第37話 将来、結ばれる二人

「だいたい、池も草も無いあんな場所に、カエルがいる訳がないのだ。やはりお主の仕業だったのか」


 ガイアナ姫は涙をぬぐいながら、クルスを見た。


(賢いな……)


 ガイアナ姫は、かまをかけて来た。

 クルスはまんまと、それに引っ掛かった。


「まぁ、カエルの件は、お主の立派な作戦だということにしておこう。二度同じ手は効かんと思え」

「はい……」

「それにしても、お主、どうして私がカエルが嫌いだと知っている?」


(!)


 どう言い訳したらいいか、クルスは思い付かなかった。

 ゲームで得た知識だと返事をしたところで、変なヤツ扱いされるだけだろう。

 ガイアナ姫がクルスの目をじっと見ている。

 その圧力にクルスは耐えられなくなり、こう応えた。


「僕は姫のことを慕っています。だから、どんなことでも知ってます!」

「まぁっ!」


 ガイアナ姫は両手を叩いた。

 彼女の上ずった声が部屋中に響く。

 頬が紅潮し、口元がニヤついている。

 どうやら期待していた応えだったらしい。

 

(その場しのぎだったが、ガイアナ姫の機嫌を損なうことは無かった。良かった~)


 ゲームでは、クルスとガイアナ姫は冒険を通し親密になる。

 そして、魔王デウスを倒した後、エンディングで結婚する。

 許嫁のいるガイアナ姫は、貴族という世界から自由になるために、クルスに手を取られて旅立つ。

 そこでゲームは終わるのだ。

 

 異世界のガイアナ姫がこの時点で、クルスに多少なりとも好意を持っているのは当然のことだろう。


 クルスはそのことを感じ取っていたし、ゲームでの成り行きも知っていたので、さっきの様な言葉が出た。


「嘘でも、嬉しいぞ。クルス」

「……はい」


 ガイアナ姫がクルスの手を握る。

 柔らかい小さな手だった。


「お主を王命で強制的に従わせることも出来るのだぞ」

「え?」


 無理やり、魔王討伐の旅に付き合わされるのはゴメンだ。


「だが、それではお主の意志を無視することになる。それでは意味が無い」

「はい……」


 ガイアナ姫は一息つくと、こう言った。


「だから、お主の心が変わったら、教えてくれ」



~~~


 夕方。


 ガイアナ姫の居城、その一階の会議室にて、パルテノ村の現状を把握するための会議が行われた。


 ガイアナ姫、クラークソン兵隊長とその部下数名、デルマン男爵、村長そしてクルスが参加した。


 机の上にはコヒード大陸の地図が広げられている。

 パルテノ村周辺の森のところに、×印が付けられていた。

 クラークソン兵隊長が×印を指差し、こう言った。


「ここでAクラスのモンスター、つまりゴーレムが目撃されたそうです」


 クルスとアティナがパルテノ村から逃亡した夜のことだ。

 ラインハルホ城の見張り台から監視兵が、ゴーレム数体を目撃したらしい。


「この辺りで、ゴーレムが生成ポップされるのは、今まで無かったことです!」


 クラークソン兵隊長は語気を強めた。

 ガイアナ姫は黙って話を聞き、地図を見ている。

 そして、顔を上げた。


「デルマン、どう思う?」


 いきなり話を振られたデルマン男爵は、あたふたしながらこう応えた。


「わっ、私が赴任して来てから……その、クラスE、Fのゴブリンやスライムしか現れておりません。Aクラスなど何かの見間違いでは……」


 自分が治安維持を怠ったせいで、Aクラスのモンスターが野放しになっていることを叱責されたくないのだろう。

 訊いても無いことまで、必死に弁解している。


「やはり、魔王の脅威がここまで……」


 ガイアナ姫は小さな顎に手を当てた。


 クルスは何を応えようか考えていた。


つづく

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ヒロインなんかほっといて、主人公は異世界で静かに幼馴染とパン屋を営みたい うんこ @yonechanish

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