンチ!」
スカンクのガスは、この技のためのさそいだった、分厚い貝殻でさえ1発でたたき割るというパンチが強烈なダメージを与えた。毒薬マシンはばたりと倒れた。
「やったー、おれたちの勝利だ」
「すごいわピーちゃん」
だがピーちゃんもばたりと倒れた。気絶していた。なんとパンチを打つと同時に、毒薬マシンのサソリの毒針も刺さっていたのだ。
「なんてこと、恐ろしいやつ」
なんと第2戦両者ダウンの引き分けだった。
さて次は、総合的な完成度でも1、2を争う、内臓丸だしのアンドロとギュノーのチームのブルーの猫のミイだ。顔はもちろん猫だが、
なんと昆虫界でも最強と呼ばれている、スズメバチの強力なあごと、何度でもさせる鍼を左手に持ち、そしてハンミョウの羽を持ち、浮き上がって地上を高速移動する。
さらにプラナリアの再生力で命も余計に持っている。だが1番の武器は、腰の独占からカウボーイの拳銃のように打ち出される、蟻酸弾と、右手に装着したナゲナワグモの蜘蛛の糸のナゲナワである。遠くの敵もナゲナワでからめとり、引き寄せて左手のスズメバチの毒針で仕留めるのである。拳銃とナゲナワ、これがデンジャラスカウボーイと呼ばれるゆえんである。
そして対戦相手は、ジャングルマーカスとファゴットメアリのチームの戦士、アースグリーンのヘビのニョロが成長した、クラッシャードラゴンだ。こいつは優勝候補の2番手に挙げられているやつで、頭と尾は高速で泳ぐカジキの仲間ブルーマーリン、口先についた剣のような角で相手を切り刻み、突き刺し、胸についているイリエワニの頭の強力なあごががぶりとかみついてとどめを刺す。さらにワニの頭部からは本体のニョロと、神経毒を噴き出すというケープコブラの頭が生えていて、離れた場所からコブラの神経毒で相手の目を失明させる攻撃も得意にしている。
クラッシャードラゴン對デンジャラスカウボーイ
空中を高速で泳いで進むブルーマーリンは、その素早さから、ナゲナワで捕まえようとしても、なかなか捕まらず、口の先の剣で切り刻んだり突き刺したり、胸のワニのあごでかみ砕いたり、最初は暴れ回るクラッシャードラゴンが手に負えない暴れっぷりで優勢に試合を進める。さらに、猫のミイのデンジャラスカウボーイは、ケープコブラの毒を拭きかけられて大ピンチに陥る。これで死力を一時的に失い、イリエワニの巨大な口が大きく開いて迫ってくる。ぎりぎりのところでスズメバチの針を振り回し、なんとか逃げ出す。反撃もできず、ピンチが続く。
いよいよ最後化と思われるクラッシャードラゴンの突撃が始まった、だがこの最悪の危機を、カウボーイは起死回生へのチャンスへと変える。もう何度も口先の剣で攻撃されてふらふらになりながらも、正面から迫って来たクラッシャードラゴンに蟻酸の弾丸を1発2発と撃ち込んだのだ。1発はブルーマーリンの頭に命中し、しかも1発はお返しとばかりにワニの目のあたりに命中したのだ。
「ぐおおおおっ」
これでクラッシャードラゴンの動きがかなり遅くなった。チャンスだ、猫のカウボーイはさらに銃を撃ちながら、右手のねばねばの蜘蛛の糸をさっと用意し、的確にドラゴンを狙った。
すると今までかすりもしなかった蜘蛛の糸が命中したではないか。
クラッシャードラゴンは、ネバネバの糸で、中で捕まり、さらにねばねばで縛られて引きずり降ろされた。動けなくなったところを、蟻酸弾で弱らせ、とどめにスズメバチの毒鍼の一撃で、デンジャラスカーボーイの逆転勝利となった。
その強さに静まり返る闘技場。しかもプラナリアの再生能力でノーダメージに戻っていたのだ。
しかしその勝者の前に立ちふさがったのが、優勝候補のインテリジェントジャイアント、カメのムウだ。ノバ女王の作戦で大型哺乳類の能力を多く取り入れたカメのムウは、見た目は亀の甲をしょった怪力の象で、まず、他のライドルたちと比べても2まわり以上大きく、しかも怪力だ。水中でも呼吸できるウーパールーパーのエラ以外は重量級のアフリカゾウの頭、賢く、怪力のオランウータンの腕、アリ塚も破壊するオオアリクイの鋭い爪、最強のキックを持つという派手なダチョウ、ヒクイドリの足などを持っていて、格闘戦や力比べなら圧倒的に強い。しかも頭もよいのでインテリジェントジャイアントと呼ばれているのだ。
