AC-10。

arm1475

脱げば脱ぐほど強くなる。

 魔王は戦慄していた。

 僅か三日前、人類を半年前の開戦時より1割まで減らしてみせて魔界の完全勝利を確信したその時、窮鼠の人類が召喚に成功した勇者によって全てがひっくり返された。

 鋼のような肉体。

 どんな逆境であろうと怯まぬ不屈の精神力。

 サラサラヘアーの金髪。(←ここ伏線)

 まさに理想的な勇者であった。


「ワシにはただの変態にしか見えないが」


初めて勇者を見た魔王の一声である。それは魔王軍全員同じ事を口にしていた。


「――なんであんな勇者に我が軍はここまで圧されてしまった?

 奴は素手だぞ? 剣も魔法も使わないし、剣も魔法も通じない!

 否、素手どころか真っ裸じゃないか!」

「魔王様、不躾ですがあやつはパンツは履いておりま――あべしっ」

「そんなもの見れば分かるわっ!」


 激高する魔王は進言した臣下を拳の一撃で屠り去り、


「見た目からも悪夢以外のなにものでもない! 何なんだ奴は! このまま! このまま我が牙城へ来るというのか、あの変態がっ! 誰でもいい、奴を斃してあの忌々しいパンツを我が前に差し出す者は居らぬのかっ!」

「魔王様、男物のパンツをご所望らしひでぶ」


 魔王は無言でその臣下を踏み潰した。


 それと同時に、問題の勇者が魔王城へ殴り込んできた。

 人類を1割まで減らした軍勢の9割を、たった三日で殲滅させてからの決戦であった。



  転生してくる勇者たちに授ける天啓ギフトは平等に分け与えているつもりだけど、出来る限り本人の特性にあったものを自動的に授ける仕組みなんだけどね。アタシも今回のケースは初めてよ。そこにアタシの意図は介在しないのよ、神に誓ってってアタシが神か。まあどうせなら可愛い女の子だったら絵になったんだけどねぇ。


 

 『徒手空拳ステゴロ


 武器を装備せず、素手であればあるほど強くなる。

 それが今回の勇者に授けられた天啓ギフト

 召喚された直後の勇者はそれならば、と


「フリーダム!」


 と叫び、着ていた服を脱ぎ捨ててパンツ一枚になって魔王の軍勢に飛び込み蹴散らしていった。

 魔王軍があっという間に殲滅するまで、人類最後の王様は変態を召喚した魔導師を愚か者めとポカポカ叩き続けていた。


 魔王城に立てこもっていた魔王軍の残りを撃破し、遂に魔王の目前に現れた変態。


「変態では無い! お前を斃す為に召喚された人類の希望だ!」

「素っ裸で暴れ回る奴を希望にする人類に心から同情するわワシ」

「NO、NO、NO、LOOK AT ME」


 ステゴロ勇者は自分の股間を指し、


DON’T WORRY安心してください, I’M WEARING THEM履いてます

「やかましいっ!」


 キレた魔王は変態勇者に渾身の魔力を込めた魔拳を放つ。

 変態勇者は両腕を交差してそれを受け止めるが、『徒手空拳ステゴロ』のスキルをもってしても防ぎきれず後方へ吹き飛ばされてしまった。


「もう一撃放てば斃せるか……」


 魔王が変態勇者の力量を見計ったその時だった。


「――まてまてまて! 勇者お前何をしているっ?!」


 魔王は凄まじい闘気を放ちながら最後の一枚に指先をかけている勇者に気づいて動揺する。


「どうやらお前はこの『徒手空拳ステゴロ』の全てを使うに相応しい相手と理解してな」

「いやそれ脱いだら本当に真っ裸になるじゃないか!」

「全てを解放しなければ斃せないのでな」

「やめろこのド変態!」

「いくぞ!」


 変態勇者は一気にパンツを引きちぎり素っ裸になった。


「これが! 俺の! 百パーセント! 全力パーフェクトモードだ!」


 勇者フ○チンモード。○の中に入るのがリなのかルなのかお好みのほうで。


「このフルパワーワンパンで死にさらせぇぇぇぇ!」


 勝利の雄叫びとともにフ○チン勇者が魔王に飛びかかる。これを凌げなければ末代までの恥と魔王は両手で受け止めようとする。もっとも未婚だから今のワシか末代だなと走馬燈の速度で思考していた。


「まだワシ嫁ももらっておらんしここで末代になってたまるかぁっ!!!」


 魔王様ガッツでフ○チン勇者のかいしんのいちげきを受けきって見せた。頭上にはHP1という数字が出ているように見えたが多分幻覚である。


「これを! 凌ぐとは! 流石魔王!」

「…どうした……勇者……あとが無いぞ……」

「あとがマジでないのはお前の方だとは思うが、確かにこれが通じないとはヤバイ」


 フ○チン勇者は仰いだ。そして何かを覚悟したかのように深い溜息をつき、自分の頭を鷲掴みにした。


「俺は最後の一枚プライドを勝利の為にオネェ神に捧げる!」


 虚空をキラキラ光を散らせて舞う、一輪の金の華。勝利の犠牲となった矜持ズラだった。


「吾に最後の究極の力ワンパンを!!」



 後年、奇跡の大逆転ジャイアントキリング人類界征服キリングを達成した魔王は、その決戦の述懐するなかでこう語ったという。

 アレで負けていたら髪の差の勝負で文字通り危機一髪の勝利って揶揄されただろうけど、正直ヅラは着物じゃ無いよね、と。



                    おしまい




                  「また髪の話してる……」

                  「感じ悪いよね」

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