【ショートストーリー】無言の詩、見えざる数式、あるいは曖昧な輪郭
藍埜佑(あいのたすく)
【ショートストーリー】無言の詩、見えざる数式、あるいは曖昧な輪郭
彼はしばしばこう言った。
「言語は限界を示す」と。
確かに、言葉は頭の中で形作られるが、心の中に広がる感情を捉え切れない。
私たちはその限界線の上で手を振りながら、見えない何かを感じようとしていた。
限界があるのであれば、きっとその先があるはずだから。
彼は論理を探求する者。
見える世界の骨組みを、見えざる真理で理解しようと試みる。
でも彼にとって感情、それは言語の枠外に存在する曖昧な輪郭。
非論理的、そして予測不可能なそれは彼にとって未知なる海であった。
一方、彼女は感情の詩人。
言葉にはしない。
ただ感じる。
彼女にとって重要なのは、言葉にはならない心の鼓動、それが示す原生的な意味だった。
昼下がり、彼は記号と論理の式で満たされた黒板の前に立つ。
一方で彼女は窓辺で薫る風に耳を傾ける。
彼の言葉は宇宙を編み直す試み。
彼女の沈黙は、世界の本質に耳を澄ます行為。
言葉は少なくても、心は通じていた。
夜、彼らは言葉の限界を体感する。
星明かりの下、静かな沈黙は彼らに問う。
「本当に大切なことは、言葉にすることができるのか?」
実際の言葉はあまりにも貧弱で、彼らの心の中にある豊かな感情を表現できない。
そうして、彼は気づく。
理性と感性、両者が結びつき形を成す場、それが彼らの愛の場所だと。
彼と彼女は、二人だけの言語を作る。
それは誰にも理解されないかもしれないが、二人にとっては完全な理解の形。
彼らの愛の言語は数式になることも、詩になることもある。
彼女は彼に言った。
「言葉は必要ない。ただ、あなたがここにいるだけでいい」
彼もまた、彼女のその言葉をかみしめながら、心の底から同意する。
彼らは白紙のままのページを見つめ合う。
そこには何も書かれていないが、二人の愛の歴史が刻まれている。
言葉ではなく、心と心の触れ合いによって。
そして最後に、彼らは一緒に、新たな理解の旅を始める。
それは地図にはない道。
二人だけの言葉によって綴られる愛の物語。
言葉にならない絆が、二人を強く結び付けている。
それは、無限の宇宙よりも広く、どんな計算式よりも正確な愛の形だった。
(了)
【ショートストーリー】無言の詩、見えざる数式、あるいは曖昧な輪郭 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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