ハダカデバネズミのノバ女王が笑った。
「ホッホッホ今回は運がよかったわ。体が大きくて賢い哺乳動物をうまく味方にできたからね」
マダムクリステルも笑顔だ。
「さすがノバ女王、カメのムウはきっと期待に応えてくれるでしょ」
さて勝つのはどちらだ。
内臓丸出しのアンドロトギュノーが、デンジャラスカウボーイの猫のミイにおごそかな声で作戦を授け、静かに試合は始まった。
ブルーの猫のミイはハンミョウのスピードで近づいては離れ、蜂の針で狙ってくるが、怪力のカメのムウは鼻と甲羅で跳ね返す。
これではらちが明かないと、ネコノミイウのデンジャラスカウボーイは腰の蟻酸弾をぶっ放す。しかしこれはインテリジェントジャイアントの怒りを買ってしまう?!カメのムウはそれではとジャガーも恐れるオオアリクイの強力な爪を使って、スズメバチの毒針のある左手を払いのけるように爪を打ち下ろしたのだった。
「ギャウギャウギャース」
猫のミイ、デンジャラスカウボーイが悲鳴を上げる。左手を強打し、しびれてしばらく使えないようだ。インテリジェントジャイアントはその隙を見逃さず、さっと背後に回った。
「やつに蟻酸弾やナゲナワを使わせずに勝つのよ」
それはインテリジェントの名にふさわしい、考えに考えた作戦だった。
なんとスカーレットのカメのムウ、インテリジェントジャイアントは、背後からオランウータンの腕で猫の首の動脈を締め上げるスリーパーホールドをかけたのだ。
「ギャウギャウギャース」
苦しがる猫のミイ。
だがこの体勢では、ナゲナワも蜂の針もつかえない。スリーパーホールドが確かに食い込んでいく。カウボーイは徐々に力が抜けてゆき、気を失っていく。しかも左手のハチの針はゾウの鼻で押さえつけ、使えないようにしていた。そして最後は締め技でふらふらになった猫のデンジャラスカーボーイから少し離れると、ヒクイドリの強烈な蹴りが、1発、2発と決まり、さらにオランウータンの怪力の腕から繰り出すストレート、アッパー、そしてゾウの鼻の強烈なフック、という連続攻撃でノックアウトだ。
蟻酸弾も、ナゲナワも見せ場を作ることなくデンジャラスカーボーイは敗北した。
さすがでかくて賢い優勝候補だ。
「アリーナでの対戦を今の対決を持って終了します」
デジタルアナウンサーの声が響き、巨石のコロシアムは再び大地の中に姿を消す。そして地響きとともに最後の宝探しのための7つのオブジェが姿を現す。
高い山や砂漠、サンゴの海や海底もある、大掛かりな迷路や塔もある。真っ暗な洞窟もある、ここで進化金貨を増やして1番多かった者が優勝だ。
まずはサンゴ礁の海で宝物の巨大な真珠を捜すクエストだ。
これにはマジカルタンクのブタのブウが挑戦、コウモリーのようなスッポンモドキのヒレで泳ぎ出し、スッポンモドキの能力で海の中も自由自在だ。
色とりどりの美しいサンゴや熱帯魚の群れが見ているだけで楽しい。途中で、海流に流されそうになったりオオダコに襲われたりするのだが、そのたびにドキドキしながらサイコロを振り、危機を回避する。例えば1を出してはいけないと指定されていれば、1さえ出さなければ海流に負けずに泳ぎ切ったり、怪物ウツボが襲ってきて、オオダコが逃げ出したりする。先に進んで、大きな真珠をゲットできる。マジカルタンクは3度の危機を乗り越え真珠をゲットした。これは凄い、金貨何枚分だ。
同じ海でも、もう少し深いところのクエストに挑戦したのはクラッシャードラゴンだ。
そこは海底の難破船、途中、ダイオウイカに襲われたり、宝を守るガイコツ船長や、船幽霊たちと戦ったりする。ここで、サイコロで危険な目を出さなければ、マッコウクジラがダイオウイカを追っ払ってくれる巨大戦が見られるし、人魚姫がお供を連れて助けに来てくれて悪霊を消し去る聖なる宝石も拝める。そしてそれに成功すれば、宝箱ゲットだ、クラッシャードラゴンは大量の金貨を手に入れたという。
次のダークリザートマンは、真っ暗な洞窟の中を進み、巨大吸血蝙蝠の群れやゴールドドラゴンを倒して金貨いっぱいの宝箱をゲットした。
