第36話 白ワンピのお姉さん

 小さなパルテノ村にとって、王族の者を迎え入れるのは大変なことだった。


 まず、ガイアナ姫と従者数名が長期滞在するということもあり、ラインハルホ城からは沢山の物資が送られて来た。

 馬車の荷台には沢山の衣類、武器、防具、そして家財道具が載せられていた。


 それらを村人数人で、ガイアナ姫の居城に運び入れる。


 クルスはパン屋をアティナに任せて、手伝った。


「服もおしゃれだけど、家具もおしゃれだな」


 桜の木で出来た桃色のチェストを運びながら、そう思った。

 二階への階段を上がり、ガイアナ姫の自室へ向かう。


 空いた扉の隙間から、ガイアナ姫がいないかどうか窺う。


(良かった。いない……)


 いたら面倒なことになる。

 クルスは安心して、チェストをガイアナ姫の自室まで運び入れた。


 チェストを置き、一息つく。


「おお、そこじゃない。もうちょっと奥に置いておいてくれ」

「ああ……、はいっ! ……って、ガイアナ姫」


 慌てて振り返ると、そこには白いワンピース姿のガイアナ姫が立っていた。

 クルスは驚き、飛びのいた。

 思いっきり尻餅をつく。


 ガイアナ姫は無表情でクルスを見下ろしていた。


「お主は、そんなに私のことが嫌いか……」

「いっ、いえ……そんなことは……」

「ふふ、まぁ、良い。お主にとっては、魔王より私の方が災厄なのだろう」

「……」


 ガイアナ姫は、ふぅ、とため息をついた。

 何だか寂しそうな表情だ。


 ガイアナ姫は、この新しい居城で一息ついていたのだろう。

 鎧を脱ぎ捨て、膝上丈の白いワンピースを着ていた。

 丸くてかわいい膝に、素足。

 

 先程は、いきなりの彼女の登場で驚き、飛びのいたクルスだった。

 だが、今、彼女の姿を良く観察すると……


(か、可愛い……)


 彼女は出窓に腰掛け、足をブラブラさせながら村の様子を見ている。

 笑顔で手を振っている。

 きっと、子供達にでも手を振っているのだろう。


 戦闘態勢とは違い、リラックスした普段のガイアナ姫といった感じだった。


(そう考えると、貴族ってのも大変だよなぁ……)


 クルスはそう思った。

 常に人前に立ち、周りを気にし、好きなこともなかなか出来ないのだろう。


「クルス、ちょっと待て」


 ガイアナ姫に呼び止められ、クルスは肩をビクつかせた。


 振り返った。

 陽光の光に白く縁取られた令嬢がそこにいた。


「一つ確認したいことがある」

「はっ、はい!」

「お前は、あの決闘の時、カエルを仕込んだだろ?」

「え!?」


(ばっ……ばれてる!? ……今頃!?)


 クルスは後ずさった。


「ふっ、ふふふ……」


 ガイアナ姫は噴き出した。

 そして……


「あはははははは! クルス、お前は嘘を付けん性格の様だな。すぐ態度に出る!」


 指差して笑いだした。


つづく

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