ユウとリョウタ、特殊詐欺の現場に居合わせてしまった

達見ゆう

奥様に特殊詐欺はオモチャである

 ある日の休日。僕ことリョウタと妻のユウさんはコンビニスイーツを買うために某コンビニに来ていた。

 僕としては酒のつまみとお惣菜も欲しかったが、まだ日は高い。それにユウさんが「これ以上買ってはメタボが加速する」と言って許してくれない。スイーツも僕は和菓子限定であった。


 とはいえ、それでもここのコンビニスイーツは和菓子も美味しいからいいが。


 どれにするかじっくり選んでいるその時、レジ付近で慌てる声が聞こえてきた。


「あ、あの、や、Yamazonのギフトカードください」


「いくら分でしょうか」


「さ、三十万円です。孫が急いでいるとか言って」


 店員も僕たちも一瞬固まってしまった。まさかこんなベタベタな詐欺現場に出くわすとは。


「あの、もう一度お孫さんに確認してみては」


「とにかく大変なのです。すぐに送らないと会社を首になるとか言ってて」


 店員が諭すも、おばあさんは興奮して聞き入れない。余計なことかもしれないが、僕は首を突っ込んでしまった。


「あの、割り込んですみませんが、それは詐欺と思います」


「とにかく急がないと! 孫が!」


 ダメだ、収まるどころがヒートアップしていく。このままだと被害に遭ってしまう。


 その時、ユウさんが動いた。


「おばあさん、孫はかわいいし大事だよね」


「ええ、そりゃもう大事な孫ですから」


「その孫を信じていないのか?」


「え?」


「あなたはその大事な孫が、三十万円ぽっちで会社を首になるようなヘマをするようなダメな孫だと思っているのか?」


「まあ、失礼な! 孫はそんなダメ社員ではありません」


「ならば、孫を信じているのならそんな電話を信じるのか? 矛盾してない?」


「う、そ、それは」


「携帯にかかってきたのならちょっと貸してくれ。リダイヤルしてみよう。念のため聞くがお孫さんの名前は?」


「た、タカシです」


「よし。リダイヤル、と。あー、もしもし?さっき三十万必要と電話したタカヨシさん? なんかコンビニでおばあさんが手こずっているから、手助けしている者だけど」


 なぜか妻は名前を変えてきた。ちなみにスピーカーホンにしているので、店内に丸聞こえである。


『え?そうだけど、おばあちゃんまだ買ってないの? 参ったな、急がないと首になりそうだ』


「そんなに急いでいるのか?」


『そうだよ、仕事でヘマやって取引先への損害金として用意しないとすぐにクビになりそうなんだ』


「ほほう、それは労働基準法に反しているな。アメリカならともかく日本では即日クビは認められていない」


『うちはブラック企業なんだよ! 口座振り込みできないから電子マネーにしないと』


「口座が使えない? 凍結か? それとも差し押さえられてるのなら相当経営がやばいな。そんな会社は間もなく潰れるから辞めた方がいいぞ」


『ゴチャゴチャ言わないで早く用意してよ、あんたならすぐに代わりに買ってくれるでしょ?』


「それからお婆さんから聞いた孫の名前と違うけどあなた誰?」


 その瞬間、電話が切れた。しかし、妻はリダイヤルして追撃する。


「途中で切るのは社会人失格だぞ。だからクビになりそうなんだ、わかってる?」


『……』


「そもそもヘマってなんだ? 取引先の支払い忘れか? そもそも損害金がそんなにキッチリした金額なのもおかしい。ヘマというのは数日経って判明するのがお約束だ。そうなると遅延損害金が商行為だと日割で六%かかるから、えーと」


『すみません、勘弁してください』


「いやいやいや、社会人としてマナーも常識も足りないようだからとことんしてやらないとなあ」


『うわぁぁ! もういいです!』


 ややトーンを低くした声でユウさんが言うと再び電話が切れた。


「チッ、根性ない奴だ。はい、電話お返しします。ギフトカードは買う必要無いのわかったでしょ? 危機一髪だったね。店員さん、警察に通報してくれる?」


「は、はい」


「あ、ありがとうございます。落ち着いて考えれば、自慢の孫がそんなヘマなんかしないと信じなかった私も恥ずかしいです」


「いえいえ、危ないと思って余計なことをしてしまいました」


 お婆さんはさっきまでの興奮が収まって少し顔が赤い。


「何かお礼させてください」


「んー、そこまでは。そうだな、ちょうどお菓子を会計するところだったから奢ってください。それでいいです」


「それだけじゃなんだから、もう少しお菓子を奢って差し上げます」


 こうして僕たちは予定より多めのコンビニスイーツを奢ってもらったのだった。


「リョウタ、メタボ予防に最初の和菓子以外は禁止な」


「そ、そんな」


「残りは私がいただく。しかし、もうちょっとあの詐欺師おちょくりたかったな」


 うちの妻は時々鬼嫁になる。そして悪人と認定した者には容赦無い。


「僕は悪人じゃないのにユウさんは冷たい」


 スイーツでずっしりの袋を持ちながら僕は心の中でむせび泣くのであった。





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ユウとリョウタ、特殊詐欺の現場に居合わせてしまった 達見ゆう @tatsumi-12

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