ピーちゃんのドッキリパンチャーは、突風や大ワシの妨害を乗り越えて、高い山の頂をめざして飛び続けた。1度サイコロで出してはいけない目を出して岩にたたきつけられたが、ボロボロの体で飛び続け、ギリギリで大鷲の追撃を振り切り、山頂の宝箱の金貨をゲットしたのだった。
デンジャラスカウボーイは、砂漠で見つけたフタコブラクダに飛び乗り、流砂の砂漠や砂嵐の砂漠、凍てつく荒野、熱風砂漠を命懸けで渡り切り、とにかく突っ走った。サイコロの出してはいけない目が出て、ドラゴンラクダに追い回されるピンチもあったが、自分で走って逃げ、ピラミッドの宝石を手に入れたのだった。
インテリジェントジャイアントは、生垣でできた緑の迷路、噴水や水路の青の迷路、マグマの流れる赤の迷路、落とし穴や怪物の部屋もある仕掛け迷路など、いくつもの迷路を、知力で攻略し、甲羅をしょったあの巨体でゆっくりと、しかし確実に最短で安全な経路で抜けて、金の女神像を手に入れた。
するとファンファーレが突然鳴り響き、デジタルナレーターの声が響いた。
「ボードゲーム、進化の罠は、以上を持って終了します、皆さん、素晴らしい熱闘を、ありがとうございました」
するとテーブルのあちこちから拍手が鳴り響き、メガネ娘のレイチェルローズウッドとライオンハート教授が出てきた。成績発表だ。
では発表します。「…優勝は、進化金貨117枚でマダムクリステルとノバ女王のチームのカメのムウ;インテリジェントジャイアントです」
空中に現れたスクリーンにすべての成績が映し出された。
「ええっ、117枚だって、とびぬけてるよ、あのチーム。ねえテッド、うちは金貨何枚だっけ?」
「…54枚で4位だよ。アリーナでは勝ったと思ったらダブルノックアウトで、山の上まで大鷲をふりきって飛んだ時は、感動して2位か3位にはいってるかなって手ごたえがあったんだけどな」
けれど、モリーが本当に驚いたのは、次のペナルティ―のコーナーだった。
「ではこれから最下位のシャドーピエロとアンディーライムのチームのどちらかと、バイオレットコオロギのリン、毒薬マシンの顔を入れ替えます」
どうも毒薬マシンはサイコロを振らずに塔の怪物を倒してしまったので、減点になったようだった。それにしても、こんなペナルティ―は聞いたことがない。すぐにシャドーピエロが手を上げ、おれの顔と変えてくれとアピールした。
「こんな薄気味の悪い顔になれるなら、望むところだ」
だが、すぐ隣の女子大生、アンディーライムが突然叫んだ。
「いいえ、私の顔こそ、毒薬マシンと変えてください。お願いします」
一体どういうことなのだろう。紫色のコオロギの頭に、大きな口ががばっと開いてタチウオの鋭い歯がのぞいている、こんな薄気味の悪い顔にどうしてなりたいなどというのだろう。
「シャドーピエロさんと会って、ジャーナリストマルコムライコスさんの考え方に触れて、私の考えは180度変わりました。私が夜のパレードで浮かれていた間も、戦争は起き、難民は追われ、環境破壊は進み、地球は悲鳴を上げていたのです、それを私は何も気づかず、ただ楽しいだけの毎日を過ごしていた、…今日も命のすばらしさを学び、こんな体験は忘れたくないから、そのしるしに、スターシードランドでの顔を変えたいんです」
すると来オンハート教授は言った。
「アンディーライムさん、いいだろう、君はシャドーピエロと出会うことによって世界をもっと広く、さらに深く知るようになった。その思いを深く受け止めるために顔を変えるというなら、私は賛成しよう。ただ、そうやって顔を変えて、元に戻れなくなった人もそこにいる。気をつけなさい」
え?だれだ。まさか…。そこでメガネ娘のレイチェルローズウッドが進み出る。
「魔法の解き方は簡単です。あなたを大切に思う人に、あなたの本名を呼んでもらうだけです。それだけで、すぐに、顔はもとに戻るでしょう」
そしてそれから数分後、アンディーライムのかわいらしい顔は、紫色のコオロギで、パックリ開いた口の鋭い歯が見える薄気味の悪い顔にとかわっていた」
「これでいい、これで体に刻まれました。シャドーピエロの記憶が、私の目を開いてくれたジャーナリストのマルコムライコス氏の思いが…」
アンディーライムはそう言うとプラチナテーブルから立ち上がって歩き出したのだった。
「ではライオンハート教授、お約束の通り、何が原因でこんな実験を始めたのか教えてください」
モリーが再び聞くと、ライオンハート教授は、語り始めた。
「このスターシードランドが始まったときからの熱心なファン、スターシード氏たちとこの仮想空間を作った、主に理科系の研究者たちや関係者たちを中心にして、この長老キャラなどの重要キャラが作られた」
急なライオンハート教授の話に、長老たちは静かにうなずいた。
「そして劇場通りのエリア責任者だった、大女優ビビアンエルンストの店ポーラースターが、役者やスタッフ、長老たちのたまり場となり、この店のプラチナテーブルで「進化の罠」などのデジタルボードゲームが行われるようになった。そして第1回の進化の罠の優勝者はビビアンエルンスト、ただその時の彼女の願いは、彼女の少女時代の実話をファンタジー絵本にまとめた「波乱万丈姫の物語」、これを仮想現実コンテンツにしてほしいというものだった。何年かかってもいいのならという条件で、私はそれを引き受けた。私が企画、脚本を担当し、魔法少女たちが実際のプログラムなどの細かい部分を仕上げた」
引きこモリーの少女時代をもとにした第1部ガラス瓶の冒険、歌をあちこちで披露した合唱団時代をもとにした第2部鳥かごの歌姫、ミュージカル女優時代を体験できる第3部操り人形の海賊団と、やっと最近できあがったばかりだ。
そして次の年、第2回大会にビビアンエルンストが出場するときに、あの顔を取り換えるというペナルティを彼女が自分から提案した。
「夢や願いをかなえてもらうのだから、それ相応のペナルティもなければね」
そしてわざとではないらしいものの彼女はその年最下位に本当になり、毛むくじゃらの獣の顔になってしまった。
そして、顔を変えた女優ビビアンエルンストは、店はそのままでベールをかぶり、マダムクリステルと名乗って、姿を消したのだ。
「…やはりそうだったのか」
モリーは行方不明の3人目の発見に小さくガッツポーズをとった。
するとみんなの注目の中、マダムクリステルは、顔のベールに手をかけて言い放った。
「…その通り、すべて教授の言った通りです。私はあるきっかけからネット生活に疲れ、しばらくの間ネットからおさらばしようと、1度はすべてを手放し、この店の権利も仲のいい兄に譲り1度は姿を消しました。でもこの店は思っていた以上に人気があり、店を続けてほしいという声があちらこちらから寄せられました。だから仕方なく、私は、別人として、店の経営だけを秘密で行っていたのです。このけだものとなった顔にベールをしてね」
そしてマダムはベールを取り去った。その下からは予想しなかった獣が出てきた。
「ま、まさか?ア、アルパカ」
白い蒔き毛の中に大きな黒い瞳が瞬いていた。どこかおどけた、やさしそうなまなざし、それが今のマダムの偽りのない顔だった。
だが、ライオンハート教授はさらに続けた。
「だが顔をベールで覆い、別人となって暮らし始めたマダムから、数か月後驚くべき報告が上がって来た」
「教授、実は私は1日の半分近くを、アルパカ人間としてネットで過ごしてきたのですが…。アルパカの顔で過ごしていた後、何か今までにない不思議な感覚に襲われることがあるんです」
「教授、アルパカの顔になってネットで活動した後、、大草原で風に吹かれる、不思議な夢を何度も見るんです」
「モリー君、私のこの研究の始まりは、このマダムの言葉からだった。最初はその言葉が意味することが全く分からず、私も大いに悩んだ。それで私もネットの中での自分の顔を、周囲の理解を得て、ライオンに変えてみた。するとどうだろう、自分の考えていたこととは全く違っていたが、私もある妙な感覚に襲われるようになったのだ。ライオンは家族で暮らす生き物だ。いつも仲間のことを考え、群れのために行動することを1番に考える、独特の考えのチャンネルが開いていったように思えた。つまり、仮想空間である別の生き物の形になると、その形をとおして、人間は何かとつながるということだ」
ライオンハート教授がかなり本物のライオンなわけもやっと納得がいった。
では、なにとつながるのか?そこからいろいろな実験が始まった。超現実主義絵画から曼荼羅、古代彫刻などの図形や立体、怪が、はく製、化石、いろいろなものをもとにしてその形を仮想空間で再現し、それを人間に体験させる実験が行われた。
そして恐竜時代のラプトルの仲間の化石をつかった実験で、古代の記憶に触れた時、私は確信した。私たちは地球の記憶とつながっているのだとね。そして化石をもとに復元した恐竜人類の記憶を仮想現実で体験した人間が読み取ることにより地球の記憶の再生プレーヤーとしての人間の利用法も見えてきた、その方向での実験体が、偉大なブタだ。歴史の方向からつながる実験体が先ほどのブラックマター氏だ。
彼は、土偶や兵馬俑などの古代の遺物を使ったわけだ。そして現在生きている生物の叡智を集めて存在するのがノバ女王なのだ。
「すると、アースウィズダムとつながるには、結局何が必要なんですか」
モリーの質問にライオンハート教授はこう答えた。
「1つ目はリアルなCGだ。化石でも生きているものでも、地球の1部なら可能だ」
「2つ目はそのものになりきって、それを体験できる仮想現実、メタバースだ。スターシードランドは偶然生まれた理想の場所だ」
「3つ目はそれを体験してつながり、その体験を他の人に伝えることのできる人間だ」
すべての真実が日のもとにさらけ出されるのかと思った瞬間、けたたましい足音とともに、去ったはずのアンディーライムが駆け込んできた。
「大変です、大事件です、今建物の外にテレビの撮影隊が来ていて…。そうだ、まず、テレビを、テレビをつけてみてください」
マダムが壁に手を向けて何かをささやく。すると壁が大画面の映像に変わった。
ネットテレビの臨時ニュースが生中継で流れていた。
「どーも、ネットの気になるレポーター、北村セツナです」
出た!先輩のセツナさんだ、今日は、あでやかなドレスにつばの広い帽子と、往年のハリウッド女優のようなファッションできめている。
「先ほど大騒ぎとなったアーストレードビルの怪物事件が場所を変えて続いて、被害が広まっています。凄い、すごい振動、地面が揺れているのがわかります」
画面は上空からの画像に切り替わり、セツナリポーターは、画面の隅で叫び続けていた。
「左胸に大きなヒビの入った傷だらけの巨大ダビデ象が、走りながら、こちら、劇場通りに近づいてきます」
空中に浮かんでそれを追いかける巨大ツタンカーメン像もよく見える。
いったいなぜこんなことになったのか?
実は少し前、3体の巨大象のうち、金剛力士像が突然仲間を襲いはじめ、その手の平からの衝撃波で、ダビデ象の左胸に大きなひびが入り、ツタンカーメンは顔面が半分崩れ去った。これはセーラの仕掛けたリモコンリモコンの仕業で、仲間がそばに来たら、攻撃する様にリモコンをリモートコントロールした結果である。
またその頃、スターシード氏のエンジニアから情報を得て、警察と探偵が動き出していた。マリオネットコウジは、汚名挽回だと警察を出し抜いて1番先にある高層マンションの1室に宅配便を装って、踏み込んだ。
「キャー!」
アバターと同じ狸顔の女が悲鳴を上げた。
「この変態男、指1本でも私の体に触れたら警察に突き出すからね」
マリオネットコウジは無理やりデイジーを捕まえなかった。非常口にもエレベーターホールにも、見張りの女性探偵R3とR4を配置してあるからだ。
やがてデイジーは、部下の女子隊員によって身柄を確保され、彼女のパソコンは電源を切られ、金剛力士像は消え去った。その刹那、ルーニーはつぶやいた。
「くそ、もうデイジーがつかまったか?思ったよりかなり早い、早すぎる。くく、もう終わりか…。だがそうとなれば、ニュース価値を高めるために、派手に死んでやるか」
もちろん現実に死ぬわけはない。
「あそこがいい、劇場街のフェアリーキングのモニュメント。あの有名なモニュメントを道連れにすれば世界中で騒いでくれる。ダビデ象目線の記録映像をとっておけば、裏で高く売れるぞ。あ、テレビでも呼んでおくか。ようし」
そしてルーニーのダビデ象は走り出し、突然、劇場通りめがけて地響きを挙げていたのだ。そして北村セツナは劇場通り風に急遽コスプレして、現場に送られたのである。
「実は先ほど局に電話が入りまして、ダビデ象は劇場通りのモニュメントを目指しているとあったんですが、大当たり、わが局の撮影隊の目の前にダビデ象がやってまいりました」
今セツナの目の前にはモルフォ姫とアーサービートル、そして巨大なムカデカイザーの象が並んでいる、世界的に有名なミュージカル、フェアリーキングの名場面だ。そして道路を挟んだ向かいには、プラチナテーブルのあるカフェ、ポーラースターがある。
そして今、巨大な足がこの劇場どおりを踏みしめ、地響きを立てながら、胸に大きなひびの入ったダビデ象が到着した。
「いやあ、遠くからの画像は見てましたけど、50mの巨体はデカすぎます。はっきり言って、こんなそばにまで来るとは思わなかったし、実際に誰もけが人が出ないのもわかっているんですが…はっきりいって怖いです。セツナは震えてます。脚ががくがく来ております。えっ、な、何?」
その時、北村セツナに、ダビデ象の巨大な手のひらが迫って来た。
ええええ、やめてよして触らないで、ああ、もっとやさしく、そう、そう最初から手の平にそう乗せてくれれば…、わあん、ダビデ像にさらわれた、助けてええ、助けてええ。こうなったら、北村セツナ、かじりついてもダビデ象の手の上からレポートを続けまあス!…チアアーン、でも、ちょ、ちょっと高い、高すぎる。ああーんこわいようう。やっぱダメかも…」
ふとマダムが窓を開けると、すぐ目の前に本物のミケランジェロ作の巨大なダビデ象が立っていた。そしてダビデ象の大きな手のひらで取り乱していた北村セツナと目が合って、つい、手をふった。セツナの視点からのネットカメラの映像に、ベールをとったマダムが大きく映り込み、ネットニュースの画像として、世界中に配信されたのだった。
そして次の瞬間、ダビデ象の足のあたりから大きな光が輝き、この有名なモニュメントの一帯を包み込んだ。
リアルブレーカーの光だ。どーもこのモニュメントも破壊する気満々だ。
そしてダビデ象は、レポーターのセツナを左手に乗せたまま、その巨大な右手を振り上げ、モニュメントのムカデカイザーに向かって、なぐりかかったのだった。
巨大な筋肉がうなりを上げる。
ガガン、ズガーン
「!?」
凄い衝撃があたりに響き渡った。
だがムカデカイザーがバラバラにされたと思っていたら、モニュメントは、いつのまにか光の壁に守られていて、逆にダビデ象は跳ね返されたのであった。
「な、なにい!何が起こったのだ」
操縦していたルーニーサンダークラウドは驚いた。
だがすぐに、魔法少女たちが光の壁の前に立って手を上げ、光の壁を作っているのに気が付いた。
「くそう、小さなハエどもめ、今踏み潰してやる」
だが、魔法少女の1人が進み出た。
「スターシードランドの土地を不法な方法でわが物都市、その利権ごと手に入れようとするとは迷惑千万、歴史に残る名作のミケランジェロのダビデ象を使って街を破壊するなど絶対許せない。ミケランジェロが泣いています。もう無駄なあがきはやめておとなしく逮捕されなさい」
進み出たセーラジェネシスがそう言ったとたん、セーラの魔法か、ダビデ象は大粒の涙を流した。そしてその涙がひび割れた胸にポトリと落ちた時、ヒビは全身に広がって行った。
レポーターのセツナが驚きの声を上げた。
「ああ、ヒビが全身に広がり、崩れていく…、崩れていく…、ダビデ象が石の塊のようになって崩れ落ちていきます。…自らの涙が、体中に胸のヒビ割れを広げてしまった…」
そしてセツナはまじめな顔になってレポートを締めくくった。
「ネット時代のデジタル地上げが原因かとささやかれるこの事件は、野望とともにモロクも崩れ去っていきました。野望野暴走によって破壊されようとしていたフェアリーキングの大理石のデジタルモニュメントは勢ぞろいした魔法少女たちによって守り切られました。近いうちにサイバー警察によってその目的や手口が明らかにされるでしょう。劇場通りのモニュメントの前からレポーターのキタムラセツナでした…」
ダビデ象の残骸を踏みしめての最後の言葉でネットテレビの中継は終わった。
そしてそれから2分後にジェンキンスが、7分後にルーニーが警察に逮捕され、ツタンカーメン像などすべては消え去り、事件は終りを迎えたのだった。
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